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【読書感想】「少年ジャンプ」 黄金のキセキ

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「少年ジャンプ」 黄金のキセキ

内容紹介
653万部という未曾有の記録を達成した週刊「少年ジャンプ」。空前絶後の部数はどのようにして生まれたのか。600万部達成時の同誌編集長が、掲載された漫画作品のエピソードを交えて、その秘密に迫る。


 元『週刊少年ジャンプ』編集長の後藤広喜さんが振り返る、『ジャンプ』の歴史。

わたしが集英社に入社したのは、昭和45年(1970年)4月である。同期入社した中野和雄とわたしのふたりは、前年の10月に週刊誌化されたばかりの「少年ジャンプ」編集部に配属された。

「少年ジャンプ」に配属された初めての新卒新入社員として「生え抜き、生え抜き」と言われ、期待されているような、からかわれているような複雑な気分を味わったが、人手不足解消要員として歓迎されているのは間違いなかった。当時の編集部の陣容は、長野規(ただす)編集長以下13人(我々新人二人を含む)であった。

 後藤さんは、自らを『週刊少年ジャンプ』編集者の第二世代だと仰っています。
 創刊メンバーではないけれど、その直後に加わった後藤さんは、創刊メンバーと、「ジャンプがメジャーになってから入ってきた後輩たちとのちょうど中間の立場として、この雑誌を育ててきたのです。
 上からは「創刊の苦労も知らないくせに」と言われ、漫画編集者という仕事にポジティブな気持ちで入ってきた後輩たちからは突き上げられるという、けっこう難しい立場だったのです。

 週刊「少年ジャンプ」は、創刊後わずか2年5ヶ月で発行部数が100万部に達した。創刊時は10万5000部だから、10倍近く部数を伸ばしたということになり、それは同時に10倍近い読者を獲得したということでもある。驚異的な浮力を発揮し、一気に上昇したわけである。

 驚異的な浮力と書いたが、同じ100万部を伸ばすといっても、100万部から200万部に伸ばすのと、10万5000部から100万部に伸ばすのとでは意味が違う。巡航速度を維持できる高度まで上昇してからさらに速度を上げていくのと(それでも大変なことだが)、地上から一気に巡航速度を維持できる高度まで上昇するのとでは、その要するエネルギー量は単純に比較できない。それを成し遂げたのだから、まさに驚くべき離れ業と言える。

 独断的な私見によれば、この離れ業を可能にした主役は、次の6作品と言える。
『父の魂』(貝塚ひろし)、『ハレンチ学園』(永井豪)、『男一匹ガキ大将』(本宮ひろ志)、『あらし!三匹』(池沢さとし)、『トイレット博士』(とりいかずよし)、『ど根性ガエル』(吉沢やすみ)。


 このなかで、僕が読んだことがある(とはいっても、リアルタイムではないのですが)のは、『ハレンチ学園』『トイレット博士』『ど根性ガエル』の3作です。
 ちなみに、後藤さんは、この6作品のなかで、とくにジャンプの躍進に貢献したのは『ハレンチ学園』と『男一匹ガキ大将』だと仰っています。

 僕は知らなかったのですが、『ハレンチ学園』って、第一部の終わりのほうで、武装した大日本教育センターの教育軍団が、ハレンチ学園を壊滅させようとする「ハレンチ大戦争」が描かれ、学園は消滅し、多くの登場人物が「戦死」するんですね。
 『ハレンチ学園』が世に出た1968年(昭和43年)は、学生運動が過激化していった時期であり、翌69年には東大安田講堂事件が起こっています。
 当時の『ジャンプ』は、子供向けという方針を打ち出しつつも、時代をうつしてもいたのです。


 著者は、1971年(昭和46年)から1977年(昭和52年)までを「飛翔期」と評しています。1977年末の発売号は、210万部でした。
 この時期を支えた作品として、車田正美さんの『リングにかけろ』が挙げられています。

『リングにかけろ』の前編は、間違いなく熱血漫画だと、わたしは思っている。都大会以後の『リングにかけろ』は、人気漫画の王道をひた走る。それはそれで、車田漫画の魅力である。ラスト、チャンピオンベルトをかけて死闘を繰り広げた高嶺竜児と剣崎順は、白いウェディングドレスを着て教会で剣崎を待つ菊(竜児の姉)のもとに、真っ白に燃え尽きて現れる。宝塚以上に宝塚的なフィナーレである。前編で、ひとつだけ触れておきたいことがある。それは、車田正美は悪人を描くことが苦手だということである。怠け者で酔っ払いの義父や田舎者の竜児をいじめる都会のエリート校の悪ガキは、ステレオタイプな描写に終始している。一方、戦う者の姿を美しく描く筆致は冴えに冴えわたる。この弱点は、車田漫画にとって意外と重いと思う。後の『北斗の拳』以降の人気ストーリー漫画、『DRAGON BALL』、『ジョジョの奇妙な冒険』、『ろくでなしBLUES』は、悪人や悪の描き方がうまいというか、リアリティがある。その分、対決シーンにドラマとしての説得力があった。車田漫画の課題は、敵役としての悪人の描き方にあったと思う。


 著者は、『リングにかけろ』の後半は「戦う戦士を美しく讃える様式美を目指したのではないか」と述べています。
 『リングにかけろ』、そして、『聖闘士星矢』の戦闘シーンの「過剰さ」は、すごくエネルギッシュというか、「なんなんだこれは……」と思いながら読んでいた記憶があるんですよね。
 そして、車田作品に限らず、「魅力的な悪人が描かれるようになっていったこと」が、漫画を面白くしていったのだと思うのです。


 また、『週刊少年ジャンプ』の躍進を支えた鳥山明さんについてのこんなエピソードも紹介されています。

 デザイン会社に就職し、仕事は鋭くこなしていたが、朝が苦手で遅刻の常習犯だった(通勤はバイク)、服装もラフな格好で、いつも₹fられていた。会社を辞め、失業者になる。お金に窮し、母親にも「いい年して、いつまで遊んでいるつもりなの」と言われ、漫画を描くことにする。お金(賞金)が欲しくて、「少年ジャンプ」の新人漫画賞に応募。賞には入らず賞金ももらえなかったが、編集部から電話がかかってきた。「まだヘタだけど、なんとかなるかもしれないから送ってよ」……鳥嶋和彦との出会いである。

 なぜ、鳥山明の履歴に触れる気になったかというと、作品が既成のプロ漫画家のだれとも似ていない作風と絵柄のせいである。あえて言えば『猿飛佐助』などの作者、杉浦茂であろうか?

 このような漫画家は、どんな人だろうという単純な好奇心である。
「少年ジャンプ」が新人漫画賞を募集してからヒット作を飛ばした漫画家で、無冠の漫画家は鳥山明と新沢基栄(『3年奇面組』)だけである。信じがたい話であるが、事実は事実である。

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