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餓死事件に思う - 富吉賢太郎

 さいたま市で起きた親子3人餓死事件。60歳代夫婦と30歳代の息子に何があったのか。飽食日本で、こんな餓死事件が頻発するのはなぜだろう。

 何年か前、手にして衝撃を受けた1冊に『池袋・母子餓死日記』(公人の友社・編)がある。これは、大都会・東京のど真ん中で人知れず餓死していた77歳の母親が書き残していた日記である。A6版のノート10冊。発表を目的にして書かれたわけではない人の日記が、なぜそのまま出版されたのか。「これを誰かに読まれたら都合が悪い」と、日記を隠し持っていた区役所が世論に押され、仕方なく「豊島区情報公開条例」に基づいて一般公開したからである。

 年老いた母親と、病気で寝たきりだった41歳の息子の遺体が発見されたのは1996年4月27日。死後どのくらいたっていたのか、母親の日記は3月11日までつづられていた。なぜ二人が死に至ったのか。生活保護はなぜ受けられなかったのか。行政にとっては知られたくない事件の背景が日記から、いろいろ浮かび上がってくる。

 日記には何度も「区役所」が出てくる。「1月28日 いくら区役所に頼んでも、私どもはまともに世話をしてもらえないし…」「3月8日 もう長い間、息子も私もちょっとだけのお菓子で過ごしている。いよいよ食事の終わりになる。28円だけ残しているが…区役所は…」

 こんなふうにして福祉の谷間に追いやられる人たちがいる。

 「自己責任」とか「勝ち組・負け組」といった言葉が平気で言われる社会はどうも生きにくい。物あまりの国・ニッポンで餓死や孤独死があり、生活苦で自殺する人が急増しているのは、なにかこの国のシステムに欠陥があるからだろう。

 私は、郡部の田舎暮らしだが、近くの橋の下で寝起きするお年寄りがおられた。小さなリヤカーに体を折り曲げ、冬は寒さに身を縮め、夏は耳障りな蚊に悩まされながらの生活である。ビルの谷間ならいざ知らず水田ばかりのこんな田舎にホームレスとは。ひと昔前までは考えられなかったことで、セーフティーネットである国の「生活保護」が機能していないのかもしれない。

 何年か前、京都地裁であった“介護殺人”裁判のニュースも涙なくしては読めなかった。86歳の認知症母親を抱えた54歳の息子が「もうあかん。金もない。一緒に死のう」と母親を殺し、自殺を図ったが死にきれず承諾殺人罪に問われた事件である。10年にわたる介護の重圧。休職した息子は蓄えが減って追いつめられていく。地元の福祉事務所に生活が持ち直すまでの生活保護を懇願するが、窓口では「あなたはまだ働ける」と冷たい。職安にも足を運ぶが50代という年齢と認知症の母を抱えた条件では職を見つけることはできなかったらしい。

 生活保護は憲法で保障された「生存権」の具体化だが、どうも、その機能と運用にはいろんな課題があるようだ。本当に必要な人たちになかなか制度が適用されない一方で、不届きな者たちによる不正受給がまかり通る。倫理観の欠如、モラルハザード、この国の危うさが見てとれる。

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