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「デマ」と呼ぶのはやめよう

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このところ、大きな自然災害が続いている。

2018年9月4日に日本上陸した台風21号は関西地方を中心に大きな被害をもたらした。強風で多くの建物が破壊され、高潮もあいまって関西国際空港の滑走路やターミナルビルに浸水、さらに関西国際空港連絡橋にタンカーが衝突して連絡橋が一時通行不能になった。同6日早朝に発生した北海道胆振東部地震はM6.7の規模で、北海道で初めて震度7を記録するなど、各地で土砂崩れや液状化が発生しただけでなく、道内全域で停電が発生した。

こうした大災害時につきものなのがうわさや流言の類だ。今回も御多分に漏れず発生した。中でも北海道の地震に関しては、断水や携帯電話が使えなくなるといったものが広く流布し少なからぬ混乱を招いた。

「地震で市内全域断水」はデマ 札幌市水道局が注意促す
朝日新聞2018年9月6日
北海道地震で拡散「4時間で携帯電話が使えなくなる」をドコモが否定、ただしすでに不安定なエリアも
BuzzFeed News 2018年9月6日
北海道地震で「地鳴りデマ」が拡散、避難者が相次ぐ 異例の注意喚起も
BuzzFeed News 2018年9月9日

見ていると、こうした記事では、ソーシャルメディアなどで拡散される、根拠が定かでないうわさの類を「デマ」と称することが一般的になっているようだ。しかしこの呼称はあまりよくないのではないか、と思う。デマをデマと判定するのはいうほど簡単ではない、という話は藤代さんがこちらの記事に書いておられるのでそちらをご参照。以下、ちょっとちがった観点から。

「4時間後に携帯が使えなくなる」はデマなのか?安易な記事化が被災地の混乱を増す
Yahoo!ニュース個人 - 藤代裕之 2018年9月13日

専門でもないし詳しく調べたわけでもないが、「デマ」ということば古代ギリシアの煽動的民衆指導者(δημαγωγός: dɛː.ma.ɡɔː.ɡós)に由来するものと理解している。英語だとデマゴーグ(demagogue)であり、我らがWikipediaによると「デマゴーグは普通、国家的危機に際し慎重な考えや行いに反対し、代わりに至急かつ暴力的な対応を提唱し穏健派や思慮を求める政敵を弱腰と非難する」とある。ドイツ語では政治的な目的を持ったプロパガンダのようなものをdemagogieと呼ぶようだが、これもその意味に近いのだろう。いずれにせよ、出所のはっきりしないうわさという意味合いは薄いように思われる。

英語だとこのことばはあまり聞いたことがない。あるのかもしれないが、ネットで検索してもドイツ語のページばかりヒットするし。一般的なうわさや流言はrumorと表現することが多いと思う(最近、そのうち意図的に虚偽を広めるものはrumor bombと呼んだりもするらしい)。

上掲記事における「デマ」は、政治的な扇動やうわさの要素もまったくないではないのだろうが、少なくとも日本では、もっと広く「ウソ」やその拡散を指すという意味で使われているのが一般的だと思う。このような意味での「デマ」が日本ではいつごろから使われているのか、例によって大学が契約している朝日新聞のデータベース『聞蔵Ⅱ』で調べてみた。

「デマ」でまっさきに思い出すのは1923年の関東大震災時の朝鮮人に関するデマだ。しかし当時の記事には「デマ」ということばは見つけられなかった。たとえばその翌年のこの記事では「流言蜚語」と表現されている(本題からはずれるが当時からこれが「流言」、すなわち根拠のない話と解されていたことに注目)。

朝日新聞1924年(大正13年)1月7日朝刊
「続々帰国する鮮人労働者 素直で評判だつたが今では僅か三千五百名」
・・・昨年のあの大震災で朝鮮人に対する流言蜚語は遂に悲しむべき屠殺事件を起したので以来朝鮮人の帰国は日に一萬にも上る事さへあり現在東京に在住する朝鮮人は當時よりずつと減つて警視庁内鮮係の調査によると三千語百餘人にしか足りない・・・

では「デマ」の初出はというと、調べた限りでは1930年のこの記事。一時は大阪朝日新聞社にも属した外交官柳沢健氏のコラム的な文章だ。

1930年(昭和5年)6月27日朝刊
「デマと批評と」
・・・要するに、かうまでして自分の文章を故意に曲解し変解してソヴイエツトを擁護しようとするその無批判さに對してこそ、自分の文章は直接に向けられ有効に役立つのである。自分ににくむべきものがありとすれば、自分にいまだ眞相の判明せざるソヴイエツトでは決してなくて、眞相のことごとくはつきりしてゐる諸君のデマ的態度なのである。

ここでいう「諸君のデマ的態度」というのは、これに先立つ柳沢氏の著書がソビエト(この当時はロシア社会主義連邦ソビエト共和国)を批判したものと受け取った親ソビエトの人々が柳沢氏を批判していることを指しているようで、政治的意図をもった扇動の方に近い意味で使われていることがわかる。根拠のないうわさや流言を指したものとはいえないだろう。つまり、元の意味での「デマ」の用例も当初からあったわけだ。

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