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中小企業"退職金廃止"のツケは社員に回る

退職金・企業年金の減少傾向に歯止めがかからない。このままでは中小企業の社員は、老後資金に困る可能性が高い。多くの中小企業では、退職金は1000万円程度で、それ以外の企業年金などは一銭も出ないからだ。政府は「私的年金加入による自助努力」を促すが、道のりは険しい。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「賃上げが低迷しており、老後破綻する人が続出するのではないか」と警鐘を鳴らす――。

■退職金・企業年金の減少傾向に歯止めがかからない

少子高齢化で公的年金の支給額が減りつづけている。このため政府は公的年金を補完するものとして「企業年金」に期待を寄せている。ところが、その企業年金も減少の一途をたどっている。

企業年金は退職金の一部である。退職金は退職一時金と企業年金の2つで構成され、企業年金には「確定給付年金」と「確定拠出年金」の2種類がある。

確定給付年金とは受け取る年金額を会社が保証するもの。一方、確定拠出年金とは個人が掛け金を運用し、運用しだいで年金額が変動する仕組みだ。これは企業が掛け金を払う「企業型」と、個人が任意で掛け金を払う「個人型」にわけられる。

人事院が5~6年ごとに退職金調査をしているが、2011年の退職金の平均は2712万4000円(定年退職・勤続38年)だが、2016年は2459万8000円。200万円以上も下がっている。

もちろん企業規模によっても格差がある。2016年の従業員1000人以上の企業では3059万5000円(2011年は3193万6000円)、500~1000人未満は2157万8000円(同2459万4000円)、100~500人未満は1660万4000円(同2226万6000円)である。企業間格差だけではなく、いずれも2011年に比べると大幅に下がっている。

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また、すべての会社に企業年金があるわけではない。

退職一時金のみの企業が全体の48.3%、企業年金と一時金を併用している企業は39.6%と、企業年金がない企業が半数近くに上る。従業員1000人以上の企業はさすがに67.5%と併用型であるが、100~499人は44.6%が一時金のみとなっている。

それでも退職金制度があるだけまだましだ。

東京都の中小企業調査(10~300人未満)によると大学卒の定年時の退職金は1139万円。だが退職金制度がある企業は69.8%(2016年、産業労働局調査)。しかも2014年の78.9%から減少している。また退職金制度がある企業でも企業年金がある企業は25.9%にすぎない。70%超が退職一時金のみだ。

■退職金はせいぜい1000万円程度、あとは一銭も出ない

なぜ退職金制度のない企業が増えているのか。大手損保会社の年金コンサルタントはこう指摘する。

「2012年に中小企業向けの適格退職年金制度が廃止されました。また2015年には厚生年金基金(各企業が運営する私的な企業年金)を廃止できる法律が2015年に成立しました。会社の積立不足や資金不足もあって、別の年金制度に移るのではなく、企業年金そのものをやめてしまう中小企業が増えています。社員にとっては定年後に受け取るはずの給付の約束がなくなってしまうことになります」

実際に適格退職年金は1000万人の加入者がいたが廃止によって3割超の企業が他の制度に移行せずに解約している。

退職金がある企業でもせいぜい1000万円程度にすぎず、退職金が一銭も出ない企業も多いのだ。政府が公的年金の補完として期待する退職金がこのような現状では、他に蓄財でもないかぎり、いずれ老後破綻や老後破産が現実のものになるだろう。

■国は賃上げ低迷の中「私的年金加入による自助努力を」

政府も危機感は抱いている。

iStock.com/itasun

今年2月16日、「高齢社会対策大綱」が閣議決定された。2012年9月以来の改定だ。その中で私的年金が「公的年金を補完し、個人や企業などの自助努力により、高齢期の所得確保を支援する役割を担っている」と言及し、充実の必要性を強調している。

私的年金とは、個人型確定拠出年金(iDeCo)、つみたてNISA(積立型小額投資非課税制度)などのことだ。また、中小企業については独力で退職金制度を持つのが困難だとし、中小企業退職金共済(中退共)の普及を掲げている。

だが、“退職金下げ”や退職金制度廃止が相次ぐなかで、「私的年金加入による自助努力」を促してもどれほどの効果があるというのか。原資となる賃上げが低迷している状況ではいくら自助努力せよと言われても限界があるだろう。

こうした実態を見ると、大企業や企業年金制度がある企業の社員は恵まれているといえるかもしれないが、今後は決して楽観できる状況ではない。

会社員に支給される公的年金(国民年金と厚生年金)は専業主婦の妻の分を含め、合計平均月額は22万1277円(厚生労働省、2017年度)である。

これに企業年金が加わるが、確定給付年金の1人当たりの平均年金月額は約7万円。前出の年金コンサルタントは「大企業の年金月額はそれよりも高いが12~14万円ぐらいではないか」と語る。

大企業の社員は公的年金と企業年金で約36万円(夫婦)になる。これだけあれば暮らしは困らないだろうが、ただし、これは現在受給している人の話である。公的年金が年金調整という名のもとに減額されていくことが明らかになっている。企業年金にしても、企業年金を含む退職金額自体が先に見たように減少傾向にある。

■企業年金を抑制せざるを得ない「事情」

なぜ企業年金を抑制しようとしているのか。

企業年金の主流である確定給付年金は会社が定年時に支払うために外部の生命保険会社や信託銀行に運用を委託する。しかし、運用難で原資が不足すると会社が独自に穴埋めする必要がある。とくに今日のような低金利下だと当初想定した運用利率を下回ると負担が重くなる。

前出の年金コンサルタントは企業の狙いについてこう語る。

「日本航空の経営破綻の大きな原因は退職したOBの年金の支払いにありました。定年後にこれだけ払いますと約束した以上、既得権としてなかなか減額できません。実際は受給者の3分の2の同意がなければ減額できないので、会社の業績に影響を与えて破綻しないように、将来を見据えて企業年金や退職金の抑制を図っているのです」

具体的には年金の給付利率の引き下げ、つまり受け取る年金額を減額することである。実際に多くの企業がこの10年の間に給付利率を引き下げている。しかも退職したOBの企業年金の給付利率を下げるのが難しいので現役世代がそのしわ寄せを受ける。

退職した高齢者のOBの年金を支えるために現役の社員が身を削るのは公的年金の構図と同じだ。また企業年金には死ぬまで受け取れる「終身年金」もあったが、今では10~20年間限定の「有期年金」が主流になっている。

■年金を「確定給付」から「確定拠出」に移行させる狙い

iStock.com/itasun

それだけではない。

会社の将来の負担を回避するために(1)確定給付年金の一部あるいは全部を(2)確定拠出年金に移行する企業も増えている。

確定拠出年金は、会社が指定する金融商品のメニューから社員が自分で選んで掛け金を投じて運用する。会社は掛け金を“前払い”の形で拠出するだけで会社が損失を穴埋めする必要がないというメリットがあるからだ。

前述した人事院の調査では確定拠出年金(企業型)がある企業は2011年の24.7%から37.7%に増加している。大企業が多く加盟する経団連の調査では57.4%の企業が導入している(2017年6月)。加入者の数は632万3000人である(企業型、17年8月末時点)。

しかし、問題は個人でしっかりと運用できているかである。確定拠出年金は運用次第で老後の資産を増やせるメリットがあるが、損失が発生すれば個人の責任となる。

しかも一定の利回りを確保できていたとしても本来もらえるはずの退職金額に届かない可能性もある。確定拠出年金の導入にあたって会社側は「想定利回り」を設定し、社員の支給する「掛金額」を決める。つまり、想定した利率通りに社員が掛け金を運用すれば、定年退職時に払うべき退職金に見合うようにと計算しているのだ。

その想定利回りの平均は1.98%(企業年金連合会調べ)だ。2%を上回る利率で運用しないと確定拠出年金のうまみはなく、確定給付年金だったらもらえたはずの年金額に届かないことになる。

■運用利回りが低くても「それは自己責任」

では、実際の運用状況はどうなっているのか。

企業型確定拠出年金の大手運営管理機関が集計した2017年9月末時点の加入以来の通算利回り(4社平均、加入者の55%)は3.39%となっている(「年金情報」格付情報投資センター)。このうち利回りがマイナス、つまり掛け金が「元本割れ」の加入者は1.4%とさすがに少ない。

しかし、利回りが2%以上の加入者は53%しかおらず、約半数が想定利回りを下回り、利回り「0%以上~1%未満」が最も多い。

そのほとんどが運用に関心がなく、預金など元本確保商品を選択しているためと推測される。株価が上昇し、運用環境が良好にもかかわらず、退職金の目標金額に到達できていない人が多いのが実態なのである。

会社側は「自己責任だ」と言うかもしれない。しかし、確定拠出年金の導入を社員が望んだわけではない。このままだと退職金・企業年金の減少に歯止めがかかることはないだろう。老後破産は大企業の社員も例外ではないのだ。

(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)

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