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金融緩和「修正」でも出口の見えない日銀の「憂鬱」 - 鷲尾香一

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 7月20日の『時事通信』による「日本銀行が大規模な金融緩和策で『0%程度』としている長期金利の誘導目標の柔軟化を検討」「一定程度の金利上昇を容認する」「金融機関の収益悪化や国債取引の低迷など副作用を軽減しつつ、緩和長期化に備えるのが狙い」との報道を皮切りに、その後も各社による日銀の金融緩和策見直し検討報道が相次ぎ、市場が大きく揺れた。

 各社の報道を総括すると、「日銀は7月30~31日の金融政策決定会合で、長期間続いている金融緩和の副作用への対応策を検討する。特に、低金利で収益悪化が続く金融機関への“累積的”影響や国債市場の機能低下、日銀の上場投資信託(ETF)買い入れによる個別株の価格形成への過度な影響などへの緩和策を検討する。緩和策としては、長期金利の誘導目標やETFの買い入れ手法の柔軟化が選択肢になる」といったところだ。

 これらの報道を受け、週明けの23日には10年物国債利回りが急上昇(価格は下落)し、0.09%を付けた。同利回りは26日には2017年7月以来、約1年ぶりに0.1%に上昇した。23日の日経平均株価は300円を超える下げとなったが、そうした状況の中でも収益改善が見込めるとして銀行株は大きく上昇した。日米の金利差縮小から為替相場は、円高・ドル安に動いた。

 さてこれらの報道では、日銀が金融緩和政策を修正するのには、いくつかの要因が挙げられている。そこで報道内容を因数分解し、その根底にある日銀の姿勢を解き明かしてみたい。

「ステルス・テーパリング」に向けて

 まず、要因として「国債市場の機能低下」が挙げられている。確かに、日銀が量的緩和のために、市場のほとんどの国債を買い入れ、さらに国債利回り(長期金利)が上昇しないように“ペギング(釘付け)”にしているのだから、市場としてはほとんど機能していない。

 銀行などによる国債の売買(業者間取引)が成立しなくなり、資金証券部など国債取引の担当部署は大幅な人員削減を行っている。当然だろう。価格が変動し、安いところで買って、高いところで売る、あるいは高いところで売って、安いところで買い戻すから儲けが生まれるのだ。価格が変動しないのでは、儲けようがない。

 しかし、こんな話は今に始まったことではない。筆者は、2016年3月15日の拙稿「『マイナス金利』で崩壊が始まった『国債市場』の危険度」の中で、日銀の金融政策により、国債市場が機能不全に陥っていることを指摘している。

 また、「ETF買い入れによる個別株の価格形成への過度な影響」も要因の1つとして挙げられている。この点についても、筆者は2016年11月21日付の拙稿「日銀『マイナス金利』が歪めた『株式市場』の危険度」の中で、個別企業の株価形成が偏向し、企業業績が悪くても高い株価が維持され、個別企業の株価の調整機能が著しく低下する点や、日銀が大株主となることで、企業のコーポレートガバナンスに悪影響を及ぼしているとも指摘した。国債市場の機能低下も、ETF買い入れによる個別株の価格形成への過度な影響も、日銀は“百も承知”なのだ。

 日銀は、2016年9月から金融政策の手法を国債の大量購入による「量」から金利をコントロールする「金利」に変更した。「長短金利操作付き量的・質的金融緩和(イールドカーブ・コントロール)」だ。これは、筆者が再三指摘しているように、量的緩和では日銀が政策目標とする消費者物価指数(CPI)2%上昇が達成できないことを認めた上でのこと。

 ステルス・テーパリング(隠れた量的緩和の縮小)と言われるように、日銀は国債買入額を着実に縮小している。未だに日銀は「年間の国債保有増加額80兆円をめど」という旗印は下げていないが、実際にはすでに年間40兆円程度しか買い入れを行っていない。従って、国債の買い入れ額(量)を縮小した以上、次のステップは長期金利の誘導目標(金利)となるのは、当然のことだろう。

金融機関に与えた「“累積的”影響」

 1つのヒントがある。言い換えれば、今回の金融緩和策の修正を示唆したものでもある。金融緩和策の修正に動く要因の1つとして、「低金利で収益悪化が続く金融機関への“累積的”影響」が挙げられている。2017年12月22日の拙稿「変化した日銀『黒田総裁』発言で金融政策『変更』はあるか」では、黒田東彦日銀総裁が、「低金利が金融機関の経営に与える“累積的”影響」に言及した下りを取り上げている。

 その内容は、黒田総裁が2017年11月13日にスイスのチューリッヒ大学で行った「『量的・質的金融緩和』と経済理論」という講演で、現在日銀が進めている質的・量的金融緩和のように、金利が下がり過ぎると銀行の預貸金利ザヤが縮小し、経営が苦しくなることによって金融仲介機能が阻害され、逆に金融緩和の効果が反転(リバース)する可能性がある、という「リバーサル・レート」を紹介したことを取り上げ、さらに黒田総裁は、「低金利環境が金融機関の経営体力に及ぼす影響は累積的なものである」「こうしたリスクにも注意していく」と述べたことに触れた。そして、この“累積的”という認識は、これまで示されてこなかったものだと指摘した。

 さらに拙稿では、もし、低金利環境、マイナス金利が金融機関の経営に“累積的”に影響しているという危機感を持っているのであれば、「イールドカーブ・コントロール」を水準訂正し、金利水準をわずかながらも引き上げるような小幅の政策変更を実施する可能性はあるだろう、と予測した。

 そして、金融政策を変更するのは、金融機関の経営を安定化させ、ひいては国民の預金を保護するためとなれば、十分な大義名分となり、金融機関を悪役にすることで黒田総裁の面子も保たれると、指摘した。

 さて今回、もしも日銀が「イールドカーブ・コントロール」の水準訂正などの金融緩和策の修正を行うならば、それは予想されたことであり、ある意味ではスケジュール通りと言ってもいいかもしれない。

出口戦略の一環ではない?

 1つ明確にしておきたいことがある。それは、今回の金融緩和策の修正が、金融緩和政策から正常化に向けて行われる出口戦略の一環ではない、ということだ。

 では、何故このタイミングで修正を行うのか。

 筆者は2018年5月17日の拙稿「物価上昇率2%の『達成時期削除』した黒田・日銀『敗北宣言』の読み解き方」の中で、「CPIの2%上昇」の達成時期を削除した理由の1つに、「新たに就任した若田部昌澄副総裁の金融政策決定会合での立場」があると指摘した。

 バリバリのリフレ派で追加金融緩和を主張していた若田部副総裁が、日銀の金融政策決定会合で追加金融緩和を主張せず、「金融政策の現状維持」に賛成すればその主張に齟齬を来すことになるため、CPIプラス2%達成の錦の御旗は掲げたまま、達成時期だけを削除したのだと解説した。

 その若田部副総裁は『日本経済新聞』(6月28日付)のインタビューで、「物価がトレンドとして下がっていく感じで、デフレに戻る危機があるなら政策調整をやらざるを得ない。必要であればちゅうちょなく追加緩和すべきだ。金利を操作するか、資産購入の対象を増やすか、資産の購入額を増やすか。この3つの戦略でのぞめばよい」と発言している。

 これこそが、日銀が金融政策の修正に乗り出した理由なのだ。すでに、CPIプラス2%達成という目標は断念しているが、日銀には“景気の番人”としての自負がある。CPIこそ上昇しないが、雇用、賃金などは好調で、景気は安定した状態にあると言える。

 では、若田部副総裁が危惧し、追加緩和を実施すべき「物価がトレンドとして下がっていく感じ」とは何を想定しているのか。それは、来年10月1日からの消費税率10%への引き上げだろう。2014年4月の消費税率8%への引き上げでは、実質経済成長率が2013年度の2.6%プラスから2014年度には0.3%のマイナスに落ち込んだ。さらに付け加えるならば、2020年の東京オリンピック終了後の景気の落ち込みも視野に入れているのではないか。こうした景気の悪化が懸念される事態に対して、その準備としての金融緩和策の修正だと見るのが妥当だろう。

 黒田総裁はこれまでに幾度も、「金融緩和策はまだまだある」と発言している。しかし、現在行っている金融政策が限界を迎え、その副作用が懸念される中、金融政策の修正を行い、懸念される景気悪化に立ち向かうための“金融緩和策の伸び代”を作ることが、最大の狙いだろう。

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