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ネットやフリー記者を標的にしそうな秘密保全法‐どんわんたろう‐

2012年02月09日 00:00

マガジン9

 コンピュータ監視法について本コラムで最初に取り上げたのは、ちょうど1年前のことだった。ネットでの反対は盛り上がったものの、マスコミがほとんど報道しないまま危険な法律はあっさり成立し、今年1月にはウイルス作成容疑で最初の逮捕者が出た。適用事例は今後、増えていくことだろう。恣意的な運用がなされないか、十分に目を凝らす必要がある。

 そうこうしているうちに、またしても憲法21条(表現の自由)を侵しかねない法案が浮上してきた。その名を「秘密保全法」と言う。名前からして、いかがわしいこと、この上ないですね。民主党政権、自民党以上にやってくれるのである。

 開会中の通常国会に提出されるかもしれない法案は、昨年8月に「有識者会議」とやらがまとめた報告書が土台になるという。まずは、その内容や問題点を学ぼうと、1月下旬に東京都内で開かれた勉強会に参加してきた。

 いやはや、こんな法律ができたら、どんな使われ方をするかわからない、という印象を持った。この国の為政者たちは、政府が持つ情報をいったい誰のものだと考えているのだろう。

 内容をできるだけ噛み砕いて紹介する。

 「国の安全(防衛)」「外交」「公共の安全及び秩序の維持」の3分野を対象に、「国の存立にとって重要なもの」を「特別秘密」に指定できる。第1の大きな問題点は、指定するのが当の行政機関、つまり文書を作った役所だということだ。特別秘密の範囲は法律の別表であらかじめ列挙するそうだが、どこまで具体的に示すのか甚だ疑問だ。いつものことながら、わざと曖昧な表現にして、どうにでも拡大解釈できるようにしておく可能性が高い。

 役所にしてみれば「公共の安全・秩序を維持するため」なんて理由をもっともらしく付けるのは簡単だ。ちょっとでも国民の目に触れさせたくない文書は「とりあえず特別秘密に指定してしまえ」となりかねない。本来、国の文書はすべて国民のものなのに、遠ざけられることになる。私たちの生命にかかわる情報さえ、何も知らされないかもしれない。加えて、国のやっていることが正しいかどうか、チェックする材料も持てなくなる。国にとってはとても都合が良いのだ。

 それが常態化すればどうなるか。原発事故をめぐる国からの情報の伝わり方を振り返ってみれば、実感できると思う。

 特別秘密を扱う人に対しては、日ごろの行いや取り巻く環境を調査し、漏えいするリスクを評価する制度が導入されるという。公務員だけでなく、業務委託を受けた民間の職員も対象になる。調査事項には、海外への渡航歴や通院歴、アルコールの影響なんて項目も挙げているし、配偶者についても調査することに触れていて、プライバシーを侵害しかねない。

 罰則も重い。故意に特別秘密を洩らした場合、最高で懲役10年とする方向のようだ。現在、自衛隊法の防衛秘密漏えいが最高で懲役5年、国家公務員法の守秘義務違反が同じく懲役1年になっているのに比べて、厳しく罰せられる。特別秘密の内容をもとに内部告発をした暁には、すぐに逮捕されて長期間の獄中生活が待っている。公務員を萎縮させる効果は十分だろうが、「正義の告発」がなされなくなることが国民にとって幸せなのか。尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件のビデオ映像を思い出してみよう。

 第2の大きな問題点は、この法律が報道のあり方に大きくかかわってくることだ。

 特別秘密の漏えいをそそのかした場合(教唆)も処罰対象になる。しかも、「独立教唆」と呼ばれ、そそのかしに公務員が応じなかったとしても、そそのかした側は犯罪になる。厳密に言えば、記者が取材先の公務員に「あの秘密文書、ちょっと見せてよ」なんてしつこく迫ったら、その時点でアウトである。

 しかも、ご丁寧に「特定取得行為」なんて規定もできる。「財物の窃取、不正アクセスまたは特別秘密の管理場所への侵入など、管理を害する行為を手段として特別秘密を直接取得する場合」と「欺罔により適法な伝達と誤信させ、あるいは暴行・脅迫によりその反抗を抑圧して、取扱業務者等から特別秘密を取得する場合」だという。報告書は、これらが「犯罪行為や犯罪に至らないまでも社会通念上是認できない行為を手段とするもの」だから、処罰対象とすることに理由があると強調している。

 明らかに取材を萎縮させようと意図しているのだろう。そもそも、権力側が隠すネタを取るためには、犯罪すれすれの行為をせざるを得ないことが多い。もちろん、すべての場合に何をしてもいいというわけではないが、意欲的な記者なら、無断で資料の1枚や2枚、持ち帰った経験はあるはずだ。

 そもそも「社会通念上是認できない行為」って何だろう? 誰が決めるのだろうか? 役人の自宅に菓子折りや一升瓶を下げて夜回りに行ってあれこれ聞いたり、役人を飲み屋に誘って酔っぱらわせてしゃべらせようとしたりしても、いかようにも犯罪にされてしまう。取材の手段が妥当かどうかは、あくまで取材で明らかにしようとした事項の公益性によって判断されるべきで、犯罪すれすれの行為が一様に否定されるべきではあるまい。

 報告書はわざわざ、「国民の知る権利等との関係」という項を立て、「正当な取材活動は処罰対象とならないことが判例上確立している」「特定取得罪は、取材の自由の下で保護されるべき取材活動を刑罰の対象とするものではない」と釈明している。

 じゃあ、「正当な取材活動」や「保護されるべき取材活動」ってなんだろう? それに当たるかどうか、誰が、どういう基準で決めるのか?

 おそらく、新聞社や放送局の記者の取材は、よほどのことがない限り、自動的に「正当な取材活動」と認められるのであろう。昨今の消費増税やTPPを巡る、権力とマスコミのもたれ合い構造を見ていれば、容易に想像がつく。何より今の新聞社や放送局に、身体を張ってでも権力が隠しているネタを取ろうとする記者が、そういるとも思えない。

 となると、標的になりそうなのは、ネット系メディアやフリージャーナリストたちだ。たしかに、原発事故後の報道を見ていても、権力側に都合が悪い情報に向かって懸命に取材・発信しようとしているのはネットやフリーだった。逆に言うと、権力側にとっては、とても鬱陶しい存在に違いない。個人情報保護法では、フリーも新聞社や放送局と同様に扱われているらしいけれど、秘密保全法でもそうなる保証はない。

 首相をはじめ各大臣の記者会見には「新聞・雑誌・インターネット協会加盟社の媒体に定期的に記事を書いていること」なんて参加条件があり、たとえば協会加盟社以外のメディアで発信している記者は出席できない。こういうのを援用して、「記者会見への参加条件を満たしていないから、お前は『記者』と認められない。だから、お前のやったことは『取材・報道』ではなく、犯罪だ」なんて差別的な運用がなされるのではないか。「正当な取材・報道」の定義が曖昧だから、権力側が都合の良いように解釈する余地は多分にある。

 秘密保全法案が通常国会に提出されるかどうか、現段階では不透明だそうだ。新聞各紙は昨秋の社説で、知る権利や取材の自由の制約につながると懸念を表明したが、その後はほとんど報道していない。ネット系やフリージャーナリストが中心になって声を上げ、国民的な議論を巻き起こしていかないと、今の政治状況では提案されればすんなり成立してしまう可能性が高いそうだ。コンピュータ監視法を教訓にしなければいけない。

 秘密保全法に直接の影響を受けるのは、公務員や報道関係者に違いない。でも、ここまで書いてきた通り、一般の国民にも深くかかわってくる法律である。行政の情報がきちんと伝えられないため、生活や経済や、場合によっては生命に、重大な影響を受けるのは他ならぬ国民だからだ。勉強会で講師を務めた清水雅彦・日体大准教授(憲法)は「国民の権利や自由が広範に侵害されるおそれがある」と指摘していた。

 2月8日には日弁連主催の院内集会が開かれるし、この法律の動向を引き続き注視していきたい。

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