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「一般意志2.0」が橋下市長の“独裁”を止める?―現代思想家、東浩紀インタビュー

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東浩紀氏。(撮影:野原誠治) 写真一覧
「筆者はこれから夢を語ろうと思う」。この一文を冒頭に掲げた東浩紀氏による思想書「一般意志2.0」。機能不全に陥った既存の民主主義の限界を指摘し、より開かれた新たな民主主義のあり方を提案する本書は論壇で大きな話題となっている。東氏は本書の中で、Twitterに代表される情報技術を用いて、「大衆の無意識の欲望(=「一般意志2.0」)」を可視化することにより、現在の民主主義(=熟議民主主義)がアップデートされると主張している。

その主張をめぐって賛否両論が寄せられる本書の内容を、著者である東浩紀氏に改めて解説していただくと同時に、「思想家」という立場から現代日本が抱える問題点について語っていただいた。(取材・執筆:大谷 広太、永田 正行【BLOGOS編集部】)

「独裁」を抑制する最良の装置は「一般意志2.0」


―「一般意志2.0」は多くの識者に読まれ、賛否両論、様々な感想が寄せられています。その中には、ニコニコ動画のコメントやTwitterの声を拾い上げて、政治に反映させるという主張だとの理解に基づいた「こんなに無秩序なネットの声に政治を任せるなんて何を言ってるんだ」という批判も多いですが。

東浩紀氏(以下、東氏):そのような主張は、まったくしていません。そこは本当に驚いています。これだけの誤解にさらされること自体が何かの症状としか言いようがない。

具体的な例えを挙げると、今橋下徹さんをめぐって、ポピュリズム批判みたいなものがネット上で盛り上がっています。僕はあの批判に関しては、半分ぐらい正しくて、半分は間違っていると思う。

ポピュリズムの否定は民主主義の否定です。大衆の意志が社会を決めるというのは原則として正しい。だから、ポピュリズム批判は原則としては成立しないと思っている。ただ問題なのは、例えば橋下氏の場合、選挙で民意の付託を受けたのだから、あとは俺が全部やるよ、という図式です。これが独裁と批判されている。しかし、この状態の解決策は、非常に簡単だと僕は思っている。橋下徹氏が常に民意を確認できる、民意を可視化できるようなシステムをつくればいい。

しかし現状では、ワイドショーや世論調査、いずれにしろ橋下氏がもうメディアとして信用できないと思っているものしかないから、橋下氏はそれをシャットアウトし「俺は民意とつながっているはずなんだ」という形で政治を行っている。だから、独裁に見えてしまう。仮に橋下徹氏がかぎかっこつきの「独裁」をしているとするならば、それを抑制するのに最良の装置こそ「一般意志2.0」なんです。

―常に橋下市長が「一般意志2.0」を確認できる状態にしておくということですか?

東氏:そうです。橋下さんのキャラクターを考えると、もしそういうシステムが組み込まれていたら、敏感に反応すると思いますよ。例えば、「やっぱり民衆は道頓堀プールとか求めていないんだ」というのが、その場でわかるわけですから。

いずれにせよ、今みたいに選挙も機能しない、議会、特に地方議会は機能しない、さらにメディアも信じられないとなったら、ああいう「ポピュリスト」が出てくるのが当たり前なんです。有権者からしても、いままでみたいに小さいコミュティがあって、知り合いの議員がなんとかしてくれるという回路がぶっ壊れてしまって、人口も社会階層も流動的になっている。

山口二郎さんとか香山リカさんは、そういう流動的で不定形な大衆は危険だと言うわけですが、もう不定形になっちゃったんだから仕方ない。であれば、不定形で流動的な大衆の民意を可視化する装置を考えるしかない。

ちなみに僕は、政策的には橋下さんを支持していますし、彼が独裁だと思っているわけじゃありませんよ。あくまでも例えの話ですが——でも、このタイトルだけで今度は反橋下派だとか言われるんだろうな。困ったもんです(笑)。

加えて、人々は政治家というものに対して、勘違いをしているんじゃないかと思っています。政治家というのは、基本的に民衆の空気を読む人たちです。みんな、政治家がわけのわからない勝手なことをやっていると批判しますが、それは政治家が空気を読めなくなっているということを意味するにすぎない。

もちろん、中には特殊な信念に基づいて政治家をやっている方もいる。でもそれは少数で、多くの政治家は民意を実現したいと思っている。しかし、現代社会では彼らにも民意は見えない。だから独裁などと言われる。それならば、民意を作る新しい装置をつくればいい。選挙とは別に、常にオンラインで機能していて、行政や立法の場に緩やかな形で介入できる何らかの制度を整える。

それは具体的にはなんだっていいんです。僕は本でニコニコ動画を取り上げましたが、それは一つの例に過ぎない。ただ、情報技術によってサポートされた、世論調査を遥かに超えた、細かい精度をもった民意の可視化システムを整えるというのは、これからの政治、国家にとって、非常に重要なことだと思います。そしてそれこそが本当は近代民主主義の原理に近いというのが、僕がわざわざルソーを読み返した理由です。そういう発想がないからこそ、独裁ポピュリズムしか出口がなくなっているんです。

―その他にも、様々な形で批判されているように思います。

東氏:「一般意志2.0」は、おかげさまで結構部数も出まして、幅広い読者に読まれました。そのこと自体は良かったのですが、その分読まれ方が拡散してしまって、元々の僕の出発点が理解されなくなってしまっている。

そもそも僕の出発点というのは、いわゆる「現代思想」の世界です。現代思想の世界においては、1990年代ぐらいは、非常にリベラルな議論がなされてきました。「無限の他者に開かれる」というような発想です。「ずっとコミュニケーションをとり続ける」「誠心誠意をもって他者にコミュニケートし続ける」というのが一つの倫理だといわれていました。僕は今非常に簡単にわかりやすく話しているので、これだけですとあまりに単純に聞こえるかもしれませんが、むろん、この「無限の他者論」の背景にも様々な哲学者がいて、非常に精緻な理論が作られていたわけです。

僕は当時大学院生で、まさにそうした主張をする先生に教わっていました。しかし同時にその頃から、「いや普通に考えてそれはないだろう」という疑問があった。そういう他者論に対して、どういう問題提起をすればいいのかという考えが常にあったのです。

僕の最初の本は、ジャック・デリダというフランスの哲学者の研究書です。ジャック・デリダの基本的な概念は「エクリチュール」というものです。これはフランス語で「書くこと」、「ライティング」という意味です。具体的にどういうことかというと、例えば彼は、いくらコミュニケーションを続けるべきだと叫んでみても「インクが尽きる」ということはあるだろうと主張している。つまり、コミュニケーションというのはモノに基づいている。紙やインクがなくなってしまったらコミュニケーションが取れないだろうと主張するのです。ヨーロッパの思想というのは、伝統的にそういう物質的制約を非常に軽視してきたというのがデリダの哲学の核心です。

つまり、「一般意志2.0」は、元々の僕の出発点である、「無限のコミュニケーション論」「無限の他者論」に対する哲学的な懐疑から始まった本でもあるのです。だから熟議批判が入っている。無限にコミュニケーションをとることは出来ないはずだという問題意識からから始まった本であるということを、今日は言っておきたいと思います。

―意図していた文脈とは異なる読まれ方をしているということでしょうか?

東氏:哲学・思想の文脈だけで話をしていると議論が広がりを持たないので、そこは一般読者にも読まれるように努力しました。ですから、異なる読まれ方をしてもいいのですが、しかし批判するには相手の文脈をある程度尊重しなければならない。その点で、僕を批判している方々は「ちょっと不勉強なのかな」とは正直思いました。

つまり、自分の得意分野だけで批判をしてきて、そもそも僕の主張がどこから始まっているかということをまったく考慮していない。ネット的な読み方といえばそのとおりですが、ちょっとガッカリしたところはありますね。

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