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戦略的対外発信の拠点「ジャパン・ハウス」がロンドンにもオープンした

「伝統こそ未来」というコンセプトで日本を発信

[ロンドン発]安倍晋三首相が主導する外務省の戦略的対外発信の拠点ジャパン・ハウスが6月21日、ロンドンの超高級ショッピング・ストリート、ハイ・ストリート・ケンジントンにオープン、22日から一般公開された。


オープンしたロンドンのジャパン・ハウス(筆者撮影)

昨春、サンパウロのジャパン・ハウスがオープンし、1年間で77万人の来館者を記録。ロサンゼルスでも展示ギャラリーとショップが先行オープンしたのに続き、トリは国際都市ロンドン。外務省は世界3都市から「日本を知る衝撃」を世界に発信していく。

日本の伝統と文化、歴史認識、領土問題に特別なこだわりを持つ安倍首相の肝いり事業だけに、一時は「保守派のプロパガンダ・ハウスになりかねない」との懸念もあったが、「伝統こそ未来」というコンセプトがクールな日本を演出するのに成功している。

漢字の「一」をデザインしたロゴは総合プロデューサーの原研哉氏が制作。日本を正しく発信することで国際交流を深め、できれば世界を豊かにしようという夢が込められている。ジャパン・ハウスが追求するのは世界の人々と連携して一緒に新しい何かを生み出していく創造性だ。

「ジャパン・ハウス」は戦略的対外発信の拠点


ショップ内で販売される日本の工芸品(筆者撮影)

ショップには日本独特の和紙、文房具、包丁ややかんといった手作りの工芸品が並べられ、「ものづくり」にかける日本の情熱を伝えている。明治に洋紙が入ってきたあとも、日本古来の和紙は越前、美濃、石州、土佐、因州など日本各地で漉(す)かれており、奥が深い。

特別な技術で磨き抜かれた新潟県燕三条の金物といった手工芸品を通じて、国際都市ロンドンと、日本の心をつなぐ戦略的な狙いがある。空間設計は世界で活躍するインテリアデザイナー、片山正通氏が手掛けた。


日本の食体験を演出したいという清水明さん(筆者撮影)

館内の和風レストラン「アキラ」では日本の四季を描いたような繊細な和食が楽しめる。シェフの清水明さんは「料理、皿、プレゼンテーションの3つを合わせて、繊細な日本の美意識を伝えたい。ここでしか味わえない食体験を演出したい」と目を輝かせた。


日本の美意識を表現した清水氏の料理(筆者撮影)

ジャパン・ハウスは英国のブリティッシュ・カウンシルやドイツのゲーテ・インスティトゥートとも違う対外発信の可能性を示しており、お世辞抜きで「いいね!」を10回押したいぐらいの感じである。中国のプロパガンダ・ハウス、孔子学院とは全く性質の異なる戦略的対外発信の拠点である。

大幅な予算増額にみる日本の本気度

今から5年前、安倍首相が「国際社会に日本の主張を浸透させるため戦略的な体制をとる必要がある」と述べたことを受け、外務省は戦後 70年の2015 年度、戦略的対外発信の予算700 億円を計上。補正の 305 億円と合わせると、対前年度に比べ 500 億円増となった。

18年度予算でも(1)日本の「正しい姿」の発信(2)日本の多様な魅力のさらなる発信(3)親日派・知日派の育成に資する事業を実施するため、対前年度比 198 億円増の 708 億円が計上された。

主な事業を見ると、海外シンクタンクとの連携強化9億4000万円。領土・歴史に関する学術的研究や対外発信を行う国内シンクタンクの事業支援5億1000万円。ジャパン・ハウス関連は23 億5000万円。世界遺産登録および世界の記憶制度改善に向けたユネスコ(国連教育科学文化機関)の取り組みに 4 億1000万円。

「日本の多様な魅力のさらなる発信」と位置づけられるジャパン・ハウスは予算を見ても戦略的対外発信の中核事業であることが分かる。しかし、ジャパン・ハウスを使って歴史認識や領土問題で「プロパガンダをやっている」と見られるのだけは避けなければならない。

英日曜紙サンデー・タイムズが昨年2月、シンクタンク「ヘンリー・ジャクソン・ソサイエティ(HJS)」がロビー会社と在英日本国大使館に月1万5000ポンド(219万円)で「中国の拡大主義が西側の戦略的利益に与える脅威に焦点を当てる」と持ちかけ、最終的にHJSは月1万ポンド(146万円)と実費を請求することで契約を結んだと報じたことがある。

こうした動きが表沙汰になるのは日本のイメージダウンにしかならない。

外国人館長が語った現実的な目標に好感

一安心したのは、ジャパン・ハウスは外務省が主導しているものの、ロンドンの事業は総合不動産サービス大手JLL(東京都)が施設整備や運営管理を外務省から一括受託していることだ。ワンクッション入れることで、保守派の政治介入を回避しやすくなる。

館長に北アイルランドとウェールズの国立博物館、ニュージーランドの博物館でキュレーターやディレクター、ニュージーランド文化遺産省のアドバイザーを歴任したマイケル・フーリハン氏、企画局長に日本文化に通じたサイモン・ライト氏を据えたのも評価できる。


マイケル・フーリハン館長(筆者撮影)

外国が見たいものと日本が見せたいものの間にはズレがある。外国から見た「フジヤマ」「ハラキリ」「ゲイシャ」「スシ」といった日本のステレオタイプを排し、2人の目を通して日本の伝統が未来に向けて放つ普遍的な美しさを海外にアピールできる。

文化は国境を越える架け橋になると信じているフーリハン館長にジャパン・ハウスのコストと抱負を尋ねた。

「開館費用は1500万ポンド(21億9000万円)、年間の運営コストは700万~800万ポンド(10億2200万~11億6800万円)。官民のパートナーシップなので館内の商業施設は利益を出すことを目標にするが、他はロンドンから1日でも長く対外発信できるよう持続可能性に重きを置く。スポンサーも募って、生き残りを図る」

フーリハン館長の目標が極めて現実的だったことにも好感が持てた。ライト企画局長もこう意気込む。

「日本伝統のものづくりは人間の手と目、頭から来る。それはテクノロジーにも通じる。細部や質、そして生身の人間にこだわり、これまでならロンドンの人々の目に触れることがなかった日本の地方にもジャパン・ハウスを拠点にリンクを広げていきたい」

西洋で文化と言えば絵画や美術、クラシック音楽など少しかしこまってたしなむイメージだが、ジャパン・ハウスを訪れると日本では文化が日常生活の中に溶け込んでいることが分かる。

日本の”ユニークな魅力”発信に期待


藤本壮介氏の「未来の未来」展(筆者撮影)

22日から開かれるギャラリー開催される現代建築家、藤本壮介氏の「未来の未来」展の「建築はどこにでもある」コーナーでは藤本氏が日常から建築のアイデアを見出していることがうかがえる。

日本は金融バブル崩壊後の「失われた20年」で良い意味でも悪い意味でも独特の発展を遂げた。「ガラパゴス」と揶揄(やゆ)されることもあるが、手工芸やデザインでは世界には例のないユニークな輝きを放っている。


日本の文化は日常生活に息づいている(筆者撮影)

日本の存在感は日本人が思っているほど世界では高くなく、世界が日本を再発見する拠点としてジャパン・ハウスに期待したい。赤字の垂れ流しで悲惨な状況に陥っているクールジャパン事業と同じ轍を踏まないようジャパン・ハウスには頑張ってほしい。

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