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特許庁次期基幹システム開発中断〜真の問題は役所にITエンジニアが不足していること

 特許庁が24日、東芝ソリューション(東京・港)に委託して進めてきた次期基幹システムの開発中断を決め、開発に投じた約55億円が無駄になってしまいました。

 BLOGOSでも以下の記事で本件が取り上げられています。  

特許庁の基幹システムはなぜ失敗したのか。元内閣官房GPMO補佐官、萩本順三氏の述懐

http://blogos.com/article/30617/?axis=p:0

システム業界の詐欺的行為 - 生島勘富

http://blogos.com/article/30587/

 私はIT企業を経営しつつ一人のエンジニアとして長らくソフト開発業に関わってきました。

 その間、官公庁のシステム開発も何十かのプロジェクトに参加してきました。

 特許庁の次期基幹システム開発プロジェクトには直接参加していませんが、知り合いの多くのエンジニアが参加しており、数年前から本プロジェクトが非常に危ない状態であることは情報を得ていました。

 私の知っている情報を整理してお伝えしたいと思います。

 まず今回のシステムの委託先である東芝ソリューション(以下、Tソルと記す)が「東芝ソリューションの管理能力・開発能力が十分ではなかった」(特許庁有識者検証委員会)と矢面に立たされておりますが、本件でTソルの管理能力・開発能力に問題があったことは間違いないでしょう。

 そもそも落札時、Tソルには特許に関するシステム構築のノウハウが不足していることは特許庁自体認識していたことです。

 それでもTソルに委託したのは特許庁自体の業者選定に問題があった点も大いにあると考えます。

 実は本件の影の主役はNTTデータです。

 多くの官公庁と同様、特許庁もシステム開発の多くをNTTデータに依託してきました。

 私は5年前、当時の社会保険庁の不明年金問題で、この官公庁とNTTデータの関係の問題点を指摘したことがあります。

2007-06-15 不明年金問題:問われるシステム開発主幹会社NTTデータの責任

http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070615

 それはともかく、特許庁の現行基幹システムもNTTデータが開発・運用してきました。

 2年前に発覚したNTTデータのシステム開発部長が特許庁キャリア技官に二百数十万円分のタクシーチケットを渡すなどした贈収賄事件では、複数の技官が免職され、NTTデータ社員も逮捕されています。

特許庁からの新規受注自粛 汚職事件でNTTデータ

http://www.47news.jp/CN/201006/CN2010062501000816.html

 実はこのような役所とNTTデータのズブズブの関係に一矢報わんとチャレンジしたのがTソルだったわけです。

 2006年の一般競争入札では、東芝ソリューションのほかNTTデータと日立製作所が応札しています。

 ここで入札予定価格の6割以下という最も安い価格を示したTソルが落札するわけですが、同社に対する技術力の評価は低かったにもかかわらず値段だけで落札するわけです。

 実は2年前、TBSの調査報道で、東芝ソリューションが公表されていないはずの入札資料を事前に入手していたことが分かっています、特許庁は内部調査を実施し、情報を漏らした職員を懲戒免職処分としています。

 こうして特許に関するシステム構築のノウハウが不足しているTソルに委託されたわけです。

 Tソルは何百人というSE体制のプロジェクトチームを結成しますが、設計作業は当初から難航します。

 多くのSEに特許に関する知識がなく、法律用語の学習から始めなければ資料の内容を理解すらできなかったのです。

 また特許庁側にも大いに問題がありました。

 目指すべき新システムの仕様が設計途中で二転三転したのです。

 システム凍結という概念がなかったのです。

 作業は大幅に遅れ何度もリスケジュールする中で、Tソルの開発チームの士気は大きく落ち込んでいき、プロジェクトを降りる技術者が続出します。

 やめた人の後任にすぐにSEを補充しますが、法律用語の学習からはじめなければなりません。

 生産効率は時とともにどんどん劣化してまいりました。

 納期が守れないたびに特許庁はTソル幹部を呼びつけ怒鳴り散らすわけですが、特許庁内部でもTソルではもう無理だろうという悲観論が数年前からすでに大きな声となっていたのですが、ここまで結論を先延ばしにしてきたのはTソルだけに責任を負わせることはできないでしょう。

 特許庁側の管理責任も当然問われなければなりません。

 ・・・

 社会保険庁の不明年金問題のときにも同様の問題点を指摘したのですが、本件の本質的な問題点として役所側にSE、つまりIT技術者がいないことが非常に大きな問題だと、私は考えています。

 官公庁が一般にシステム開発を一般競争入札するとき、RFP(Request For Proposal)という提案依頼書を作成するのですが、多くの官公庁がこの提案依頼書を自分達で作成する能力・専門知識に欠けています。

 多くの場合、現行システムを開発した業者にこの提案依頼書の作成を無料で手伝わせるのです。

 業者側は提案依頼書の作成を手伝うことで新システムの内容を他社よりも早くしかも詳細にわかるのですから、喜んで手伝います。

 今回の中断したシステムの提案依頼書作成もNTTデータが手伝っていたことはわかっています。

 構造的にはここに問題があるのです。

 TソルではなくノウハウのあるNTTデータが落札していたら結果は変わっていたかもしれませんが、真の問題は役所にITエンジニアが不足していることにあると私は考えています。

 せめて新システムの提案依頼書ぐらい業者に頼らず作成できるぐらいの技術スタッフを持たないならば、公正な入札など不可能ですし、開発の工程管理も業者任せのものになり、今回のような55億の血税を無にしてしまうような体たらくも起きてしまうのです。

 今回の件は委託業者に第一の責があることは論を待ちませんが、官公庁側の体質にも多くの問題点がある、これが私の経験に基く本件の評価です。

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