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「疲弊しきっていた官僚政治からの脱却」 ―内閣人事局の重要性― - 屋山太郎

「内閣人事局」は評価されてしかるべきだ。それなのに「官僚のやる気をなくしている」と批判されることが多い。内閣人事局というのは各省幹部約600人の人事は内閣人事局の評価を聞いてから行うというものである。

この発想は第1次安倍内閣の頃に浮上したが、福田、麻生政権の時代は両首相に嫌われてできなかった。続いて民主党政権の時代は内容が全く理解されず、第2次安倍政権に入って再浮上。「断固やるべし」と政権の意思が固まって成立した。

官僚は今でもこの内閣人事局を設置したのは間違いと思っているようだが、設けた目的は官僚に勝手に政治をやらせないためである。日本の官僚の通弊は「局あって国なし」というものである。国益に沿わないと分かっていても省や省傘下の業界が損をするなら断固、権益を守るという精神だ。

最近では加計学園の獣医学部新設問題があったが、知りたい最大の問題はなぜ52年間も獣医師の定員が動かなかったかである。新規参入を防ぐのが既存の業界のやり方で、それを守ってやって役所は天下りポストを得る。あるいは権威を示し得る。政治が獣医師の定員を増やすべしと考えれば、局長や次官に定員増が正しいと考えている人物を選んで据えておく。これで官僚政治を是正し得る。

政治の側が規制改革をすべきと判断したその時は規制改革派の人材を登用すべきなのだ。そういう人事配置をしていなかったから、前川喜平氏を次官に据えたりしたのだ。「面従腹背」を座右の銘とするような人物を局長や次官に就けないためにこそ「内閣人事局」がある。

官僚の世界では次官の存在は絶対で、大局的判断は抜きに、何が何でも上司の真似をする。真似をしてさえいれば自分も次官になれると考えるのが官僚の世界の常識だ。この常識を打ち破るために、政治の意思を心得た人物を物色し、人事に反映させるのが「内閣人事局」の役割で、官房副長官の一人が局長を務める。

財務省の幹部は全員が揃って「財政健全派=増税派」だった。安倍首相はこの中で脱デフレ、アベノミクスを断行しようというのだから、次官の人事に重要だった。本線上に乗っていない人物を財務次官にする一方で、経産省に人材を求めた。

 昔は国際交渉などで日本が決定を出すのが最も遅かった。課長、審議官、局長、次官と皆が一挙にハンコを押すわけではないから、小さな許諾事項でもOKの返事が来るのに一週間かかった。閣僚会議に出席している大臣が4日も5日本省の返事を待つわけにはいかないから日本のせいで国際会議が流れた。まさに官僚政治そのものだった。

 日本は幕府のあと官僚によって政府が作られた歴史があるから、政治家が自分が最大の責任を負っているという自覚が薄い。

 憲法41条によって官僚は立法府に従う。それを確実にするのが「内閣人事局」だ。

(平成30年9月12日付静岡新聞『論壇』より転載)
屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生れ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、ローマ特派員、官邸クラブキャップ、ジュネーブ特派員、解説委員兼編集委員を歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。「教科書改善の会」(改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会)代表世話人。
著書に『安倍外交で日本は強くなる』『安倍晋三興国論』(海竜社)、『私の喧嘩作法』(新潮社)、『官僚亡国論』(新潮社)、『なぜ中韓になめられるのか』(扶桑社)、『立ち直れるか日本の政治』(海竜社)、『JAL再生の嘘』・『日本人としてこれだけは学んでおきたい政治の授業』(PHP研究所)など多数。

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