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11日間のブラック研修を経験した新卒社員(23)の体験談 「同期が過呼吸で搬送された」「頭は冷静なのに涙が止まらない」

大声で何度も挨拶する、社訓を暗唱する、教官に人格を否定される――度々「ブラック研修」という言葉を耳にするが、実際に研修を受けるとどうなるのか。今回はこの春、新卒で入社し11日間に渡る研修を耐え抜いた山上彰さん(仮名 23歳)に話を聞いた。

山上さんはこの春、設備工事系の会社に営業として入社した。研修は入社式翌日から郊外のセミナーハウスで行われた。最初にセミナーハウスで昼食をとったが、

「他のテーブルには別団体がいて、全員灰色の服を着用して大声で一斉に『いただきます』って言ってるんですよ。僕たちの近くを通るときは『お疲れ様です!』ってハキハキ挨拶して、同期と『洗脳だね』『あれはヤバイ』ってバカにしてました」

といい、「まさか自分たちも、あちら側の人間になるとは思いませんでした」と語る。

朝6時の起床から23時の就寝までびっちり「全力の挨拶」「社歌を大声で歌う」

ある日のスケジュール

午後から研修が始まった。研修室の扉が開き、教官が「失礼します!」と威勢よく挨拶をした。山上さんは先刻の食堂の様子を思い出し、「ブラック研修だ」と察したという。昼食までは比較的自由だったが、この時を境に変わった。

「例えば基礎訓練と呼ばれる研修では『全力の挨拶をしろ』と言われます。大声で挨拶しても、何度もやり直させられるんです。自習時間もゆっくりイスの準備をしていたら『やる気がないからやり直し』と言われたり。少しの気の緩みも許されなくて、休憩もほんの少し。みんな苛立ってました」

そして、「本当は撮影禁止なんですけど」と、掲示板に貼られた研修のスケジュールを見せてくれた。スケジュールは朝6時の起床から23時の就寝まで、びっちり予定が埋め尽くされている。

会社で取り扱う商材の説明や「社会人の心得」なるものもあったが、大半を「基礎訓練」が占めていた。時には1日3回開催されることもあった。また就職した会社の社訓を一言一句間違えずに暗唱したり、社歌を暗記し大声で歌ったりする研修もあった。

「研修も終盤には、この社訓を1分半以内に暗唱するテストが行われます。『てにをは』を間違えてもやり直しなので真剣でした。社歌も大声で歌わなくてはいけなくて……小休憩はあるものの、何時間も大きな声を出し続けるのは肉体的につらかったです」

40キロ歩行を強要されるも「研修で初めて外に出られた。解放感があった」

研修期間中は6時半から体操をし、朝食・昼食・夕食が各1時間ずつ、消灯までの完全な自由時間は入浴を含み1時間しかない。

「食事も研修の一つという考えで、挨拶、礼儀、食べる早さや動きなど多くのことを注意されました。部屋に出入りする時、人とすれ違った時も挨拶をしなければいけないので、自由時間はずっと宿泊室の中にいました」

わずかな自由時間で山上さんを支えたのは読書だった。最初は志賀直哉の『小僧の神様・城の崎にて』を読んでいたが、「甘えた生き方しやがって、と思ってカフカの『ある流刑地の話』を読み始めました。カフカはいいですね」と話す

楽しかった研修を聞くと「グループ演習でしょうか。仲間と一緒に課題に取り組み、自分の頭で考えているという実感があるものは楽しかったです」と話す。また「4日目に行われた40キロ歩行も、歩いている間は楽しかったです」という。

「昼食後にスタート、夜まで40キロを歩く訓練です。事前に『社会人の意識を持って挑め』と言われていましたが、監視もないので緊張しませんでした。研修で初めて外に出られたので解放感がありました。みんなで色々和やかに話していたものの、疲労がたまり、中には脚を引きずりながら歩いている人もいました。それでも最後まで楽しく、支えあいながら歩きました」

長距離歩かされるとはいえ、気詰まりする研修より気持ちは楽だったようだ。しかし「ゴールしたときは会社の役員や先輩が勢揃いしていて、拍手で迎えられていてゾッとしました。でも感動している同期もいました」と話す。しかし中には体調不良を訴え、2日後に途中帰宅した同期もいた。

終盤、親へ手紙を書く研修で啜り泣く声「本格的にヤバイと思って、退職を決意」

過酷な研修だが、不満は出なかったのか。「みんながいるときは励まし合い、注意し合い、褒め合ってましたが、1対1になると不満を言い合っていましたね」と語る。

研修終盤、社歌の暗唱の審査が行われた。

「一人ずつ防音室で行われ、待っている間、他の人は研修室で練習していました。でもあまりにも大声を出すせいで社歌が聞こえてきましたし、比喩表現なしに窓が震えるほどの声量でした。審査本番はもちろん、みんな必死に練習していた姿を見ていたので、戻ってきた人の結果に一喜一憂し、一緒に涙しました」

ただ、過呼吸で倒れ、救急車で運ばれた人もいるという。山上さんは「みんな一心同体の精神やってきていたので……仲間の搬送は大きな心の傷となりましたね」と語る。ブラック研修を受け、その環境に慣れつつあったという。しかし家族への手紙を書かされたとき、正気に戻ったという。

「しばらくすると周りから啜り泣く声が聞こえました。本格的にヤバイと思って、手紙には『申し訳ないけど退職すると思う』と書いたことを覚えています」

ブラック研修は「うちの会社はいい人ばかり」と言いながら人の心を壊してくる

研修が終わったとき「ようやく終わったと晴れ晴れした気持ちになりました。この研修を乗り越えたんだという自信もつきましたし、同期の結束はとてつもないものになっていました」という。ただ「翌週から実務研修が始まることへの緊張感はありました」と語る。

「11日ぶりに家に戻り、親に研修のことを愚痴っていると、親が会社を擁護することを言ってきて、気がついたら泣きわめいて物を投げていました。その後も研修の話をしようとすると、頭は冷静なのに涙が止まらないんです」

翌日には退職届を出した。その時の解放感は今まで経験したことがなかったほどだという。現在は転職先でのびのび働いている。改めて研修について聞くと、

「あの研修が伝統というのもわかります。教育方針も、わかります。研修を受けて自分の驕りを指摘され、気づくこともできましたしね。でもやりすぎです。『うちの会社はいい人ばかり』と言いながら、人の心を壊してくるとこに矛盾を感じました」

と語った。

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