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文部官僚「裏口入学」事件 あの学園を連想させる構造的問題

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裏口事件で開かれた野党のヒアリング(時事通信フォト)

逮捕された佐野太・前文科省局長(時事通信フォト)


 文科省のエリート官僚ともあろうものが、たかだか息子を裏口入学させるために贈収賄を働くとは──世間はただの“セコい悪事”で終わらせようとしているようだ。しかし、この事件で浮き彫りになったのは、文科行政が官僚たちの恣意的な判断によって決められているという構造的問題である。そう言われれば、誰もが「あの学園」を連想するはずだ。ノンフィクション作家の森功氏がレポートする。(文中敬称略)

 * * *

 さる7月4日、文部科学省の前科学技術・学術政策局長、佐野太(58)の逮捕を事前にキャッチしていたマスコミは皆無だったという。文科省の高級官僚をターゲットにした受託収賄は、新聞各社の司法担当記者にも寝耳に水の事件であり、一様に驚きを隠さなかった。

 もっとも司法担当記者たちが驚いた理由は、東京地検の捜査に気付かなかったからだけではない。役人の子弟の裏口入学は特捜事件としては極めて異質であり、違和感を覚えざるを得ないものだったからだ。

 佐野は、出来のよくない一浪の息子を東京医大に入学させてもらうため、大学に便宜を図ったという。実際の試験に加点してもらった裏口入学が賄賂にあたる。一方、賄賂を渡した東京医大は、文科省の「私立大学研究ブランディング事業」なる補助金事業の選定を佐野に頼んだ。年間3500万円の補助金が、裏口入学という賄賂の見返り。そんな珍妙な構図の事件だ。

 国会議員をはじめとした権力者の横暴に立ち塞がる東京地検特捜部が手掛けるには、いかにも見栄えがしない。霞が関の高級官僚を摘発したものの、普通なら警察に任せるような事件に、あえて東京地検が切り込んだのはなぜか。そう首を傾げた向きも少なくないだろう。佐野逮捕の翌日から西日本を襲った豪雨やオウム幹部たちの死刑執行のせいで、報道もずい分控えめになってしまった。

 だが、その実、特捜部にはもっと根深い別の狙いがあるのかもしれない。それは決して深読みに過ぎるわけでもない。事件には官邸と霞が関の暗闘に通じる背景がある。

 地検特捜部が受託収賄の見返りと位置づける私大のブランディング事業は、2016年からスタートした。その第一弾として、全国の私大198校が手を挙げ、うち40校が選ばれた。実に競争率5倍の難関だ。

 そんな栄えある第一号の私立大学の中で、目を引くのが千葉科学大学と岡山理科大学である。どちらも学校法人加計学園の経営する大学だった。

 奇しくも事業選定が始まった2016年6月、前川喜平が文科省の事務次官に就任した。次官になった前川が首相補佐官の和泉洋人をはじめ、官邸サイドから加計学園の進める獣医学部新設計画に賛同するよう、さまざまな圧力をかけられていた時期とピタリと重なるのである。

 そしてこのとき、目下、受託収賄の罪に問われている佐野本人もまた、統括審議官から官房長に昇進した。官房長は国会対応をはじめ、文科省内と政権中枢との調整役を果たす。まさにそんな微妙なタイミングで、加計学園が文科省の補助金給付対象事業の私大に選ばれているのである。

 東京医大の裏口入学事件の温床になった私大のブランディング事業。そこには、安倍政権のおかげで悲願の獣医学部新設にこぎ着けた加計学園がいち早く手を挙げ、政府肝煎りの政策でライバルを蹴落として選ばれたことになる。加計学園は獣医学部の新設問題で、「依怙贔屓の末の裏口入学みたいだ」と揶揄されたが、現実に起きた裏口入学事件とも、奇妙な共通点が見え隠れする。

◆誰が影響力を行使したか

 文科省の科学技術・学術政策局長だった佐野は、事務次官へ昇りつめる一歩手前だったといわれる。1959年山梨県塩山市(現・甲州市)生まれ。早大理工学部の大学院を卒業し、1985年に科学技術庁入りした。文部省と科技庁が合体した文科省内で、元文部大臣小杉隆の娘婿でもある佐野は科技庁出身のエースとして、出世街道を歩んできた。

 内閣府科学技術政策担当大臣だった笹川堯や尾身幸次の秘書官を経て、2005年には私立学校法人担当の高等教育局私学部参事官(課長級)に就任。2016年6月に官房長に就いたあと、東京医大の応募した文科省のブランディング事業にかかわり、東京地検に逮捕される羽目になる。

 教育行政を司るエリート官僚がはまった私大入学を巡る汚職事件は、極めて珍しいケースだ。ごく簡単に振り返ってみる。

 文科省の佐野のほか逮捕されたのは、東京医大とのパイプ役を果たした医療コンサルタントの谷口浩司(47)。贈賄側である東京医大前理事長の臼井正彦(77)や学長の鈴木衛(69)については、捜査に協力的だとして特捜部も逮捕せず、在宅で取り調べを進めてきた。特捜部が賄賂と認定した裏口入学について、逮捕後、佐野本人は否定しているが、贈賄側の臼井たちはあっさり認めている。

 また特捜部が賄賂の見返りと位置付ける文科省の「私立大学研究ブランディング事業」は、3月から6月まで公募を受け付け、10月までに文科省が大学を選ぶことになっている。その大学選定については、私大の理事や学長など11人の「私立大学研究ブランディング事業委員会」と26人の教授たちからなる「審査部会」が個別の研究計画を採点し、決定する仕組みだ。表向き、第三者の審議会が補助金を与える大学を選定する建前になっている。

 そこで事件当時官房長だった佐野は、「大学選定の権限もないし、タッチもしていない」と容疑を否認。

「これに対し特捜部は、佐野がコンサルタントの谷口を通じ、事業に応募する際の申請書類の書き方を指南したとみて、捜査を進めています。その上で、第三者の審議会への働きかけがあったかどうか、そこを詰めていく」(司法関係者)

 東京医大は、ブランディング事業の初年度にあたる2016年度にも応募したが、落選していた。そこで翌2017年度に再挑戦し、佐野たちのアドバイスを受けて見事合格したのである。

 そこは大学側が認めているので明らかだ。すると当の佐野自身は特捜部の調べに対し、「あくまで個人的にアドバイスしただけ」と半ば認めた。だがその一方で、大学選びは第三者機関の決定であり、官房長には制度上の職務権限がない、と徹底抗戦の構えを崩さない。裏口入学についても知らなかったと頑なだが、問題は誰が第三者委員会に影響力を行使したか、である。

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