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そもそもインフレ・ターゲティングとは何か

2012年02月13日 08:19

久保田博幸

 インフレーション・ターゲティングとは、物価上昇(インフレ)率の目標値(または範囲)を設定・公表して、その達成に向けて中央銀行が金融政策運営を実施するという金融政策の「枠組み」である。

 インフレ・ターゲティングとは、金融政策の最終的な目標である「物価の安定(pricestability)」を達成するにあたり、「物価の安定」を客観的に観測可能な物価指標(例:消費者物価指数)を用いて具体的数値(インフレ率や物価水準の目標値・範囲)で定義した上で明示し、その達成に向けた金融政策運営にコミットすることにより、金融政策の透明性(transparency)や説明責任(accountability)を高め、金融政策に対する国民の信認(credibility)を高める、という金融政策運営の枠組みである(財務省、武内良樹氏のレポートより、「インフレ・ターゲティング」  http://dl.ndl.go.jp/view/download /digidepo_1004555_po_f1607b.pdf?contentNo=1)

 1931年から1937年までスウェーデンでは、price-level target(物価水準目標)政策を採用した。 これを除くと過去にインフレーション・ターゲティングを採用したのは、1988年4月のニュージーランドが最初と言われる。その後、1992年10月に英国、1993年の北欧2国等と導入が続いた。

 ニュージーランドの中央銀行であるニュージーランド準備銀行は,年度始めに政府側の代表である財務大臣との間で法律に基づいて物価安定のために金融政策を実行するという契約書を取り交わすが、これがPTA(Policy Targets Agreement)と呼ばれる政策目標協定で、この中で目標インフレ率を設定する。そして、同国の準備銀行法第49条では「準備銀行が、財務大臣との合意(PTA)に基づき決定された政策目標の達成を確保するにあたる総裁の実績が不十分であった」場合、総裁を罷免できるとされている。ただし、総裁罷免権が実際に行使されたことはない。

 また、イギリスにおける金融政策の目標は、物価の安定を維持すること及び、成長及び雇用目的を含む政府の政策を支持することと規定されている(改正法第11条)。そして財務省が「物価の安定」の内容を決定し、政府の経済政策を具体化する責任を負っている。インフレ目標値から1ポイント以上乖離した際にイングランド銀行総裁は、金融政策委員会の議長として財務相あて公開書簡を作成しなければならない。具体的にはインフレーション目標は毎年の予算教書で明示されている。それは、2004年1月以降は消費者物価指数(CPI)で2%とされている。

 制度として説明責任を明確に課している国々としては、英国、ニュージーランド以外ではタイ、ブラジル、南アフリカ等の国々がある。

 そして米国であるが、米国の中央銀行制度では、物価安定と雇用最大化を促すというデュアル・マンデートとも呼ばれるFRBの2つの使命(目的)を持っている。このため、そもそもインフレ・ターゲティングは採用できないとしていた。2つの任務を与えられている中で、物価についてのみ具体的な数値目標を示すことは、雇用を軽視するスタンスと受け取られ、議会との関係でも受け入れられないとのことであった。このあたり、1月にインフレ目標をFRBが設定する際には、バーナンキ議長などが議会に根回しをしていたとの観測もあった。

 FRBの金融政策には柔軟性が必要であり、インフレ・ターゲティングの採用自体はステートメントに過ぎず、かえってショックに対する機動的な金融政策の妨げとなることから、現行の方法で上手く行っている中で敢えて採用する必要はないとの意見もFRB内にはあったようである。

 ECBが物価安定の数量的定義を示しながらも、インフレ・ターゲティングを採用していない理由は、ユーロ圏という新しく不均一かつ構造の変化の激しい経済圏においてインフレ率だけを見て金融政策を行うことにはそもそも無理があるためとされた。

 1月にFRBが採用したインフレ目標に対して、日銀の山口副総裁は2月3日の記者会見において次のように語っている。

 「彼らは物価の目標だけを掲げて政策運営を行うのではなく、いわゆるデュアルマンデートのもとで、雇用にも目配りしながら物価の安定も図っていくという立場であることを、バーナンキ議長自身が明確に語っています。私どもも、中長期的にみて物価が安定している状態について明確に表現すると同時に、金融的な不均衡その他のリスク要因を抱え込むことがないかどうかをチェックしながら、物価の安定を図っていくという考え方を示しています。」

  FRBが今回導入したインフレ目標に対して日銀の山口副総裁は、「類似点も実は結構あります。1つは、彼らは物価の目標だけを掲げて政策運営を行うのではなく、いわゆるデュアルマンデートのもとで、雇用にも目配りしながら物価の安定も図っていくという立場であることを、バーナンキ議長自身が明確に語っています。私どもも、中長期的にみて物価が安定している状態について明確に表現すると同時に、金融的な不均衡その他のリスク要因を抱え込むことがないかどうかをチェックしながら、物価の安定を図っていくという考え方を示しています。」 と指摘している。

 つまり、コミュニケーションの方法と、日銀の中長期的な物価の安定の理解を示しながら政策の構えを示す方法は、考え方において基本的に変わりはないと指摘しているのである。

 ニュージーランドや英国のインフレ・ターゲットと今回のFRBのインフレ目標が同じ物であるのかどうか。これは「経済や金融市場の状況、制度的・歴史的な背景などにより、国によって様々である」(白川日銀総裁)であるため、一概に決めつけられないが、FRBは法的拘束力などは、明確なコミットメントもないことで、どちらかといえば、日銀の物価安定の理解に近いと思われる。ただし、日銀の物価安定の理解そのものも、ひとつのインフレ目標のかたちであると言えなくもない。

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金融アナリスト。債券部で14年間ディーリング業務に従事

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