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著名人の知られざる「台湾ルーツ」を発掘 - 野嶋剛

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野嶋剛『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)/1620円

――本作『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)には、政治家の蓮舫さん、女優の余貴美子さん、作家の陳舜臣さんなど、台湾にルーツを持つ様々な著名人の物語が描かれています。執筆の動機は何だったのでしょう。

 ご本人やご家族が台湾出身であることは知られているけれども、なぜ日本で人生を歩むことになったのかということまでは知られていない。そんな彼らのルーツを辿り、今の活躍の背景にある家族の物語を書きたいと思いました。

朝日新聞の台北支局長として2007年から2010年まで台湾へ赴任していた私は、その間に心に留めていたテーマを、帰国以来、書いてきました。最初に出版したのが、中国と台湾両方に存在する「故宮」の成り立ちに迫った『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)でした。

 そして今回の『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』で、台湾赴任時代に得たテーマは書き切りました。そういう意味では集大成ですね。取材開始から出版まで5-6年といったところでしょうか。

「時代を創った女 ジュディ・オング 日・中・台をつなぐ『血脈と人脈』」(『文藝春秋』2012年5月号)の取材で、ジュディ・オングさんにインタビューしたのが最初です。ここでは詳しくお話ししませんが、驚くべきことに彼女という1人の人間の中に日本、台湾、中国の複雑な関係性が内在していた。つまり、彼女を通して日台中の複雑に絡み合った近現代史が書けるということ。これは1つのノンフィクションになるぞ、と気持ちが高ぶりました。

 ただ、1人に絞ると単純な評伝にしかならないし、台湾の人たちの特徴である多様性を捉えきれない。

 彼らの中には、戦前から日本に居住する人、戦後に大陸から来た人 、戦後台湾から日本へ渡った人など、様々な背景事情をもつ人々がいます。当然、国家観やアイデンティティーもまちまちなわけですから、これを単純化するよりも、台湾の複雑で多様な事情をそのまま描き出し、それが故に面白いところを浮かび上がらせたいと思った。

 そこで9人に1組の親子を加えた11人の10家族を取り上げました。王貞治さんのように、台湾国籍でもご家族を含めて現地での生活経験がない方は、選んでいません。

――蓮舫さんには、まさに取材最中に「二重国籍問題」が持ち上がりましたね。

 前々から予定していたインタビューをキャンセルしたいと言われ、何とか説得して会えたものの、当然、ご本人の口は重い。非常にセンシティブなことも聞かないといけないので、一番苦労した取材でした。

 ただ、二重国籍問題は、私が書きたいと思っている主題を浮かび上がらせるうえでは、良いきっかけになります。

 日本では二重国籍をネガティブに受け止める傾向がありますが、台湾は戦前の日本統治時代は紛れもなく「日本」だったわけです。その「帝国の臣民」として台湾から日本へ渡った人たちの中には、台湾と日本という2つの祖国が存在している。国籍はその表層に過ぎません。

 蓮舫さんの場合は、お父さんが台湾人、お母さんが日本人なので、台湾のルーツは父方にあります。私が物語のキーパーソンになると思ったのは、父方の祖母である陳杏村さんでした。 

 戦前に日本占領下の中国・上海でタバコ販売会社を経営し、戦後は日台を股にかけたバナナ貿易で巨万の富を得た、いわば女傑。日本軍に戦闘機を2機プレゼントしたなどという逸話が残っていますが、謎に包まれた部分も多い。

 そこで、台湾で古い新聞や書籍に当たったところ、たまたま彼女を調査したことのある日台関係史の研究者に話を聞くことができ、良い資料に出会えた。今回、陳杏村さんの知られざる過去を明かしています。

 私がここまで調べてくるとは、蓮舫さんも思っていなかったでしょうね。陳杏村さんは彼女が小さい頃に亡くなっているので、知らなかったことがたくさんあると思います。

 蓮舫さんに対して本書ではかなり厳しい意見も書きましたが、どの方についても自分が感じたことを素直に書いたつもりです。

――エコノミストのリチャード・クーさんと辜寛敏(クー・クワンミン)さん親子の物語にも、こちらが冷やっとするような記述がありました。

 彼は日本で野村総合研究所の主席研究員として知られていますが、実は日本統治下の台湾で「5大財閥」と呼ばれた名家の1つ「辜家」の出身です。

 父の辜寛敏さんは台湾の実業家であり、独立運動家であり、民主進歩党の大スポンサーでもある。蔡英文総統の顧問もしています。台湾の経済界は統一派の国民党との付き合いが深いので、実業家でありながら独立派の民主進歩党を支持する珍しい存在。

 戦後から1990年代まで日本で過ごし、1972年の日中国交正常化の裏では、日本政府の「密使」を務めました。

 私はこれまでに何度か取材をしているのですが、会う度に恰好良い洒落たおじさんだなあと思います。女性にモテるのが分かるなあと。

 そこにリチャード・クーさんの件の発言が絡んでくるのですが、彼は13歳の時に母、弟とともに渡米し、辜寛敏さんと離別しています。その理由について親子が全く違う説明をしたのが、面白かったですね 。

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