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サマータイム導入はやはりデメリットが大きい - 島澤 諭(中部圏社会経済研究所研究部長)

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高まるサマータイム導入の可能性

 突如として、サマータイム実現の可能性が高まっている。サマータイムとは、欧米のデイライト・セービング・タイム(Daylight Saving Time)と呼ばれるものであり、サマータイム開始時には、当該国・地域の標準時に特定の期間だけ一定時間プラスし、サマータイム終了時にはサマータイム開始時に標準時に加えた同じ時間をマイナスすることで、標準時に戻す制度である。

 安倍晋三首相は今月7日、東京五輪組織委員会会長の森喜朗元首相の要請を受け、2020年東京五輪・パラリンピックの猛暑対策として、夏の時間を2時間繰り上げるサマータイム導入を検討するよう自民党に指示したと報道されている(産経新聞2018年8月6日)。安倍首相の指示を受け、自民党は、東京五輪・パラリンピックまで残された期間はあと2年と少ないことから、秋の臨時国会での議員立法提出に向け、党内の調整を急ぐこととし、公明党の山口那津男代表も「柔軟に幅広く検討していく必要がある」と前向きな姿勢を示している。

 実は、日本では連合国軍による占領下の1948年5月にサマータイムが導入されている。しかし、サマータイム導入による残業時間の増加と鉄道の混乱等から国民には極めて不評だったこともあり、サンフランシスコ講和条約が締結された1951年9月には打ち切られ、主権を回復した1952年には正式に夏時刻法は廃止となった。こうした経緯があったにもかかわらず、1990年代以降、超党派の議員連盟が中心となり、サマータイムの導入が度々検討されたが実現には至らなかった。近年、最もサマータイム導入の機運が高まったのは東日本大震災後で、夏場の電力が大幅に不足する見込みであったこともあり、電力需給緊急対策本部によりサマータイムの導入が検討されたが、結局、見送られた。

サマータイム導入のきっかけは燃料不足

 そもそもサマータイムは政治家でもあり科学者でもあったベンジャミン・フランクリンが英国からの独立直後のアメリカの外交官としてフランスに滞在していた1784年、Journal de Paris誌に送った投書“An Economical Project for Diminishing the Cost of Light”の中で、人々が夏の間太陽のサイクルに合わせた生活を送れば、当時の照明の主力であったロウソクの使用量を減らして節約できるはずだと提案したことに起源があるとされている。

 フランクリンの提案以降長らく実行には移されてはいなかったが、カナダオンタリオ州の現在のサンダーベイの住民が1908年7月1日にカナダの標準時より1時間時計の針を進め、世界に先駆けてサマータイムを実施した。一国単位では、第1次世界大戦中の1916年4月30日にドイツとその同盟国オーストリアが燃料不足対策を目的として実施したのが初めてであり、次いでイギリスやフランスが導入したのを契機に欧州に広がった。アメリカでも1918年に導入したものの国民から不興を買い2年で廃止。しかし、やはりエネルギー資源節約を目的として第2次世界大戦中に再導入され、1986年の改正を経て現在まで続いている(アリゾナ州・ハワイ州等は不採用)。世界を見渡すと、現在、サマータイムを一部の地域ででも実施している国は、70か国以上あり、その多くは夏の間、日照時間が極端に長くなる中高緯度の北半球に集中している。

サマータイムを導入する上での論点

 それでは、現在の日本にサマータイムを導入することによるメリットやデメリットにはどのようなことが考えられるのだろうか。現時点では具体的にどのような形でサマータイムが企画立案されるのか確固とした情報がないという制約はあるものの、次の5つの論点について、原理原則から考え、検討することとしたい。

(1)論点1:環境への効果

 サマータイムはその着想から実際の導入に至るまで、エネルギーの節約が主眼にあった。日本においてもサマータイム導入の目的の一つは同様であり、起床時間を早めることで早朝の涼しい時間帯に活動すれば冷房も利用せずに済む上、夕方の明るい時間帯が長くなり、かつ日没から就寝までの時間も短くなることで、照明機器の使用を減らせるため、省エネルギー・温室効果ガス削減効果があるとされている。

 例えば、環境省「地球環境と夏時間を考える国民会議」(平成11年5月)の試算によれば、年間約50万kL(原油換算)の省エネルギー・温室効果ガス削減効果があるとされている。しかし、東西に細長く伸びている日本では、東日本と西日本とで日の出・日の入りの時刻にズレが生じ、全国一律のサマータイム導入が馴染むのか疑問が残るし、節電や温室効果ガス削減効果については、日本は湿度が高く、日没後も蒸し暑さが続くため、帰宅後の冷房需要が大きく、勤務時間をずらしたとしても、節電効果は少ないと考えられる。

 現代の日本においては、日照時間ではなく気温が電力の消費を大きく左右すると考える方が自然だろう。実際、国立研究開発法人産業技術総合研究所安全科学研究部門井原智彦氏(当時)「夏季における計画停電の影響と空調(エアコン)節電対策の効果(第二報)」(2011年7月31日)によると、東京電力管内でサマータイムを想定した生活時間の前方1時間シフトの空調電力削減効果を試算したところ、業務用では確かに▲10%削減となるものの、家庭用では戸建住宅+23%増加、集合住宅+27%増加となり、合計では+4%増加との結果を得ているし、さらに、電力中央研究所社会経済研究所今中健雄氏「時刻、休日、連休シフトによる夏季ピーク負荷削減効果」(2011年4月6日)では、近年は昼間の特定の時間帯にピークがあるのではなく昼間全体が比較的高い電力需要で推移しているため、削減効果はピーク負荷の1%程度と誤差の範囲内に過ぎず、効果は少ないと結論付けるなど、環境へのプラス効果はゼロではないかもしれないもののほとんど存在しないものと考えられる。

 しかも、後述するように、サマータイム推進派は効果の一つとして余暇活動の増加を挙げているが、そうなればその分余計に電力消費したがって温室効果ガスが増加することになるだろう。さらに、損得で言えば、サマータイムを導入すればそうでない場合よりも朝早く出勤し暑いさなかに帰宅することになるので、企業側はその分の光熱費を削減できるものの、家計では光熱費が余分にかかることになり、結局、企業が得、家計が損をすることになる。経営者団体がサマータイム導入を推進する理由の一端が垣間見られる。

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