ヨーロッパ経済と聞くと、「ああ、あそこはムチャクチャになっている。当分、復活できないだろう」という認識を多くの投資家が持っています。
そういう色眼鏡で世の中を見るから最近のデータに示されているポジティブな変化を見落としてしまうのです。
投資というものは皆が心配していることを自分も一緒になって心配してもそれで他人を出し抜くことはできません。
将棋やチェスで言うところの
次の一手について考えないとダメなのです。
ギリシャ問題が最初に発覚したのは2009年の暮です。今は2012年ですから、あれからかれこれ足かけ3年が経とうとしているのです。普通、どんなに景気が酷い状況であっても3年くらい悪い状態が続くとそろそろ次の展開を考えるべき時期なのです。
2012年という年はヨーロッパの崩壊を論じるべき年ではなく、ヨーロッパが若し復活してしまったら、どうなる?という事を考えないといけないのです。
そこで今日発表されたZEWという調査会社の出している景況感指数をご覧に入れます。
上のグラフはドイツのカレント・コンディション、つまり「現在の景気はどうですか?」という質問に対する答えです。ここでは前月からの増減を示しました。2012年1月に+1.6とひさしぶりにプラスになったのみならず、2月には+11.9と急改善している点に注目して下さい。
同じZEW景況感指数のカレント・コンディション指数のドイツ、フランス、イタリアのグラフを次にお見せします。
ドイツの回復が顕著ですが、フランスやイタリアには改善が見えません。
さて、ZEW調査には現在の景況感(カレント・コンディション)の他に将来の景気の予想(Economic expectations)があります。
普通、「ZEWの結果が、、、」と言った場合、この将来の景気の予想について言及している場合が多いです。今回のドイツの数値は5.4で前月比の増減は+27.0でした。さらにフランス(数値は-13.0、増減は+17.1)、イタリア(数値は-18.6、増減は+18.4) も改善を見ています。
欧州の景況感の改善には去年の12月に発表された欧州中央銀行(ECB)による
LTROという緩和政策が一役かっています。
LTROとはロング・ターム・リファイナンシング・オペレーションの略で日本語では3年物流動性提供オペと翻訳されています。その目的は銀行が自らのファンディングのロールオーバー、つまり借り換えを円滑にすることを助けることにあります。
去年、欧州財政危機が深刻化した際、欧州の金融機関同士がお互いに相互不信に陥り、お金の融通を嫌がるということが起こりました。
銀行は短期市場から沢山お金を調達してきて、それを運用して儲けています。だから短期の資金を調達できなくなると銀行システムそのものが凍りついてしまうのです。
ECBはパタッと止まってしまった銀行間の貸借活動を見て、それじゃ急場しのぎにECBがお金を貸しましょうと宣言しました。これがLTROなのです。
銀行はECBにめぼしい担保になる物件を何でも持ち込み、ECBはそうやって持ち込まれた担保を裏付けにどんどんキャッシュを銀行に渡しました。
さて、LTROの効果については疑問を挟む市場関係者も居ます。彼らの主張はLTROを実施したからといってすぐに銀行がキャリートレードなどのリスク・テーキングをはじめるわけではないという議論です。その指摘は確かに正しいです。
ただ当座ECBに出来る選択肢としては政治的に制約が無い有担保融資しか無かったのです。
だからLTROが一足飛びに長期債の買い需要を刺激したというわけではないけれど、少なくとも酸素補給をしたという意味では欧州の銀行は凄く助かったのです。
さて、
次のLTROは2月28日に実施される予定です。あくまでもラフな予想ですが5,000億ユーロ程度の需要があると思います。
LTROとQEの違いを説明しておきます。QEの場合は中央銀行が銀行の持っている債券などを買い入れ、それと引き換えにキャッシュを渡します。だから銀行のバランスシートは改善します。
一方LTROは銀行が持っている資産の所有権はそのままにECBがその担保に対して貸付を実行します。これはその担保となっている資産の価値が毀損した場合、担保価値の値下がりリスクから銀行が逃げられないことを意味します。ただECBがどんな担保でも文句を言わずにキャッシュを貸し続けるというコミットメントがあれば、それはそれらの担保価値の怪しい証券類の価格を下支えする意味があるのです。
またLTROはECBが実質的に輪転機を回してユーロ紙幣をどんどん印刷することを意味します。それは為替をユーロ安へ導く効果があります。
ユーロ安がドイツにとってメシウマなシナリオであることは過去に何度もMarket Hackで書いてきました。
例えばバスケットボールの試合で劣勢になったチームのコーチはどうすると思いますか?
手遅れにならないうちにタイムを取って選手を集め、試合の流れを変えるための作戦を練るはずです。
若し自分のチームのエース・シューターにボールが回らないのであれば、この一番得点出来る選手になんとか玉を集めるための方策に知恵を絞らなければいけません。
ドイツの場合、そのエース・スコアラーとはつまりBMWであり、ダイムラーなのです。そうやって1点、また1点とスコアを挽回してゆく努力をこの国はちゃんとやっているということ。
翻って日本を見た場合、政府や日銀はエースであるトヨタやSONYにボールを回すための具体的なプランに関しては全く無策です。
コーチ失格ではないでしょうか?
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米国の投資顧問会社で活躍中。BRICsの経済動向に詳しい