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日本が「極東の小国」に落ちぶれる現実度

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日本はこれからどうなるのか。日本総研の山田久主席研究員は、「過去の蓄積とそれなりの規模の経済であることに安住しているが、このままでは『極東の小国』に落ちぶれるだろう」と指摘する。参考になるのは北欧のスウェーデンだ。「われわれにはグローバル化を所与とする国民的コンセンサスがある」。その覚悟で進めてきた改革の中身とは――。

北欧のベニスとも呼ばれるストックホルム。滞在したホテルからの対岸(エステルマルム地域)の眺望(筆者撮影)

■リーマンショック以降も高い経済パフォーマンス

ストックホルムは「北欧のベニス」とたたえられ特に5月から6月にはからっとした晴天に恵まれる日が多く、街並みがきらきらと水面に映えて美しい。「われわれにはグローバル化を所与とする国民的コンセンサスがある」――。本稿を書きながら、約十年来の知己であり今回訪問時にもヒアリングに応じてくれたフレドリック・ヘイマン氏の言葉を思い出した。

私は労働市場改革を中心に据えた日本経済の再生をテーマに調査提言活動を行っているが、約10年前に北欧モデルのユニークさを知ってから、すっかりそのファンになっている。とりわけ、リーマンショック以降のスウェーデンの経済・雇用のパフォーマンスは傑出しており、実はこのところ、多くの「ユニコーン企業」を輩出していることでも注目されている

今回現地調査の目的の一つも、そうした同国の産業活動の高パフォーマンスの秘密を探ることにあった。ここで興味深いのは、実はそのスウェーデンも1990年代から2000年代前半にかけて厳しい経済状況に苦しみ、さまざまな構造改革に取り組んできた経験を持つことだ。

それは、アベノミクスにより脱デフレ・経済好循環のきっかけをつかみつつあるわが国経済が、今後構造改革の本格化を通じて真の経済再生の途をひらくために何が必要かについて、有益なヒントを与えてくれるであろう。そうした観点から本稿では、産業面に焦点を当ててスウェーデン経済再生の軌跡と秘密を紹介する。

■90年代の初めには3年連続のマイナス成長を経験

まず、スウェーデン経済の戦後の変遷を簡単に振り返っておこう。第2次世界大戦で基本的に国土が戦地にならなかったこともあり、スウェーデン経済は欧州各国向け輸出をけん引役に1950~60年代には高成長と完全雇用を達成し、同国のトレードマークである「高福祉高負担」モデルも形成された。

しかし、70年代のオイルショック以降インフレ体質が定着し、80年代後半には未曽有の不動産バブルを経験した。その結果、90年代の初めにはバブル崩壊に直面。3年連続のマイナス成長を経験するとともに、80年代まではおおむね2~3%台であった失業率が10%を超えるまでに急上昇した。

そうした状況のもとで1991年には、長らく政権の座にあったスウェーデン社会民主労働党(社民党)が下野し、中道右派連合政権が誕生し、包括的な規制緩和を軸とする経済改革に着手する。もっとも、それらの多くの改革は、80年代後半に社民党が方向付けし、着手し始めていたものであり、「インサイダー・アウトサイダー理論」(※1)の創始者として著名な経済学者リンドベックを座長とする政府委員会が立ち上げられ、1993年に包括的な改革案が提示された。

これらの改革は1990年代を通じて実行に移され、スウェーデン経済は見事な再生を遂げる。90年代後半以降、生産性上昇率は大きく回復し、失業率も低下した。インフレ率も安定し、とりわけ2008年のリーマンショック以降は、世界の先進国では最も良好なパフォーマンスを示している。

特筆すべきは、スウェーデンは今や欧州でも有数のハイテク企業の集積地となり、いわゆる「ユニコーン企業」(企業価値10億円以上のスタートアップ企業)の人口当たりの輩出数では世界2位にランクされるようになったことである(※2)。さらに、いまやスウェーデンは米国よりも起業活動に対して促進的だとの研究もみられようになっている(※3)。

※1 労働市場における既存労働者である「インサイダー」が、失業者や新規就労者である「アウトサイダー」に比べて良い雇用機会や労働条件を享受できる理由を、採用、解雇、教育訓練といった労働者の入れ替えに伴って必要になるコストの存在に求めたもの(A.Lindbeck and D.J.Snower(2001)“Insiders and Outsiders” Journal of Economic Perspectives Vol.15, No.1)。

※2 John McKenna “Why does Sweden produce so many startups?” (https://www.weforum.org/agenda/2017/10/why-does-sweden-produce-so-many-startups/)

※3 Fredrik Heyman, Pehr-Johan Norbäck, Lars Persson and Fredrik Andersson “Large Scope Business Sector Reforms: Has the Swedish Business Sector Become More Entrepreneurial than the U.S. Business Sector?” IFN Working Paper No. 1147, 2016.

■高コスト体質を是正した新たな賃金決定

では、こうしたスウェーデンの産業再生の成功の理由は何か。前出のフレドリック・ヘイマン氏が共著者である論文(※4)に基づき、筆者なりの考えも踏まえて整理してみよう。

第1は、全般的かつ包括的な規制緩和が実施されたことである。1980年代、社民党政権のもとで航空、電力、郵便などの規制緩和の必要性の調査は十分に行われており、政府白書にもその概要は示されていた。加えて、先にふれたリンドベック委員会の提案を受けて1991年に政権を奪取した中道右派連合政府は、徹底した規制緩和路線にかじを切る。

その結果、OECDが算出している「サービス・公益部門の規制により製造業部門に追加的に発生しているコスト」の大きさは、90年代に入って劇的に低下し、90年代末から2000年代にかけては、米国を下回るまでになった。

第2は、労働市場改革である。1974年の雇用保護法の制定による解雇コストの上昇や、1980年代の賃金決定方式の産業別分権化に伴う賃上げ圧力の高まりにより、スウェーデンの労働市場は高コスト体質になっていた。

しかし、1992年には人材派遣や有期雇用に対する規制緩和が行われ、1997年には国際競争力を考慮に入れた賃金決定に関する新たな労使合意が締結され、高コスト体質は是正されていった。とりわけ、新たに形成された賃金決定の仕組みは、国際競争力に配慮しつつ賃金上昇率を生産性向上率に連動させる巧みな仕組みである。

2008年のリーマンショック以降、多くの先進国で労働分配率の低下がみられ、生産性が低迷するなか、ひとりスウェーデンが労働分配率を安定させて、生産性向上と賃上げの好循環を維持できていることにつながっている。

第3は、コーポレートガバナンス改革である。戦後のスウェーデンの経済は、既存産業と社民党、そしてブルーカラー労働組合による「鉄のトライアングル」によって支配される状態が続き、徐々にダイナミズムを失っていた。しかし、1990年代には、政権交代がこの「鉄のトライアングル」に楔を打ち込んだほか、コーポレートガバナンス改革が行われ、スウェーデン企業の株式保有に占める外国人投資家の割合は、1989年の7%から10年後には40%にまで跳ね上がった。

そうしたもとで、法人税率の思い切った引き下げもあり(日本の実効税率29.74%に対して、スウェーデンは22%)、対内直接投資が急増する。その過程で外国資本は多くの国内企業を買収し、米国企業を中心とした効率的な経営手法が導入され、地方企業も含め、この間にスウェーデン企業の生産性は大きく上昇した。

(※4)Fredrik Heyman, Pehr-Johan Norbäck and Lars Persson, “The Turnaround of Swedish Industry: Firm Diversity and Job and Productivity Dynamics” IFN Working Paper No. 1079, 2015. Fredrik Heyman, Pehr-Johan Norbäck and Lars Persson, “The Turnaround of the Swedish Economy: Lessons from Business Sector Reforms” IFN Policy Paper No. 73, 2015.

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