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フランスで不審な死に方をした海航集団会長 - 澁谷 司

 今年(2018年)7月3日、海航集団(HNAグループ)の創始者、王健(共同会長)が公務出張先のフランスのボニュー(Bonnieux)で亡くなった。

 王は1961年生まれで、天津市出身である。1983年、中国民航学院を卒業し、日本やオランダへ留学した経験を持つ。享年、57歳だった。

 王健は、風光明媚な街の景色を写真に撮ろうとして、教会近くの壁をよじ登った。だが、誤ってそこから10メートル、ないし15メートル下に転落している。

 王健はすぐに病気へ運ばれた。その際、王は担当医師に「足が痛い」という言葉を残して亡くなっている。フランス警察は、王健の死因が“内臓破裂”で、特に不審な点はないと結論付けた。

 だが、海航集団の経営破綻が取り沙汰されている微妙な時期だけに、様々な憶測を呼んだ。自殺説や(事故死に見せかけた)他殺説も噂されている。もし、王の「足が痛い」が最期の言葉ならば、誰しもその死因に違和感を覚えるのではないか。

 海航(海南省航空公司)は1993年に創立されたが、当時の資本金は、わずか1億元(当時のレートで約19億円)だった。だが、1998年、海航集団が設立されると、短期間で世界的コングリマリッドへと急成長を遂げた。

 海航集団は世界中のフィナンシャル・カンパニー、ホテル、不動産などへ数百億米ドルを投資している。

 2年前には、世界的なテクノロジーディストリビューター米イングラム・マイクロ(Ingram Micro)、ヒルトンホテル(Hilton Hotels)、ドイツ銀行(Deutsche Bank)等、大企業の株を60億米ドル(約6600億円)で買収した。

 2015年、海航集団は米『フォーチュン』誌の「グローバル500社(総収益順)」に初登場(464位)した。翌16年には353位、そして昨17年には、170位と順調に収益を伸ばしている(昨年、海航の収益は530億米ドル余り<約5兆8300億円余り>だった)。

 しかし、近年、同集団は赤字経営に苦しんでいたのである。そこで、去年、中国当局は同集団が大量に買収した海外資産の調査を開始した。目下、900億米ドル(約9.9兆円)の負債を抱えているという。

 昨年、王健は自分の所有する海航集団すべての株を「慈航公益基金会」へ寄付している。1つは、2010年に設立された中国国内の「海南慈航公益基金」に、もう1つは、2016年、ニューヨークで設立された「慈航基金会」にである。

 2017年、海航が公表した数字では、内外2つの基金の持株は52.25%で、ニューヨーク基金会の持株は29.5%、海南的基金会の持株は22.75%となっている。残りの殆どは、12人の会社創業者や役員らが所有している。なお、共同会長の陳峰と王健がそれぞれ14.98%持っていた。

 実は、貫君という得体の知れないビジネスマンが海航集団の大株主(30%)となっている。

 一説には、貫君は王岐山の隠し子ではないかとも囁かれている。周知のように、王岐山とその妻、姚明珊(父親は姚依林)の間には、子供がいない。そのため、貫君が王岐山と愛人と間にできた隠し子の可能性も排除できない。

 この貫君は、既に自分の持株を公益信託(個人や法人の財産を教育や福祉等の公益的事業にあてる)へ移した。そこで、米国、スイス、ドイツ、ニュージーランドの各国当局は、海航集団に対し財務状況を明らかにするよう求めている。

 今回、亡くなった王健会長は、会社立て直しに尽力していた。まさに、その最中に起きた「不慮の事故死」だった。今後は、共同会長の1人、陳峰(王岐山の元部下)が海航集団の指揮を執る。

 今年6月、党幹部らは、手回しの良く、既に同集団の救済を決定している。だが、その場合、一体、そのカネはどこから捻出するだろうか。中央政府、地方政府、国有企業の負債合計は、少なく見積もってもGDPの300%以上あると推計されている(IMFの保守的数字でも250%以上)。

 さて、今年2月、中国共産党は安邦保険集団が破綻の危機に瀕しているとして、当局は暫定的に同集団をその管理下に置いた。そして、中央政府は保険保障基金から安邦保険集団に608億元(約1兆300億円)を注入し、救済するという。

 他方、習近平政権は、鄧小平の孫娘と結婚した呉小暉(元会長兼社長)を安邦保険集団の不正経理の疑いで逮捕した。今年5月、上海第1中級人民法院(地裁)は、詐欺や職権濫用等の罪で、呉小暉に懲役18年の判決を言い渡している。

 結局、習政権は、呉小暉や不審死を遂げた王健とは異なり、王岐山に近い陳峰を守るのだろうか。中国では、どの派閥(幇)に所属しているかで、その命運が決まると言っても過言ではない。

澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。
専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等多数。

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