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書評「逃げられない世代」

逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界 (新潮新書)逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界 (新潮新書) [新書]
宇佐美 典也
新潮社
2018-06-14




日本の財政、社会保障制度の行き詰まりを指摘する本は多いが、本書は以下の2点でとても興味深い。

・元官僚として、日本社会に巣くう“先送り”の病根を示している


政治家は平均すると2、3年で選挙という試練を受けるため、それくらいで有権者から評価してもらえる政策しかやろうとしない。「30年後に社会保障がパンクするので年金カットします」なんて言っても評価されるどころか怒った高齢者に落選させられるのは確実だからだ。

では、終身雇用の保証された官僚が国家100年の計を考えてくれるかと言うとさらに絶望的で、終身雇用型組織特有のローテーションにより、若手~中堅で2~3年、幹部以上なら1~2年であちこちのポストを転々とする彼らは、その期間でできることしかやろうとはしない。

たとえば「業務範囲を定めない職能給で長期雇用させているのが長時間残業と低生産性の原因なのだから厚労省と協議の上、雇用形態の見直しを進めよう」と考える官僚は少なくないはずだが、実際にアウトプットとして出てくるのは「プレミアムフライデー」とかになってしまうわけだ。

ついでに言うと野党がバカなのもちゃんと理由がある。現在の日本では、法案は各省庁が作成し、実質的に自民党の政調会でがちがちに固めた上で国会提出され、野党が何を言おうが一字でも変えさせるのはほ不可能というのが実情だ。国会中継では一応議論しているようにも見えるが、あれはあくまでしているふりだけであり、時間になったらハイ、採決!と言うのだから野党からしたらたまらない。せめて延々とスキャンダル追及で盛り上げるくらいしかやることがない。

twitterではなんでもかんでも安倍総理にからめて笑いを取る小西師匠が人気だが、師匠もきっとボケながら心の中では泣いているに違いない。

・人口動態から「逃げられない世代」を特定


かつて団塊世代には団塊ジュニア世代という、自分たちとほぼ同じボリュームのある受け皿世代が下にいた。だから一千兆円を超える国の債務も、それと同程度存在するとされる社会保障の隠れ債務問題も、なーんにも手を付けないまま逃げ切ることに成功した。

でも、団塊ジュニアにはもはや受け皿となる世代は存在しない。だから、団塊ジュニアが高齢者になる2036年以降、それを支える下の世代、具体的には現在の20~30代は、団塊ジュニア世代を支えつつ、問題を先送りすることなく正面から問題に取り組まねばならない。

具体的に言えば赤字国債に依存しなくても済むよう25兆円以上の増税が必要であり、選択肢は消費税くらいしかないので1%=2兆円として少なくともあと13%、20%台へのの引き上げが必須となるとする。※

「そんなに上げたら景気が悪くなるじゃないか」と心配する人もいるだろうが、もう先送りできないんだからしょうがない。文句はこれまで先送りし続けてきた先輩方に言うといい。

ちなみに、この「先送りできなくなるのは2036年」という数字は、国債が国内だけでは消化出来なくなるタイミングとも符合する。政府としても本腰で財政再建と緊縮に取り組まねばならなくなるはずだ。

ただ、本書のトーンは全体として意外に明るい。著者も述べるように、財政破綻といっても或る日いきなりバターンと倒れるようなものではなく、政府が財政規模の急激な縮小と大規模な増税を短期間で行う形で実現するだろう。消費税引き上げにしても、恐らくはそれまでにちょこちょこ上げていくから、意外に団塊世代や団塊ジュニアも完全に逃げ切れるものではないと思う。

むしろ高齢化という先進国共通の病に対し、良くも悪くもムラ社会的な要素の残る日本人は、協調性を発揮して新たな持続可能なシステムを生み出せるのではないか。

世の中には「見たいものしか見ない」人が多い。で、そういう人向けに「見たいものを本などに書いて売りつける人たち」もいる。「日銀に買い取らせればいつまでも借金できますよ」とか「バラマキで経済成長!」とか言ってる本が典型だ。ま、そういうのが読みたいって人はそれでいいけど、これから先に何が起こるのか、そして、真の意味で“逃げ切れない人”にならないためにはなにをすべきか、に興味があるという人は、本書を手に取るべきだろう。具体的なキャリア設計のプランなども触れられており、参考になるはずだ。

※筆者自身は医療技術の発達等で社会保障給付の一段の伸びを予想しており、消費税25%程度にしてもなお団塊ジュニア世代はそれなりの給付カットを受けることになると考えている。

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