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ソーシャル・メディアでは、誰もが「美しくてステキ」

2012年02月13日 07:59

歌田明弘

フェイスブックの先進国アメリカでは、数々の病理が生まれている。
「いかにも」な症状ばかりで、日本でもまもなく「発症」するかもしれない。



嫉妬深くなる――フェイスブック症候群1

詳細なプロフィールを登録させるフェイスブックにはプライバシーの問題がつきまとっているが、米メディアによれば、それ以外の問題も起こっている。

ツイッターやフェイスブックでつながっている人は、会ったことがなくてもその行動や考えがわかる。こうしたネット上の知りあいは、リアルな世界の知りあいよりもずっとよく知った間柄になる。
だから以前タイトルにしたように、「フェイスブックはストーカー?」ということにもなってくるのだが、ツイートなどをずっと追いかけていると、短編小説を読んでいるような気がしてくる。どこにでもいそうなふつうの人だけど、そこには喜びも悲しみもあって共感を感じる‥‥などということもよく起こる。
リアルな人間の記述であるだけに、ヘタな小説よりもよほど興味深い。そのうえ小説とは違い、呼びかければ返事も返ってくる。登場人物の生活に参加できる双方向的な「小説」である。

これはソーシャル・メディアのポジティヴな面だが、困ったことに以前の彼女や彼の動向までわかってしまう。別れたのだから気にするなというのは「正論」だけど、たいていの人はそうはいかない。振ったほうはともかく、振られたほうはとくにできない。
USAトゥデイは、フェイスブックにアクセスするたびにぜんそくが悪化する18歳の男の子の症例を書いていた。元カノがたくさんのボーイフレンドを作っているのを見て、具合が悪くなるのだそうだ。

元カノ・元カレの問題ばかりではない。いま付き合っている相手のことがわかるのも、いいことばかりではない。

自分と会わないこの週末に彼・彼女が何をしているかがわかる。本人がアップしなくても、彼・彼女が誰かと仲良くしている写真を友だちがアップするかもしれない。「ソーシャル・ネットワーキングで時間を使うようになればなるほど嫉妬深くなる」。まじめにこう主張している研究者もいるらしい。一見バカバカしい研究のようだが、言われてみれば「なるほど」という気もしてくる。

これまでも気になる人間の名前を検索してその動向がわかることはあった。しかし、個人情報が実名入りでフェイスブックでばんばん発信されるようになると、これまでと桁違いに知らないほうがいいことまで知ってしまう。その結果、どんどん嫉妬深くなっていく‥‥ということはいかにもありそうだ。



抜けるに抜けられない――フェイスブック症候群2

そんなことだったら、フェイスブックにアクセスしなければいいじゃないかと誰しも思う。
2ちゃんねるについても、イヤだったら見なければいいと、かつて管理人の西村氏が言っていた。たしかに2ちゃんねるではそれですむかもしれないが、フェイスブックではそうもいかない心理が働く。

自分の情報を更新しなくても、他人が自分のことを語っているかもしれない。たとえフェイスブックから「抜けて」も、クラスや職場の人たちが「最近○○さん、フェイスブックから抜けちゃったんだね」といったやりとりをきっかけに、「○○は失恋して何もする気がしなくなっちゃったんだよ。仕事も手抜きばかりだし」といったふうに、根も葉もないウワサが立ち始める。それを防ぐには、自分で自分の情報を発信し続けなければならない。失恋が事実だとしても、「自分はさっさと立ち直って、こんなに元気にしているんだよ」といったことを見せつけなければ、ウワサは消えない。

「自分はつまらない人間だ」と感じる――フェイスブック症候群3

フェイスブックで公開されているプロフィールなどの情報はそもそもほんとうのことなのか。

もちろん、友人・知人の目があるからまったくのウソは書いていないにちがいない(おそらく)。しかし、少し体裁のいいことが書かれている可能性はある。

たとえばプロフィール欄に、ほんとうは演歌が好きなんだけど、クラシックと書いておくみたいなことだ。こうして少しずつブラッシュアップされたプロフィールばかりが並んでいるということは大いにありそうだ。そうしたときにどういうことが起こるのか。

日本でのフェイスブックの本格的な普及はこれからだから、まだこうした問題は起こっていないのかもしれないが、フェイスブックの発祥地アメリカでは、思わぬ「フェイスブック効果」が起こっているらしい。

どういうことかというと、ネットで見る友人たちに比べて自分がひどくつまらない人間に見えてくるという「病理」である。

たまたま見たブログに、「自分の町は美人ばかりだ。ウソだと思うなら、フェイスブックの自分のページの女友達の写真を見てくれればわかる」といったことが書かれていた。それはそうだろう。わざわざひどい写真をアップする人はいない。よく写っている写真をアップするのがふつうだ。その結果、フェイスブックは美人ばかりになる。

また、「こんなにおいしい料理ができました」とか「こんなかわいいペットがいます」「うちの子はこんなに賢くてやさしいです」といった文章が並ぶ。ネット(とくに実名のフェイスブック)では、みんなが幸福でステキでやさしい。
「子育ては退屈で、泣き続ける子どもを殺したくなるし、ところかまわずウンチするウチのペットは最悪で、私は何を作ってもとうてい食べる気にならないモノしかできない。ほらこんな料理」などと写真をアップする人はまずいない。ヘタに書けば炎上し、最悪の場合には警察まで来かねない。

こうした傾向に拍車をかけているのは「いいね!」ボタンだ。

「いい」とは思っていないけど、そのサイトの情報が欲しい場合など押さなければならないと、このボタンの問題点を以前指摘したが、「いいね!」がクリックされればされるほど情報を広められるから、クリックされるような内容を書く動機付けがされている。

「生まれたばかりの子犬が死んだ」という記事に「いいね!」をクリックする人はいない。しかし、「子犬が最後まで頑張った」という報告に「いいね!」をクリックする人はいるだろうとウェブ・マガジンの「スレート」が指摘している。かくしてフェイスブックではネガティヴな話は消えていき、「最後までりっぱな子犬」のような話ばかりになるというわけだ。

アメリカのメディアにはこうした「フェイスブック症候群」を指摘する記事が出てきているが、日本でも同様の傾向は生まれるだろうか。

匿名がベースのいまの日本のネットでは「困っている」という話も少なくはない。「こんなに困っている」と書いて、同情してもらいたいという心理も働いている。

実名・匿名以前に、フェイスブックが日本で普及するには、日本で人びとの求めているものと実名のネットが合致しているのかという問題もクリアしなければならないかもしれない。



関連サイト
●「USAトゥデイ」の記事「フェイスブックの嫉妬が振られた男の子のぜんそくを引き起こす(Facebook jealousy sparks asthma attacks in dumped boy )」(http://www.usatoday.com/yourlife/sex-relationships/dating/2010-11-18-facebook-asthma_N.htm)。

●「ディスカバリー・ニュース」の記事「フェイスブックはどのように嫉妬心を育てるか(How Facebook Breeds Jealousy)」(http://news.discovery.com/tech/facebook-breeds-jealousy.html)。

●「スレート」の記事「アンチ・ソーシャル・ネットワーク――ほかの人を幸福に見せることによって、フェイスブックはわれわれを悲しませる(The Anti-Social Network: By helping other people look happy, Facebook is making us sad.)」(http://www.slate.com/id/2282620/)。

afterword
上の「スレート」の記事には、18世紀のフランスの哲学者モンテスキューの次のような言葉が引かれていた。

「幸福になりたいというだけなら簡単だ。しかし、ほかの人よりも幸福になりたいというのはほぼいつも困難だ。なぜなら、ほかの人は実際よりも幸福に見えるから」。

ソーシャル・ネットワーキングによってこうした傾向が強まっているという。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.712)

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『ユリイカ』編集長を経て、現在はフリーで活動。

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