記事

勉強が苦手な人ほどAIに仕事を奪われる

AIのできる仕事の範囲がどんどん広がっている。このまま人間の仕事は奪われてしまうのだろうか。早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏は、「そのぶん、人間にしかできない仕事の価値が相対的に上がる。仕事を奪われないようにするためには、社会人になっても不断の “勉強”が必要だ」と説く――。


写真=iStock.com/chombosan

新しい勉強の時代が到来している

これまで、日本では、大学に入るために勉強をしました。安定した生活が保証される大企業や官公庁などの大組織に入るためには、卒業した大学の名前が重要だったからです。勉強が、より偏差値の高い大学に入るための手段であったことは否定できません。

勉強は、大学に入った時点で終わりでした。社会人になっても、理系の研究者などを除けば、一般的にはそれ以上の勉強をしなくてもすんだのです。ところが、いま、その状況は大きく変わってきています。勉強を続けなければ社会の変化に対応できない時代がやって来たのです。

不断の勉強が求められる社会の変化が、何によってもたらされたかといえば、それはコンピュータ技術の急速な進化です。新しいコンピュータ技術は人間が行っていた仕事を奪いつつあります。ですから、収入を得るためには、コンピュータに代替されない仕事に就くことが必要であり、そのためには勉強が不可欠なのです。

新しいコンピュータ技術の代表にAIがあり、AIは今後、多くの労働者の仕事を代替することになると予測されています。労働者にとっては、生活を脅かす存在ですが、ここで注意すべきは、AIは万能ではないということです。AIはいくつかの特殊な分野で非常に能力が高いのであり、すべてのことができるわけではありません。

パターン認識が可能になり進化を遂げた

AIとは、人間と同じように、あるいは人間よりも高い能力で考えることができる、たとえば、鉄腕アトムのようなものとイメージしている人が多いようです。そのようなイメージを持てば、AIは、すべての面で人間よりも高い能力を発揮し、人間の仕事を次々に奪っていくと考えてしまいます。しかし、現実はそうではありません。

すべてのことができるAIを、汎用AIと言います。鉄腕アトムのような汎用AIはまだできていませんし、将来できるかどうかもわかりません。

これはAIを含むコンピュータ一般について言えることですが、コンピュータができることは特殊な分野です。ただし、特定のことについては、非常に高い能力を発揮します。たとえば、計算は、人間ではまったく追いつかないスピードで、大量に処理することができます。

手書きの文字や数字が判読できるようになった

AIについても、できるのは特定のことですが、重要なのは、できることの範囲が、この数年で飛躍的に広まったことです。この点において、従来のコンピュータ一般と、AIには大きな違いがあります。

多くの人は、従来のコンピュータ一般とAIを区別していませんが、コンピュータ一般とAIには決定的な違いがあります。従来のコンピュータは、作業の前提として人間の手によるプログラムが必要でした。しかしAIは、自らの機械学習によって、できることの範囲を広げます。

AIができるようになったことの典型的な例がパターン認識で、図形の認識や、人間が日常的なコミュニケーションで使う自然言語の理解ができるようになりました。

パターン認識は、コンピュータ技術が進化するなかで、長い間の夢でした。たとえば、人間の写真を見て、男か女かということは、人間ならすぐに見分けられるのに、コンピュータはできなかったのです。ところが、AIは、いまやかなり正確に、見分けることができるようになりました。

これまでできなかったパターン認識にブレイクスルーが生じたのです。それによって、非常に多くのことができるようになりました。

たとえば、手書きの文字や数字が判読できるようになりました。また、アングルなどが異なる写真を見ても、同じ対象物を撮った写真かどうかを認識できるようになりました。さらには、自然言語が理解できることによって、人間と会話によるコミュニケーションが成立するようになりました。

ニューロンの働きをコンピュータがまねる

このことによって、さまざまな仕事をAIが代替できるようになったのですが、その具体例は後述するとして、どのようにしてAIのパターン認識が可能になったかについて、触れておきましょう。

ディープラーニングと呼ばれる機械学習の技術が、パターン認識を可能にしました。ディープラーニングは、ニューロン(神経細胞)の働きをまねた仕組みであるニューラル・ネットワークをコンピュータに作り、大量のデータによって学習させるものです。

たとえば、膨大な量のネコの写真を、ニューラル・ネットワークを組んだコンピュータに見せれば、新たにネコの写真をコンピュータに見せたとき、それがネコであることを、コンピュータは認識します。一見、似ている別のネコ科の動物の写真を見せても、ネコではないと判断します。

大量のデータからの「パターン認識」が可能になった

ニューラル・ネットワーク、すなわち、人間の脳と同じようなやり方で情報を処理することにより、このようなパターン認識が可能になるわけですが、AIがどのような情報処理によって、パターン認識をしているのかについてはわかっていません。人間は、コンピュータにニューラル・ネットワークを作りはしましたが、そこで何が行われているかは、わかっていないのです。

従来のコンピュータ技術では、ネコの写真であることを認識させるためには、ネコのさまざまな特徴を抽出して、プログラムする必要がありました。それでも、どんなネコの写真にも対応できるように特徴を抽出することは困難ですから、コンピュータが写真を見て、その写真がネコであることを完全に判別することは難しかったのです。

ところが、ニューラル・ネットワークを作るという、ある意味では単純な方法でパターン認識ができるようになりました。精密な仕組みを作るのではなく、大量のデータを用いることによって、パターン認識が可能になったわけで、これは驚きです。

「何を知るべきか」という方向を決める

ニューラル・ネットワークをベースとしたディープラーニングによって、手書きの文字や数字が判読できるようになりました。このことによって、たとえば、配送作業をやるときに、手書きの伝票であっても、コンピュータが読めるようになりました。従来は人間がやっていた配送分別作業は、コンピュータが代替できるようになったのです。

配送分別作業に写真が関わる際も、コンピュータで対応できるようになりました。アングルや明るさ、解像度などが違っていても、同じ商品を撮った写真であれば、コンピュータは同一の商品であると判別します。

また、ディープラーニングによって、コンピュータは自然言語も理解できるようになったので、コールセンターは自動対応が可能になりました。

失業者が大量に出ると社会不安が起こるので、企業がドラスティックにAI化を進めることはないかもしれません。しかし、技術的には十分に可能なのであり、将来、AIがさまざまな仕事を人間から奪っていくことは間違いないでしょう。

AIに置き換えられない仕事は、必ずある

いま、重要なことは2つあります。

1つは、AIに置き換えられない仕事を探すことです。AIの技術が急速に進んだとはいえ、汎用AIが登場したわけではありませんから、AIが代替できるのは一部の分野に限られます。AIに置き換えられない仕事は、必ずあります。

もう1つ、非常に重要なのは、AI化が進むことによって、価値が上がる仕事を見いだすことです。人間の仕事がAIに置き換えられると、社会に変化が生じ、そこでは、人間にしかできない仕事の価値は、相対的に上がります。

AI時代には、問題意識の重要性がますます高まります。「私が知りたいことは一体、何なのだろうか?」あるいは、「私がすべきことは一体、何なのだろうか?」ということが重要なのです。

新しい勉強の時代が到来し、社会人であっても、すべての人に勉強が必要となっています。勉強のスタート地点に立っているのなら、「何を知るべきかという方向を決めること」が、何よりも重要な課題であることを認識することです。

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業。64年大蔵省(現・財務省)入省。72年イェール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て2017年9月より早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。ベストセラー多数。Twitterアカウント:@yukionoguchi10

(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口 悠紀雄 写真=iStock.com)

あわせて読みたい

「AI」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    都民ファ事務総長の給与額に驚き

    上田令子(東京都議会議員江戸川区選出)

  2. 2

    日本を叩くドイツメディアの無知

    MAG2 NEWS

  3. 3

    報ステ降板の小川アナ もう限界

    文春オンライン

  4. 4

    旅行キャンセルのはずが高額請求

    水島宏明

  5. 5

    沖縄知事選の争点は移設ではない

    中田宏

  6. 6

    不出馬なら議員辞職 玉城氏覚悟

    田中龍作

  7. 7

    デブかブス 女芸人の需要に苦悩

    松田健次

  8. 8

    玉城氏 周囲が出馬止める恐れも

    田中龍作

  9. 9

    阿波踊り騒動の徳島市長が大反論

    文春オンライン

  10. 10

    よしのり氏「石破氏応援したい」

    小林よしのり

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。