記事

「日本に勝って兵役免除」が韓国で批判されるワケ - 澤田克己 (毎日新聞記者、元ソウル支局長)

アジア大会や五輪に出場する韓国選手をめぐって話題になるのが兵役免除である。インドネシアで今夏行われたアジア大会では、サッカーのイングランド・プレミアリーグでプレーする孫興民(ソン・フンミン)が対象になることでも注目された。今大会では結局、サッカーと野球は決勝で日本を下して金メダルを獲得した。

 ただ、ライバル日本に勝って堂々と兵役免除を喜ぶのかと思いきや、そうでもないようである。むしろ批判世論が台頭し、韓国政府は制度の再検討を表明した。廃止となる可能性は低いだろうが、徴兵制度はすべての国民にかかわる重大な関心事であるだけに議論はヒートアップしている。

[画像をブログで見る]

日本と台湾は社会人、韓国はプロだった野球代表

 特に問題視されているのは、国内のプロリーグを中断してアジア大会に臨んだ野球である。野球は代表選手を選抜する時から、まだ兵役免除の権利を得ていないプロ選手を優先しているのではないかと批判された。しかも全員をプロで固めたにもかかわらず、社会人野球の選手が中心の台湾との対戦となった予選グループBの初戦は1対2で敗れた。決勝で戦った日本も、プロ選手抜きのチームだった。

 そもそもアジア大会の野球では、日本と台湾に勝てば優勝する可能性が高い。それだけに「勝つのが難しいWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)への出場は避けようとするのに、相対的に大会のレベルが低いアジア大会には先を争って参加しようという姿まで見せた。プロ選手として高額年棒を得ながら兵役免除まで簡単に受けようとする姿が国民の怒りを買った」(聯合ニュース)という論評まで出た。

 WBCは競技レベルが高いだけではなく、実は兵役免除の対象になっていないという背景もある。兵役を免れたいという選手の思いと、兵役で主力選手を失いたくない球団の事情のどちらも理解できなくはないのだが、韓国の国民、特に若い男性たちは強い不公平感を抱かざるをえないだろう。

 陸軍で兵役を済ませたという30代の知人男性は「サッカーは、韓国がアジアで図抜けて強いとは言えない。だからまだ理解できるけど、野球はひどいよ。プロで固めたのが韓国だけというアジア大会での優勝で兵役免除なんて」と息巻いていた。

 韓国プロ野球界は結局、4年後のアジア大会からは期間中のリーグ中断をしないと表明するまで追い込まれた。

ころころ変わってきた兵役免除の対象

 ここで「あれ? WBCは兵役免除の対象じゃないの?」と思われた読者は記憶力の良い人だろう。WBCでの4強入りが兵役免除の要件になっていたこともあるからだ。実は、兵役免除の対象はころころ変わっていて、この点も批判の対象になっている。

 韓国兵務庁によると、兵役免除の制度は軍事独裁だった朴正煕政権下の1973年に国威発揚につなげようと導入された。まだ貧しい開発途上国だった韓国では五輪メダリストの量産など考えられなかった時代だ。それだけに、五輪だけでなく世界選手権とユニバーシアード、アジア大会、アジア選手権どれでも3位以上なら対象とされた。さらには、韓国体育大の卒業成績上位10%以内という“大盤振る舞い”までされた。

 これが、1988年ソウル五輪を経てスポーツ強国となってくると、さすがに対象者が増えすぎたことで批判世論が強まった。そのため90年に基準を「五輪の銅メダル以上、アジア大会は金メダルだけ」と対象を大幅に縮小された。そこへ2002年のサッカー日韓ワールドカップ(W杯)でW杯16強以上も対象に加えられた。

 地元開催のW杯を盛り上げ、悲願だった16強進出をということだったのだろう。さらに06年にはWBC4強以上も兵役免除とされたものの、08年の制度改正でW杯とWBCは対象から外された。現在の対象は再び、「五輪の銅メダル以上、アジア大会は金メダルだけ」である。

クラシックは良くて、なぜBTSは駄目なのか

 朴正煕政権が導入した兵役免除の対象はスポーツだけではなく、芸術も対象とされた。当初の基準は「国際規模の音楽コンクールで2回以上の優勝または準優勝」である。こちらも時代によって対象の大会が移り変わる。一時は、国際音楽コンクールが123大会、舞踊が17大会、国際コンクールのない伝統芸能分野の国内コンクール8大会にまで増えたが、さすがに多すぎるとなって現在は48大会119部門の上位入賞者が対象となっている。

 ただし、こちらはピアノやバイオリン、韓国の伝統芸術といったクラシック系が対象で、K-POPなどの大衆芸能は入っていない。ところが最近の韓国では、K-POPが世界で愛されているという話題で盛り上がることが多い。

 クラシック芸術での国際コンクール優勝より、「江南(カンナム)スタイル」の世界的流行や防弾少年団(BTS)のビルボード・アルバムチャート1位の方がずっと身近で誇らしいのだ。それだけに国会でも「クラシックならよくてBTSがなぜ駄目なのか」という疑問が提起された。

 文在寅政権が8月末に発表した内閣改造でも兵役免除が問題となった。副首相兼教育相に指名された女性政治家の二男が膝の靭帯破裂を理由に兵役を免除されていたからだ。もちろん病気やケガも正当な理由ではあるのだが、有力政治家の息子の兵役免除は「またか」と受け止められる。結局は「のど元過ぎれば…」となるような気もするのだが、兵役免除はしばらく熱い問題となりそうだ。

あわせて読みたい

「韓国」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    イモトのWiFiまだ使う情弱に助言

    永江一石

  2. 2

    立憲民主党は消費増税の対案出せ

    鈴木宗男

  3. 3

    織田裕二が坂上忍に絶縁通告か

    女性自身

  4. 4

    外国人大歓迎 裏目にでた観光地

    MAG2 NEWS

  5. 5

    色あせる中国 金融の舞台で矢面

    ロイター

  6. 6

    TBS宇垣アナがキレた同期の一言

    文春オンライン

  7. 7

    消費増税を批判しない野党に疑問

    やまもといちろう

  8. 8

    元民主議員 仙谷氏の訃報に驚き

    大串博志

  9. 9

    日本の伝統を理解してない杉田氏

    岩田健太郎

  10. 10

    政治的発言許されぬ日本の芸能界

    篠田博之

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。