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さらばホイットニー アルコール依存症は飲酒のコントロール障害 原因において自由な行為は自由じゃない

2012年02月13日 05:35

宮武嶺

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 ホイットニー・ヒューストンさんがグラミー賞の前日にビバリー・ヒルトン・ホテルで亡くなったことが明らかになりました。48歳でした。
 ホイットニーさんは、同ホテルでグラミー賞前に開かれるクライヴ・デイヴィスのパーティーで歌う予定だったそうですが、ホテルの部屋で意識不明で見つかったということです。
 死因は今のところ不明と発表されていますが、自殺かも知れないとも言われています。
 ヒューストンさんはストレス回避を理由に、アルコールとドラッグへの依存を加速的に深めていったと言われており、2004年など何度かリハビリ施設にも入っています。
 1980年代が青春だった私は彼女の歌声の大ファンでしたので、このニュースを聞いてショックを受けながら、頭の中では「All at once」が流れだしました。



 そして、刑法判例百選の授業に臨んだら、最初の判例がなんと、アルコール依存症の被告人の事件でした。

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判例百選 刑法Ⅰ 36 故意犯と原因において自由な行為(大阪地裁判例昭和51年3月4日)
 「被告人は、アルコール嗜癖(アディクション。依存症のこと)に陥っており、飲酒酩酊して他人に暴力を振るったこともしばしばあった。被告人は本件犯行の前年に、裁判所で、飲酒酩酊による心神耗弱状態(限定責任能力なので刑法39条1項で刑が減軽される)における窃盗、住居侵入および刃物による脅迫・暴行を手段とした強盗未遂の各罪により、懲役刑と保護観察付き執行猶予の有罪判決の言い渡しを受け、その際、特別遵守事項として禁酒を命ぜられていた。
 ところが、被告人は昭和49年6月8日午後5時過ぎ頃から仕事先で1級酒2~3合を飲んだ後、飯場に戻り2級酒2合を飲んで外出し、さらに午後8時頃までの間に3~4合の1級酒を飲んだ結果、病的酩酊(心神喪失で本来なら無罪)に陥った。
 同夜遅く、被告人は飯場から牛刀を持ちだし、翌日9日午前1時10分ころにタクシーに乗車して間もなく、タクシー運転手の左手首をつかんで引っ張り、刃体の一部を風呂敷で巻いた牛刀を同人の右肩越しに示して脅迫し、右牛刀の刃以外の刃体をもって同人の顎筋等を叩く暴行を加えた。」
という事件です。よくこれだけで済んだなという感じですね。

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 この被告人はタクシーの運転手さんに脅迫・暴行をしたときには心神喪失になっているので、普通なら責任能力がなく無罪になります。

 しかし、酒を飲んだら暴力を振るうことが分かっていて酒を飲んだのに、それでわけがわからなくなって犯罪を犯したら無罪というのでは、法益(保護されるべき法律上の利益)が守れない。
 ということで考え出された理論が、「原因において自由な行為」の理論です。
 お酒を飲んだのが原因行為。脅迫・暴行は結果行為。結果行為の時には心神喪失でも、原因行為の時には責任能力=是非弁別能力(物事の良い悪いの判断をする能力)と行動制御能力(良いことはするが悪いことはしない能力)があった。
 そして、この人が酒を飲むとしばしば暴力を振るうのだから、この人がそれをわかっているのに酒を飲んで犯罪を犯すのは、いわば判断能力がなくなった自分を道具として犯罪を犯しているのも同然で、酒を飲む行為から殴る行為が自然に発生する以上、この人が酒を飲む行為は人を殴る行為と同じくらい危険性の高い行為である。
 だから、酒を飲む行為が脅迫・暴行の実行行為であり、その時には責任能力があったのだから完全に有罪にできる。
 というのが、判例・学説の考えた「原因において自由な行為」の理論です。日本語として少し変ですが、原因となった飲酒の時には自由意思が完全にあったのだから、責任を問えるということです。
 もちろん、この事件でも、被告人は刑務所に行くことになりました。

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 前の年にも事件を起こしていて、その時にはギリギリ執行猶予にしてもらい、「禁酒」を言い渡されているわけです。それでも飲んでしまったのだから、それは意志が弱いのだ、責任を問われても仕方ない、という裁判官や学者など法律家の気持ちはよく分かります。一般の人でもそう考えますよね?
 でも、アルコール依存症は、飲酒のコントロール障害です。
 意志の力ではどうにもならないのです。回復はしますが不治の病ですし、一度この病気にかかったら、飲酒は一生コントロールできないのです。
 ドラッグはともかく、お酒はほとんどの国で合法です。また、「これ以上飲んだらアルコール依存症になる」とわかって飲むわけではありません。いつの間にかなるわけですから予防も不可能です。お酒にだらしないからなるわけではありません。

 また、この被告人は、飲んだらダメだと分かっていたのに飲んだのが悪い、というわけですが、アルコール依存症は飲まないではいられない病気なんですよ。いわば病気がこの人に酒を飲ませ、暴行・脅迫をさせたのです。



 アルコール依存症は以前はアルコール中毒といい、アル中と略されていました。これほど、だらしない姿がリアルに思い浮かぶ病名もありません。
 道ばたで、だらしなく、人目もはばからず酒をく飲んで、ぐだぐだ訳の分からないことを言っている。それがアル中のイメージです。意志薄弱の極みです。

 ところで。
 アルコール依存症で薬物依存症だったホイットニー・ヒューストンさんは、2001年8月に6枚のアルバムで1億ドル(約76億円)という音楽史上最高額の契約をアリスタと結んだことで知られています。
 映画 『ボディガード』が大ヒットし、『ため息つかせて』『天使の贈りもの』などの映画にも出演しました。
 これまで売れたアルバムやシングルは1億7000万枚以上。その何枚かに私も貢献しました。

 元祖セレブリティです。



 彼女が、天性の歌声だけでこれだけの実績を築き上げられたと思いますか?
 いまだにグラミー賞の前夜祭で歌うことになっていたのです。その努力、超人的とも言える意志の力は容易に想像できるはずです。

 しかし、いったんアルコール依存症や薬物依存症になってしまえば、彼女の強烈無比な意志力をもってしても、どうにもならないのです。リハビリ施設に入っても決して治りません。アルコール依存症になった人が助かる道は自助グループしかありませんが、助かるかどうかは、それこそ、神のみぞ知る、という話なのです。
(でも、見事に回復はします。社会復帰できます。自助グループが有効である事は専門医達も認めています。
 世界的規模の団体で日本にもある自助グループがAA=アルコホーリクス・アノニマス=無名のアルコール依存症者たち。日本独自の自助グループが断酒会=全日本断酒連盟。
 希望はあります。どちらも全国津々浦々まであります。是非、お酒に問題があると思われる方ご本人でも、ご家族でも連絡してみてください。)
 一説には、日本のアルコール依存症患者の数は50人に1人。200万人をはるかに越えていると言われています。
 また、アルコール依存症患者の平均寿命は、アルコールによる病死・自殺・事故死などのために52歳程度という話もあります。
 ホイットニーほどの才能があっても、一時どれだけ名声がありお金を稼いでいたとしても、飲酒のコントロール障害には勝てませんでした。名誉もお金も役には立たない。最後は破産状態だったとも言われています。

 享年48歳。
 アルコール依存症患者の平均寿命までも達しなかった、早すぎる同世代の死を悼みたいと思います。



これぞ国歌斉唱。歴史的名演。

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