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焦点:過去最大の対外M&A、「買収玉」が跳ね返す円高圧力


[東京 11日 ロイター] - 過去最大規模に膨らんだ日本企業の海外企業買収が、外為市場で円高圧力の減退にひと役買っている。買収時に企業が支払う外貨を調達するための円売り/外貨買いニーズに加え、その巨額な資金移動を見越した投機筋が先回りして、円を売り仕掛ける動きが活発化するためだ。

11日午前の取引では、米国が2000億ドル相当の中国製品に10%の関税を適用する方針を表明し、株安が進むとともに円が買われた。それでもドル<JPY=>の下げは110円後半にとどまるなど「思いのほか底堅い」(外銀)動きが続いている。

<意外に進まなかった円高、「強力なブレーキ」の存在>

今年上期(1─6月)に、主な新興国も含めた主要通貨の対ドル相場で最も上昇したのは円。米国を始めとする主要国の株価伸び悩み、通商問題への懸念、米利上げと新興国懸念の増幅などを背景に、リスク回避的に円が買われやすかったためだが、その上昇幅は2%にも届かない小さなものだった。

上期は円と同様、リスク回避時に買われやすいドルの強さも目立ったため、上昇圧力がぶつかり合う形となり、ドル/円は小動きに終始。JPモルガン証券によると、上期のドル/円の値幅は1990年以降で6番目に小さかった。

過去最大の下げ幅を記録した米国株安、中国景気の減速懸念、米中貿易戦争の幕開け、イタリアやドイツを含む欧州政局懸念、新興国の資金流出リスクなど、今上期も多くの懸念がグローバル市場を覆った。

それにもかかわらず、リスク回避時に買われる円の上昇が小幅にとどまったのはなぜか──。鍵を握っていたのは「円高の強力なブレーキ役」(三菱UFJ銀行チーフアナリストの内田稔氏)となった対外投資だ。

<上期の「買収玉」、総額は震災後の為替介入に匹敵>

トムソン・ロイターの集計によると、今上期の日本企業による海外企業の合併・買収(M&A)は合計13兆0079億円。これまで最大だった16年下期の8兆4701億円を大きく上回り、遡及(そきゅう)可能な80年以降で最大を記録した。政府・日銀が震災後の11年下期、断続的に実施した為替介入13兆6045億円に匹敵する規模だ。

中でも特に話題となったのは、過去最大の6兆8000億円を投じる武田薬品工業<4502.T>のアイルランド製薬大手シャイアー<SHP.L>買収だ。

市場で「買収玉」と呼ばれる巨額の買収資金がいつ、どの程度が為替市場を経由して現地へ向かうのかと目を凝らす参加者の間では、交渉が表面化した4月ごろから思惑が沸騰。合意前から「すでに為替の手当てを始めているらしい」とのうわさが幾度となく出回り、英ポンド/円<GBPJPY=>は4月半ばに153円台と半月で6円跳ね上がった。

その後、「交渉はポンドで行っているが契約は米国預託株式(ADS)なので、必要なのは米ドル」との見方が強まると、思惑買いは一転してドル/円に集中。大手行を経由したまとまった円売りが出る度に関連が取り沙汰され、ドルは5月に111円台と1カ月で6円近い円安が進んだ。

6月に入っても、東京市場の取引時間中に突然、何の手掛かりもない中でドル/円が上昇し始める「謎の買い」(証券)が思惑を助長した。

<多数の小規模案件玉、ドル下落局面で静かに円売り>

注目を集めるのは、こうした超大型案件ばかりではない。例えば最近顕著だったのが、7月5日のユーロ/円<EURJPY=>相場。午後3時前から特段のニュースがない中で突然、大手行を経由した買いが入り始め、多くの参加者が騒然とする中、3時過ぎに大陽日酸<4091.T>が米プラクスエア<PX.N>の欧州事業を50億ユーロ(6438億円)で買収すると発表した。

結局、ユーロは一段高となり、129円半ばへ一気に1円近く急伸した。市場では「実際に買収に伴うユーロ買いが入ったのだろう」(トレーダー)との見方がもっぱらだ。

トムソン・ロイターのデータでは、今上期の買収案件は391件。16年下期に記録した過去最高の397件には届かなかったが、15年以降は半年ごとに400件近い高水準が続いている。大多数を占める小規模の買収は、武田や大陽日酸のように目立ちこそしないが、外貨調達のための為替取引が「円が上昇する場面で少しずつ入ってくる」(同)という。

ある大手行関係者は、買収に伴う為替取引の実態をこう解説する。「買収時の為替手当てには、買収スキームや企業のクレジットなどが大きく影響する。その時々の企業の外貨保有状況、キャッシュマネジメント戦略でも調達方法は大きく変わる。買収に伴う為替取引がいつ、どう行われるかは案件ごとにまったく違う」。

外為市場では日々刻々、ばく大な額の資金が休みなく飛び交っているため、買収に伴う取引が直接、相場変動に大きな影響を継続的に与えるわけではない。それでも「実際の取引がいつ行われるかが不透明であるが故に、先回りしてひともうけしようとする投機筋の思惑が世界中で増幅し、より大きな反応が相場に表れることもある」(外銀幹部)という。

財務省によると、1月から最新の5月までに行われた対外直接投資は合計で6兆6843億円。15年以降3年連続で更新し続けている過去最高ペースに衰えはない。円売りの思惑合戦はまだ続きそうだ。

*カテゴリーを修正しました。

(基太村真司 編集:伊賀大記)

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