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記事作成ロボットになるなかれ

2012年02月11日 21:06

新恭

誰がつくり、使い始めたのか、「社畜」という言葉がある。企業に飼いならされ、自分の意思と良心を捨て、奴隷と化したサラリーマンのことを揶揄しているという。

マスメディアの記者たちは、自らに問いかけてほしい。

「社畜」になっていないだろうか。締め切りに追われ、原稿を催促され、時間のゆとりと思考の自由を奪われて、型にはまった記事を書き続けるマシーンに成り果てていないだろうか。

小沢一郎氏が出演したBS11の番組(10日)に関する記事が日経新聞に掲載されていた。筆者は番組を見ていないので、小沢氏の発言内容を知るにはこの記事が頼りだ。

記事は小沢氏の発言として、次の2つを紹介している。

(野田首相の増税路線について)「国民に対する背信行為であり、有権者への冒涜だ」。

「野田さんにもう一度政権交代の時の原点を思い起こしてほしい。最後まで期待する」。

番組に関する内容はこれだけしかない。選挙のさいに約束したことを守らない現政権を批判するのはまっとうなことだ。

しかし記者は、まっとうな小沢を書きたがらない。デスクや部長や編集局長らが納得しないからだ。

独り歩きする小沢の悪党イメージをからめて書けば、まずボツにはならないだろう。そこで、権力闘争と裁判闘争にくっつけるのが手っ取り早いと考えたに違いない。以下のような記事になった。

◇…消費増税で、小沢元代表の敵対姿勢が目立つ。グループ内の求心力維持に躍起だが、政治とカネをめぐる裁判闘争を抱えて焦りもにじむ。

「国民に対する背信行為であり、有権者への冒涜だ」。10日、BS11番組。元代表は首相の姿勢を厳しく批判した。

年明け以降は公の場で発言する機会を増やしている。最近は支持議員との会合に積極的に顔を出し、昨年末に発足した週一回の勉強会には欠かさず出席。9日には101人を集め、首相の消費増税路線をけん制した。

展望を描けない現状への危機感も見てとれる。17日の公判では、判決のカギを握る元秘書の供述調書の証拠採否が決まる。不採用なら裁判の展開が元代表に有利に働く可能性がある。逆に「万が一、有罪になればグループは瓦解する」(若手)との声が出ている。(以下省略)◇

「グループの求心力維持」。「焦りもにじむ」。「展望を描けない現状への危機感」。こうした言葉を随所にちりばめることによって、いかにも追い詰められ焦っている小沢氏がグループの勢力を維持することばかりに躍起になっている印象を抱かせる。

「小沢一郎記事作成」ソフトというものでもあれば、前掲の発言内容と、いくつかのキーワードをパソコンにインプットするだけで、簡単に出来上がりそうな記事である。

そこで思い出すのが「ニュース制作ロボット」の話だ。

7、8年前だっただろうか、米国のメディア研究者二人が制作したショートムービー「EPIC2014」が、話題になった。

ニュース制作ロボットがメディアを席巻し、NYタイムズを事業縮小へ追いやるという架空の近未来劇だ。ストーリーを簡単に紹介しておこう。

◇グーグルとアマゾンが合併し、グーグルゾンが誕生。そのコンピュータは、あらゆる情報ソースから事実や文章を抜き出して、それらをふたたび組み合わせることで、新しい記事を自動的に作り出す。これがニュース制作ロボットだ。

ニューヨーク・タイムズは、グーグルゾンのロボットが著作権法に違反するとして、訴訟を起こすが、敗訴する。

グーグルゾンはニュース制作ロボットを進化させた「EPIC」を公開した。混沌としたメディア空間を秩序立て、情報配信するシステムだ。個人ブログの文章や画像、映像レポート、フリジャーナリストの取材が記事作成に貢献する。

この万能ニュース制作マシーンに対し、NYタイムズはインターネット上で歯が立たず、最終的にはエリート層と高齢者向けの紙媒体のみを発行する。◇

記者があらかじめプログラミングされたかのごときステロタイプな記事を書いているようでは、ニュース制作ロボットが誕生したら歯が立たない。このショートムービーにはそんな皮肉と警告がこめられているのではないか。

マスメディア共通の問題だが、たまたま日経の記事を取り上げたついでに、元日経新聞記者、大塚将司氏が「世界」3月号の誌上対談で次のように語っているのを紹介しておこう。
「日経などは、思想・理念的な問題というより、もっとつまらない次元で、例えばあそこの社長とうちの部長がすごく親しいから、あそこの(会社の)問題はあまりやらないほうがいいんじゃないかとなったりします。どこでもそうです。社畜の世界になっている」
これでお分かりのように、「社畜」は大塚の発した言葉である。部長の顔色をうかがう記者たちの姿が目に浮かぶ。

記者が「社畜」であれ、「ニュース制作ロボット」であれ、読まされる側は人間の心から紡ぎだされたものと信じて誘導され、情報の罠にかかってしまいやすい。この怖さを記者の多数がほとんど意識せずにいることが、なおのこと怖い。

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全国紙記者からファッション業界へという異色の経歴を持つ。

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