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東京医大「不正入試」 医学部の「金権入試」は終わっていないのか 教育改革で「裏口入学」は起こりにくくなったが…… - 鳥集 徹

 7月4日、文部科学省科学技術・学術政策局長(解任)の佐野太容疑者(58)が、私立大学支援事業の選定を見返りに、自分の子どもを東京医科大学に合格させたとして、受託収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕された。

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 辞任した東京医科大学の理事長、学長も含めた組織ぐるみの「不正入試」が明らかになる中、長年、医療問題を取材し、今年3月に『医学部』(文春新書刊)を上梓したジャーナリストの鳥集徹氏が緊急寄稿した。

 医学部入試をめぐり、トンデモない事件が起きました。

 教育機関の不正を監督・是正する立場である文科省のエリート官僚が、自分の職権を悪用して自分の息子を医学部に「裏口入学」させるとは、開いた口がふさがりません。

 近年、医学部入試はどこも超狭き門となっており、かつて「金さえ積めば入れる」と揶揄されたような新設の私立医大でも、早慶の理系学部に合格できるぐらいの学力がないと入れなくなりました。

 戦前の旧医学専門学校の流れを汲む伝統校である東京医大も例外ではなく、昨年の全入試倍率も10倍以上でした。厳しい受験勉強に耐えてやっと合格した人も、合格できずに悔しい思いをした人も、真正面から東京医大に挑んだ人はみんな腹立たしい思いでこのニュースを見たのではないでしょうか。

©共同通信社

金を積んで入学した学生たちの末路

 この不正入試には、大学の理事長、学長を含めた複数の人物も関係していたと伝えられています。人の命を預かる医師を育てる医学部で、このような不公正かつ非倫理的な行為が横行するのは許せません。ぜひとも不正入試の実態の詳細な解明が進むことを期待します。

 それにしても、今どき医学部入試で裏口入学があるなんて、驚いた人も多かったのではないでしょうか。医療現場を長く取材してきた私も驚きました。というのも、拙著『医学部』の取材で、ある私立大学の医学部名誉教授や現役の医学部長などから、こんな話を聞いていたからです。

「かつて、医大が点数の足りない受験生の保護者に金を積ませて、合格させるような不正が横行していたのは確かです。しかし、今のご時世、そんな不正がバレたら大きな社会問題になりますよね。大学側としても、信頼を失墜させるリスクを負ってまで、学力の低い学生を取りたくありません。

 なぜなら、成績不良の学生を入学させたとしても、結局は大学の授業についていけず、医師国家試験(国試)にも通らないからです。むかしも国試に通らない学生はいました。彼らは親の病院の事務長かなにかになったのではないでしょうか。でも医学部に入ったのに医者になれなかったなんて、恥ずかしくて言えませんよね。

 多額の寄附金や授業料も全部、無駄になってしまいます。教授会でもそういうことが問題となり、うちの大学では入試の不正はなくなっていきました」

成績によって入学金や寄附金の額が変わる

 医学部の裏口入学が社会的に大きくクローズアップされたのは、田中角栄内閣の「一県一医大構想」によって新設の医科大学が次々に設立された70年代から、その後の80年代のことでした。

 一県一医大構想は医療の地域格差の解消が主な目的でしたが、新設された私立医大には「開業医の跡継ぎを育てる」という裏のミッションもありました。とはいえ、開業医の子どもたちみんなが、学力が高いわけではありません。そのため、「点数が低くても多額の寄附金を払えば入学を許す」、逆に「点数が高くても一定以上の寄附金を払えない人は門前払いする」ということまでが横行していたのです。

 その当時の様子を、ある新設医大の医学部名誉教授が次のように証言してくれました。

「むかしは、成績によって入学金や寄附金の額が違うことはザラでした。たとえばA君の成績なら500万円だけど、Bさんは点数が足りないので1000万円、C君は1500万円なら入学OKという具合です。当時はウチだけでなく、私立大学はみんなそんな感じで、それが当たり前だと思っていたんですね」

 しかし現在では、たとえお金で下駄を履かせてもらって医学部に入ったとしても、学生本人が必ずしも幸せになれるとは思えません。なぜなら、2001年に医学部の教育カリキュラムが改革されたために、医学部の勉強がとても大変になったからです。ある大学の医学部長によると、かつてに比べて6年間に学ぶ内容が2倍以上にもなり、国試も格段に難しくなったそうです。

 そうしたこともあって、勉強についていけない学生が大量に留年・転部したり、国試浪人が100人単位で溜まっている私立大学もあります。お金で下駄を履かせてもらったとしても、最低限の学力がなければ医師になれないどころか、卒業も危ういのが今の医学部の世界なのです。

 それに、まわりは正々堂々と入試を突破して医学部に入った人ばかりなのに、裏口から入った学生本人にとっても、本当にそれでいいのでしょうか。入学後に真面目に勉強して医師になったとしても、厳しくプロフェッショナルとしてのモラルが問われ続けるのが医療界です。一生、心に闇を抱えて、生きていかなくてはいけません。

昨年、耳にしていた不正入試の「噂」

 このように、「金権入試」が横行していた昔とは大きく様変わりしたので、私も医学部の裏口入試はほとんどないだろうと考えていました。ただ、昨年『医学部』の取材を続ける中で、こんな噂も耳にして、本に書いていました。

「(一部の私立大学では)理事長が入試担当の教授に、特定の受験生に(点数の操作しやすい)小論文と面接で下駄を履かせるよう言ってくる」

 その噂の大学こそ、どうやら東京医大のことだったようです。同大での不正入試はこの1件だけだったのか。さらには、これは氷山の一角で、実は他にも不正入試に手を染めている大学があるのか……。事件の進展によっては、医学部入試全体の総点検も必要となるかもしれません。医学部や医療界の信頼を損ねないためにも、ぜひここで膿を出し切ってほしいと思います。

(鳥集 徹)

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