記事

朝鮮半島問題、日本にとって「最悪のシナリオ」とは? 極東における米軍プレゼンスの将来と日本の役割(2) - 村野 将

1/2

 前回は、朝鮮半島を中心とする極東の安全保障情勢に影響を与えうる各種要因につき、主に「能力」の面に着目して現状分析を行った。第二回となる本稿では、これまでの分析に基に、今後の朝鮮半島をめぐる情勢がどのような方向に進む可能性があるか、複数のシナリオを検討し、その上で日本が取り組むべき課題について考えてみたい。

[ブログで画像を見る]

シナリオ(1)非核化交渉の停滞、経済・軍事圧力路線への回帰

 第一は、継続的な米朝交渉を経ても北朝鮮が誠意ある非核化を実施する態度を見せなかった結果、米国が態度を再び硬化させ、米韓は定例合同軍事演習を再開。終戦宣言を含む平和プロセスも進まず、結果的に米韓同盟や在韓米軍も従来通り維持されるシナリオである。

 これは現時点での客観的な情勢判断を最も冷静に反映させ、各国が安全保障のリアリズムに沿って行動するシナリオであり、日本が元々描いていた「最大限の圧力」アプローチへの回帰とも言い換えられる。ここでは、一度弛緩した対北封じ込め網を締め直し、北朝鮮が自発的に核・ミサイルの放棄を余儀なくされるまで抑止態勢を立て直すことになる。だが、北朝鮮の非核化意思がいかに怪しいものであっても、政治基盤を盤石にした文政権が自発的に対決路線に振れることは考えにくい。したがって、このシナリオに至るドライビング・フォースとなるのは、米国に対する脅威が低減されていないことを理由に、米国内のトランプ支持層に否定的な見方が増え、トランプ大統領自身がより強硬な姿勢で北朝鮮から実質的な譲歩を勝ち取る必要性に迫られた場合であろう。

 このシナリオでは、実質的な核武装国となった北朝鮮と我慢比べをする以上、締め付けを解こうとする北朝鮮による武力攻勢(核・ミサイル実験の再開、限定的な軍事挑発等)回帰リスク、あるいは痺れを切らした米国による先制軍事行動のリスクがつきまとう。しかしそのリスクの大きさは、これ以外のシナリオによって生じるリスクを相対的に比較した上で評価する必要がある。

シナリオ(2)融和ムードの先行、米韓同盟の実質的な抑止態勢が形骸化

 第二は、北朝鮮がICBM用エンジン実験施設の破壊や一部施設への限定的な査察受け入れなど、実質的効果の薄いジェスチャーを示す一方で、水面下での様々な能力向上(高濃縮ウラン、各種ミサイル本体、移動発射台の増産、指揮統制能力の改善等)を継続。しかし、核やミサイルの表立った実験は行われず、それを理由に北朝鮮との融和ムードと形だけの米朝交渉が継続して、「フォール・イーグル」や「キー・リゾルブ」といった主要な米韓合同演習もしばらく中断され、朝鮮戦争の終結手続きが進展するシナリオである。

 このシナリオでは、米韓政治指導部と国防当局の相違が顕著になる中、在韓米軍の規模縮小は極少数の象徴的削減にとどめるも、演習中断の長期化によって米韓連合体制の即応性が徐々に失われ、事態対処能力が形骸化する。また、トランプ大統領の北朝鮮に対する警戒感が失われたことで、日韓両国では拡大抑止の信頼性が常に問われ続けることになる。

 現在、米国防省やインド太平洋軍・在韓米軍は、目立った訓練・演習ができない中でも即応性を維持すべく、可能な訓練を日本や東南アジアなど他の場所・国々と連携して代替することを検討しており、例えば米韓首脳会談直後にも、グアムから発進したB-52が東シナ海付近まで飛来するなどの活動を継続している。日本としては米国と予定されている各種演習(特に海空)を確実な実施に努めるとともに、日本海周辺での日米共同訓練や、西太平洋における日米韓のミサイル情報共有訓練を積極的に実施していくことが望まれる。ただし米韓合同演習は地域にプレゼンスを維持するだけでなく、米韓連合作戦の調整・演練を主たる目的としていること踏まえれば、在韓米軍の演習を個別に継続したり、他地域での訓練で代替することには限界があるだろう。

シナリオ(3)在韓米軍の再編・縮小によるトリップワイヤ機能解除

 第三は、朝鮮戦争の終結や戦時作戦統制権の返還を受け、在韓米軍の役割・任務・能力の再編が行なわれるシナリオである。

 在韓米軍の再編と言っても様々な方式が考えられるが、いずれの場合でも注目すべきは、ソウル以北に駐留する在韓米軍の主力部隊、第二歩兵師団隷下の第210野戦砲兵旅団と1個機甲旅団戦闘団の扱いだろう。元々、これらの米地上戦闘部隊は、2003−4年に行なわれた在韓米軍再編協議において、龍山にあった在韓米軍の司令部機能とともに、ソウル以南の平沢に移転されることが決まっていた。こうした決定を行ったのは、地上戦能力については韓国軍の主体性を高めると同時に、朝鮮半島有事に専従してきた米地上戦力の足枷を外して、グローバルな不測事態に応じて域外に機動展開させるための「戦略的柔軟性」を高める狙いがあったからである。

 ところが、2010年の「天安」沈没事件や延坪島砲撃事件等をきっかけに、北朝鮮が軍事境界線を挟んだ内陸でも同様の限定攻撃を企図した場合の抑止・対処能力を向上させる必要性が高まったため、米韓両国は2014年の定例安保協議において戦時作戦統制権返還の無期限延期とともに当初の再編・移転計画を修正し、ソウル以北にこれらの部隊を残留させた。特に第210野戦砲兵旅団は、多連装ロケットシステム(MLRS)や戦術地対地ミサイル(ATACMS)からなる3個大隊を擁し、北朝鮮がソウル周辺に攻撃を行った場合に韓国軍の弾道ミサイルなどと合わせて、即座に策源地への反撃を行う可能性の高い部隊である。同部隊には平壌を直接攻撃する能力はないが、ソウル以北に駐留を続けることで、首都圏への攻撃が米軍の介入・来援のトリガーとなることを北朝鮮に明示して抑止力を高めると同時に、韓国に対しては米国の防衛コミットメントを保証する重要な役割を担っている。

 現在でも、米軍の対北打撃力の主力は、在日米軍基地の戦術航空機、グアム・米本土から飛来する戦略爆撃機、洋上に展開する空母艦載機や艦艇の巡航ミサイル、究極的には米本土の長距離弾道ミサイルなどで、わずか3万人弱の在韓米軍が持つ戦闘能力は限定的である。つまり、ソウル以北の米地上戦力に求められているのは、純軍事的な戦闘能力ではなく、38度線を挟んで米地上部隊を巻き込んだ砲撃の応酬が行なわれる構造を維持する「トリップワイヤ(仕掛け線)」としての役割である。したがって、在韓米軍の規模が変わらなかったとしても、ソウル以北から米地上部隊が後退・撤収すれば、北朝鮮による限定攻撃事態における米軍の介入意思を弱めたと認識される恐れがある。

 現在の南北間の通常戦力を比較すると、北朝鮮が倍近い規模の地上戦力を有するものの、航空戦力を含めた各種兵器の性能は韓国が優越している。そのため、在韓米軍の直接的支援がなかったとしても、朝鮮戦争初期のように韓国軍が釜山まで追い込まれるようなことはないように思える。しかしそれはあくまで通常戦力のみでの計算である。北朝鮮の大量破壊兵器と弾道ミサイル戦力は、通常戦力の劣勢を補うために開発されたものである以上、その役割は北朝鮮の総合的なエスカレーションラダーの中に組み込まれており、通常戦力の役割とは切り離せないものとして捉えるべきであろう。

 在韓米軍の主力部隊がソウル以南に後退、あるいは撤収した状態で、北朝鮮がソウル周辺に対して延坪島型の突発的な限定攻撃を行うシナリオを想定してみよう。当然、韓国は155mm自走砲「K-9」や弾道ミサイル「玄武2」、あるいは航空戦力を動員して応戦するだろうが、これに対して北朝鮮は300mm多連装ロケット砲「KN-09」や2月の軍事パレードで確認された新型の短距離弾道ミサイル等を用いて、ソウル以南に位置する米韓の軍事拠点に再報復を行う可能性が出てくる。

 北朝鮮がこうした形で再報復を行えば、韓国軍だけでなく拠点を攻撃された在韓米軍も再々報復に乗り出す可能性が高くなるが、北朝鮮はそれに輪をかける形で韓国南部の兵站拠点、あるいは三沢や嘉手納など米軍作戦機の出撃拠点を、ノドンやスカッドER、北極星2で核攻撃する可能性をちらつかせて、米軍の介入・来援を阻止しようとするかもしれない。米軍による先制攻撃シナリオと異なり、この場合には北朝鮮の移動式弾道ミサイルを抑え込むのに必要な多数の航空戦力をあらかじめ適切な位置に集積・展開しておけるとは限らない。したがって対北反撃を決断する場合には、その時点で使える戦力によって限定的な反撃を行うか、本格的な制圧攻撃を行うために一定の時間をかけて周辺地域に戦力を集結させることになる。しかし、当該戦域に増派を決断・実行するその瞬間は最もエスカレーション・リスクが高く、相手にとっては心理的恫喝や物理的妨害を行うタイミングとなる。

 このような具体的シナリオを考慮すると、在韓米軍再編の様相、特にソウル以北に駐留する米地上戦力の引き揚げは、危機が高まった場合の米軍の介入を従来よりも難しくし、その影響は米軍の出撃・兵站支援拠点である日本にも及ぶ可能性がある。そのとき我々は、核恫喝に晒されるリスクを冒しても米韓を支援する覚悟があるかどうかを問われることになる。そして今や北朝鮮の核恫喝は、火星12や火星15といった中・長距離弾道ミサイルの開発によってグアムや米本土まで及ぶ可能性があることにも留意が必要であろう。

あわせて読みたい

「北朝鮮」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    堀江氏「東大のコスパは世界一」

    MAG2 NEWS

  2. 2

    よしのり氏 左翼の人権論に苦言

    小林よしのり

  3. 3

    派遣切り再び 報道せぬTVに苦言

    水島宏明

  4. 4

    日本の伝統を理解してない杉田氏

    岩田健太郎

  5. 5

    病院と癒着? FRIDAY記事に苦言

    中村ゆきつぐ

  6. 6

    橋下氏「パチンコはギャンブル」

    AbemaTIMES

  7. 7

    靖国宮司が皇室批判で辞任の真相

    NEWSポストセブン

  8. 8

    めちゃイケがTVの青春終了を象徴

    PRESIDENT Online

  9. 9

    枝野代表「増税理解できない」

    立憲民主党

  10. 10

    ハズキルーペで観察したい美尻集

    グラドル自画撮り部

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。