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そして甲子園球児たちは、他競技でトップアスリートになった - 高校野球は人材の宝庫だ - 山崎 ダイ

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「アカン。この人、ハンパないわ――」

【写真】俊足外野手から日本屈指のトップスプリンターになった村田和哉

 学生時代にアメリカンフットボールに打ち込んでいた頃、富士通フロンティアーズというチームの練習に参加させてもらったことがあった。フロンティアーズと言えば、日本一に何度も輝いた社会人リーグの強豪で、当時も多くのアスリートが所属していた。

「高校時代は3番手ピッチャーだったんだよ」

 中でも衝撃を受けたのは、植木大輔という日本代表選手の動きだった。

富士通フロンティアーズ時代の植木大輔さん ©AFLO

 身体は決して大きくはない。だが、スピードもパワーも異次元。何より驚かされたのは全身がバネの塊のような瞬発力だった。「こういう人が日の丸を背負うんだなぁ」と妙に納得した記憶がある。

 だが、そんな身体能力のインパクト以上に驚いたのが、練習後の雑談で彼が漏らしたこんな一言だった。

「高校時代は野球をやっていたんだけど、3番手ピッチャーだったんだよ。甲子園までは行けたんだけど、1回もマウンドには立てなかったなぁ」

「ウソだろ」と思った。

 これだけの能力のある人でも試合に出ることすらできないなんて――。「高校野球」という世界には、どんな化け物がいるんだろうか?

甲子園の土を踏めるのはほんの十数人

「僕の時代の近江高校野球部は、部員も100人以上いましたからね。1番手、2番手の投手は各プロ球団も注目の選手でしたから、レギュラー争いは厳しかったですよ」

 今、38歳になった植木は、自身の高校時代をそう振り返る。

 滋賀県出身の植木は、中学時代は軟式野球に打ち込んだ。だが、チームは市大会で敗れるレベルで、野球は高校では続けるつもりはなかったのだという。

「最初は高校へ行かずにボクシングで世界チャンピオンを目指すつもりだったんです(笑)。でも、いろいろあってそれが頓挫して、たまたま近江高校に入学した。最初の1カ月は帰宅部だったんですけど、当時の野球部の監督やクラスメイトが経歴を知って声をかけてくれて」

 当初はその部員の多さや、先輩たちの身体能力の高さに驚いたという。近江高校は、今年の夏の甲子園(100回記念大会)にも出場し、1回戦で優勝候補の一角とされていた智弁和歌山から勝利を挙げている。

「常連校と言っても、甲子園の土を踏めるのはほんの十数人。1年生だった1996年にチームが出場した夏の甲子園で運よくボールボーイをやらせてもらって、それで球場の雰囲気を感じて一気にやる気に火がついた感じでした」

チームは春・夏ともに甲子園に出場したものの

 166cmの小柄な身体に宿った負けん気の強さが呼び起され、そこからは必死に練習を積んだという。普通の選手が10km走るところを20km走る。持ち前の気持ちの強さをマウンドでも発揮する。そんな地道な努力も実を結び、2年生からはベンチ入りできる3人目の投手に選ばれた。

 だが、同時に感じることもあったという。

「やっぱり僕から見ても1番手、2番手の投手は球が違いました。プロのスカウトが来る時もありましたが、まずは2人が投球練習をして、それから僕という感じ。2人との間には線が引かれていた感じがありました。そこはシビアな世界だなと思いましたね」

 3年時もチームは春・夏ともに甲子園に出場したものの、植木は故障もあり、マウンドに立つことはできなかったという。

「2年生の秋大会では凄く良い投球ができたんですが、そこでの無理もあってケガをしてしまったのが大きかったですね。最後の夏もベンチ入りはしたんですが、甲子園のマウンドに立つことはできませんでした」

野球は「センスのスポーツ」

 その後は当時の野球部監督の勧めもあり、大阪産業大学でアメリカンフットボールを始めると、その才能は開花。大学のオールジャパンに選ばれるなど、躍進を果たした。

 大学卒業後の社会人でも活躍を続け、前述のように09年から11年までは日本代表にも選出。海外勢を相手にも低く、強烈なタックリングを見せるなど、日本チームの中でも特筆すべき結果を残した。

 そういった経験を経た上で、植木には思うことがあるという。

「野球とアメフト、2つのスポーツを経験して思ったのは、アメフトは努力による伸び幅が大きい。一方で野球は『センスのスポーツ』だということです。例えば時速150km近い速球を打つときに、数センチのミートポイントの差を調整するというのは、身体能力ではなく感覚能力だと思うんです。

 高校時代を振り返っても、身体能力は僕よりはるかにすごい選手がたくさんいました。でも、それと野球が上手いというのはまた全然、別の話なんです。そういう部員の中には試合に出ることなく終わってしまう選手もたくさんいましたけど、彼らがもし、僕のように別の競技に目を向けて挑戦できていたら、すごく活躍した人もいるんじゃないかと」

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