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「結婚」「夫婦」という観点から見る日本の所得格差 - 迫田さやか / 所得分配論

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平等化装置としての結婚?

日本の格差が拡大している、と聞いたときに、どんな格差を思い浮かべるだろうか。所得、教育、地域、医療…。格差にもいろいろな格差がある。

私が専門として勉強している分野は所得分配論というもので、平たくいえば格差問題を扱う学問である。とりわけ私は、家族や夫婦のかたちと格差との関係に着目してきた。なぜ家族や夫婦のかたちを切り口として格差の問題に取り組むのか。かつては家族のあり方によって格差は縮小されてきたのだが、昨今はそうした傾向が見られなくなってきたからである。

所得分配論の大家であるSir. Tony Atkinson氏は、「結婚は資産(そして債務)の共有が伴うという意味で、それ自体が一つの平等化装置」(アトキンソン(2015),p.29)であると述べている。これは、かつては夫の収入が低ければ家計を支えるために妻も働き、夫の所得が高ければ家計所得が十分なので妻は働かず、専業主婦となっていた。その結果、夫・妻それぞれの所得の差はあっても、家族単位で見れば所得の差は縮まっていたことを示している。

ちなみに、この「夫の収入が高いほど妻の就業率が下がる」という経験則は、「ダグラス・有沢の第二法則」と呼ばれている。かつてはこのようにして家計総所得が平準化されていたのである。

だが、ここで一つ疑念が湧く。これだけ女性の学歴が高くなって、働くことが普通となった現在にあっても、夫の所得を軸として所得格差を論じていいのだろうか。夫の低い所得を支えるために働いていた以前とは異なり、夫の所得額とは無関係に、妻は「働く・働かない」を決定しているのではないだろうか。

そうした中で、かつては平等化装置として機能していた結婚が、現在では格差拡大の機能さえ持ってしまっているのではないか、そしてその鍵を握っているのは女性ではないか。このような関心のもと、世帯を形成する最小単位である夫婦関係がどのように構成されているかということに着目して分析を行ったのが、橘木俊詔・迫田さやか(2013)『夫婦格差社会 二極化する結婚のかたち』中公新書(以下、「夫婦格差社会」)である。

本記事では、「夫婦格差社会」の内容をざっとご紹介するとともに、現在の状況についてアップデートしてご紹介したい。

ダグラス・有沢の第二法則を検証する

これまで所得格差や貧困を語るときは、主として家計、あるいは世帯に着目してきた。世帯所得で十分議論できた理由は3つある。1つ目は、国の社会保険制度は世帯単位で基準が設定されていること。2つ目に、一昔前まで、共働き世帯よりも専業主婦世帯が多かったこと(図1参照)。そして、3つ目に、たとえ妻が働いても、その所得額は夫の所得額と比較するとかなり少額であったことである。

図1 専業主婦世帯と共働き世帯 1980年~2017年

(出所:厚生労働省「厚生労働白書」、内閣府「男女共同参画白書」、総務省「労働力調査特別調査」、総務省「労働力調査(詳細集計)」)(注1)

(注1)「専業主婦世帯」は、夫が非農林業雇用者で妻が非就業者(非労働力人口及び完全失業者)の世帯。「共働き世帯」は、夫婦ともに非農林業雇用者の世帯。2011年は岩手県、宮城県及び福島県を除く全国の結果。

しかし、現在は妻の所得が上昇して、家計における妻の貢献が大きな効果を持つ時代となりつつある。従来通り、専業主婦世帯と共働き世帯を同次元で評価してしまうと、経済状況を正確に把握できなくなる。したがって、夫婦それぞれの貢献分について詳細に見るのが望ましい。まず、妻の働き方について見てみよう。

かつて、有配偶すなわち結婚している女性に限定した場合、年齢別に労働力率(注2)を見たときに、労働力率は「M字カーブ」を描いていた。これは、独身時代には働いて、結婚・出産時に仕事を離れ、子育てが落ち着いた頃にふたたび働き始めることによって描かれるカーブがM字のように見えるので、そう呼ばれていた。

(注2)就業者と完全失業者をあわせた人口を15歳以上人口で除したもの。

しかし、近年、結婚・出産等で仕事を辞める割合は低くなっているし、未婚化の影響もあって、M字カーブはかたちを変えてきている。女性の配偶関係と年齢階級別に見た労働力率について、図2で見てみよう。この図は、結婚している者が働いている比率と、結婚していない者が働いている比率を比較したものである。

図2 女性の配偶関係、年齢階級別労働力率

(出所:総務省統計局「労働力調査」(2000年、2010年、2017年)より作成。「夫婦格差社会」p.14に追記。)

図2を見ると、配偶者の有無でグラフの形状が大きく異なることがわかる。未婚だから自分で稼がないとならないから働いているし、結婚・出産がキャリアにとってデメリットとなると考えて未婚なのかもしれない。ここで注目してほしいのは、有配偶女性の労働力率は、未婚の女性に比べて低いものの、近年25-34歳の既婚者の労働力率が上昇している点である。

これをさらに、夫の所得別にして、妻の労働力率を見てみよう。冒頭で述べた、「夫の所得が高いと妻は働かない」、すなわちダグラス・有沢の第二法則の検証である。図3は、横軸に夫の所得を階級別に、縦軸に妻の有業率を取ったものである。これは、「夫婦格差社会」で扱った総務省統計局「就業構造基本調査」のデータをアップデートしたものである。

図3 夫の所得階級別の妻の有業率

(出所:総務省統計局 「就業構造基本調査」より筆者作成。「夫婦格差社会」p.16に追記)

1982年のデータだと、夫の所得階級と妻の有業率の間には「右肩下がり」の傾向が見られる。しかし、2012年のデータだと「右肩下がり」の傾向は見られず、むしろ「逆U字型」の傾向が見られないだろうか。ここから「ダグラス・有沢の第二法則」は消滅しつつあることが見える。

さらに、夫の所得が100万未満のときの妻の有業率は53.7%である一方で、700万円以上のときは56.2%と、夫が低所得のときの妻の有業率よりも、夫が高所得のときの妻の有業率のほうが高くなっている。貧困世帯では、貧しくても働けない状況が年々深刻になっているのではないか。貧困ながらも専業主婦でいるしかない状況については周(2012)を参照してほしい。

かつては高所得の男性を夫にもつ妻は働かなかったのに、現在では、働く妻の所得によって世帯間の所得格差が広がっていくのである。ましてや、その夫婦どちらもが高い学歴や稼得能力を持っていたらなおさらだろう。

「夫婦格差社会」ではこのようなカップルを「パワーカップル」と呼び、その学歴・職業・所得の組み合わせを詳細に調べている。少しご紹介しよう。例えば、学歴については、大学卒の夫と妻について、その学歴の組み合わせを見ている。我が国のトップ校である「旧帝国大学・一橋大学・東京工業大学」を卒業した男性の妻の学歴は、他の国立大学・私立大学など多様であるのに対して、「旧帝国大学・一橋大学・東京工業大学」を卒業した女性の夫の63.64%は、同じく「旧帝国大学・一橋大学・東京工業大学」を卒業している。

夫婦の職業については、専門職・技術職がパワーカップルの例ではないかと考え、医師・法曹のうち弁護士・研究者に絞って調べてみた。女性医師の配偶者の67.9%は同じく医師(注3)であるし、さらに最近のデータでは73.7%にものぼるという(中村(2012))。

(注3)日経メディカルオンライン2007年10月16日号

法曹のうち、弁護士では、データによってばらつきがあるものの、女性弁護士の配偶者の半数程度は同じく弁護士である(中村(2008))。研究者についても同様に、女性研究者の配偶者の51.9%は同じく大学教員・研究者であった[4]。所得の組み合わせや、さらに、妻の所得によってどの程度格差が広がっているかという詳細な検証については「夫婦格差社会」で確認してほしい。

(注4)最新の結果については「第四回 科学技術系専門職の男女共同参画実態調査」男女共同参画学協会連絡会(2017)を確認されたい。

先にほのめかしたように、「ダグラス・有沢の第二法則」は、夫の所得に対する妻の就業行動を問うものであり、あくまで夫の所得が主である。つまり、この法則は、「私が働いているのは夫や家計を助けるためじゃない!」という声には対応できていない。視点を変えてみる必要がありそうだ、というのが「夫婦格差社会」での主張の一つである。

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