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食のリスクは多面的に評価しないと見誤る PartⅢ ~消費者市民の不安を煽るメディア・バイアス~

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 "リスクの伝道師"山崎です。毎月食の安全・安心に係るリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方を議論しておりますが、今月も消費者市民むけの食のリスコミにおいて公益性が重視されるはずのメディアから、明らかにゆがんだリスク認知情報が拡散され続けておりますので、この問題をまとめて解説したいと思います。

食のリスクに関するメディア情報が、消費者市民のリスク認知を正しい方向に導くものであれば社会的に有益ですが、「食べてはいけない」とした食品群に内在する健康リスクが思いのほか小さく、安全性に問題がないとすると、これは単なるミスリーディングな不安煽動記事であり、社会から非難されるべきものです。

 週刊新潮さんからの一連のゆがんだリスコミ記事に関して、食の安全や栄養学に詳しい専門家たちがきびしくコメントしているので、まずは以下の記事をご一読いただきたい:

<食品安全情報ネットワーク(FSIN:共同代表-唐木英明・小島正美)>
◎週刊新潮5月24日号他《食べてはいけない「国産食品」実名リスト》(6/1)

 https://sites.google.com/site/fsinetwork/katudou/shincho

<FOOCOM.net(科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体)>
◎週刊新潮が不安をかきたてる「食べてはいけない国産食品実名リスト」とは(瀬古博子、5/23)

 http://www.foocom.net/column/answer/16970/

◎第2弾も出た、週刊新潮「食べてはいけない『国産食品』実名リスト」の反響は?(瀬古博子、5/30)
 http://www.foocom.net/column/answer/16986/

◎『週刊新潮』と『女性自身』(6/1)(佐藤達夫、6/1)
 http://www.foocom.net/column/metabo/17002/

◎週刊新潮「国産食品」第4弾はトランス脂肪酸(瀬古博子、6/13)
 http://www.foocom.net/column/answer/17032/

<SFSS食・健康・医療のファクトチェック>
◎『食べてはいけない「国産食品」実名リスト』⇒「不正確(レベル2)」
~SFSSが週刊新潮記事(5月24日号)をファクトチェック!~ (山崎毅、5/23)

 http://www.nposfss.com/cat3/fact/weekly_shincho0524.html

<SFSS理事長雑感>
◎食のリスクは多面的に評価しないと見誤る PartⅡ (山崎毅、5/22)
 ~週刊新潮さん、リスク学/栄養学を勉強してから記事にしませんか?
 *上記のファクトチェック記事(5/23)の読み物版で、ほぼ同じ内容です。

 http://www.nposfss.com/blog/weekly_shincho.html

 週刊新潮さんの一連の記事を読んでもっとも残念な点は、この記事を書いたライターさん自身もおそらく純粋な消費者市民で、取材先の専門家(「加工食品診断士」って誰が認証した資格ですか?)からゆがんだリスク情報をすりこまれた犠牲者ということなのだろう。

「これらの加工食品が本当に危ない!」と勘違いしているので、リスク情報を市民に伝えなければという使命感/ジャーナリスト魂から今回のメディア・バイアス事件を引き起こしたのではないか。記事で語られた食品添加物や一部の食品成分に係るリスク認知バイアスの原因について、論点をまとめると以下のとおりだ:

① リスクの大小と「安全」の関係が理解できていない?!

 われわれが毎日食べている食品は天然物由来のものが多く、たくさんの物質の集合体だ。個々の物質の中で、ある食品成分(ハザード:危険源と呼ぶ)がどのくらいの量・どんな状態でその食品に含まれ、どんな風にしてヒトが食べるかによって、ヒトに対する健康リスクを綿密に評価することが可能であり、われわれはリスクの大小を知ることになる。このヒトに対する健康リスクの大きさが十分小さく、社会が許容できる範囲内であればそれを「安全」と呼ぶのである。またなぜリスクの大小を評価するかというと、食にゼロリスクはないからだ。食塩相当量が多くなれば高血圧患者さんにとって安全とは言えないリスクの大きさとなり、卵の成分をそれなりに含めば卵アレルギー患者さんにとっての健康リスクは大きいわけだ。

 たとえば加工食品中のハザードとして、ある保存料(食品添加物)が法律で決められた使用基準に基づいて一定量配合されていた場合、当該ハザードのヒトに対する健康リスクはゼロではないものの、一般的に無視できるレベルの小さなリスクしかないというたしかな科学的根拠があれば「安全」と言ってよい。だからこそ、食品安全のリスク評価機関である内閣府食品安全委員会もリスク管理機関の厚生労働省も、当該加工食品を製造販売しているリスク管理責任者の食品事業者も、リスク評価のデータがしっかりあるからこそ「通常の使用方法で食する限り安全性に問題はなくご安心ください」と回答するのだ。

 さらに重要なこととして、加工食品全体の健康リスクを評価した場合に、保存料を配合することで当該食品の微生物汚染による食中毒のリスクを低減していることも忘れてはならない。保存料自体の健康リスクが無視できるレベルまで小さいだけでなく、食品全体の腐敗による食中毒リスクを低減することを考えると、保存料を添加した加工食品の方が無添加の加工食品よりも健康リスクが小さく、比較的安全性が高いとも評価できるのである(実際は、保存料無添加の加工食品でも日持ち向上剤など別の手段で微生物を抑えている場合も多いので、「保存料無添加」が必ずしも安全性に問題ありという意味ではない)。

 いずれにしても保存料/食品添加物が配合されている加工食品は、安全性に問題があり「食べてはいけない」という論調は明らかにミスリーディングであり、本来実際の使用基準でヒトに対する健康リスクがどの程度の大きさかを綿密に評価したうえで、社会が許容できない大きさのリスクの場合(「安全」とは言えない場合)に、初めて社会に対して警鐘をならすべき問題であろう。その意味では、リスク評価成績が明確な食品添加物より、むしろ食品中の天然成分の方がリスク評価がほとんどされておらず、実際の健康リスクが高いケースが多いと専門家も指摘している:

 ◎リスクアナリシスで考える食品添加物の安全性
 畝山智香子(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)

 http://www.nposfss.com/cat7/risk_analysis.html

② 摂取量(用量)の概念が欠落している!?

 今回の一連の記事において共通して言えることは、問題を指摘された食品添加物や一部の食品成分が、どのくらいの量を摂取したらヒトで健康被害がでるレベルなのかをあえて語っていないことだ(語れるはずもない。なぜなら食品への配合量で安全性に問題がないことを記事中の「専門家」の方々もご存知だからだ)。食品添加物の物質自体が「毒」だ「劇物」だという議論もなされているが、残念ながら本記事のシナリオは消費者の不安をあおる非科学的「ありなし感情論」が展開されるばかりで、「摂取量(用量)」の概念が完全に欠落しているのが特徴である。

 医薬品を扱う医師、薬剤師や生物医学系の科学者たちの常識として、パラケルスス(1533)の「毒か安全かは量で決まる(The Dose Makes Poison)」という名言がある。すなわち、天然であろうと合成であろうと、この世に存在する化合物が生体にとって毒になるかどうかは、ある量(Dose)を超えることで決まるということであり、言い方を変えれば、毒性が科学的に証明されている化合物(添加物や農薬など)が食品中のハザードとして含まれたとしても、生体にとって影響のない量であれば、それは生物学的に無視できる(安全であり、ないものと考えてよい)という意味である。

 この原理にしたがうと、砂糖でも塩でも量が多ければ「毒」になりうるし、週刊新潮さんが指摘された天然物に普通に含まれる化学物質(リン酸塩や亜硝酸塩など)も、ある摂取量(用量)を超えればヒトにとって「毒」になるのは至極当然なのだ。食品に添加されるこれらの化学物質の量は、一生涯食べ続けても毒性が発現しないであろう摂取量(ADI)より低いレベルに基準が設定されており、実際の配合量はさらに低い用量なので、これはもはや「毒」ではなく明らかに「安全」ということだ。それでもこれら加工食品群に対して「毒が入っている!」と「ありなし感情論」をもって揶揄し、「食べてはいけない」食品として信用棄損することはどうなのか?!

 この摂取量(用量)の概念の欠如に関しては、先日SFSS主催で開催した「食のリスクコミュニケーション・フォーラム2018第1回」において長村洋一先生が詳しく解説されたので、以下で参照されたい

 ◎長村 洋一(鈴鹿医療科学大学)
 『消費者の誤解は量の概念の不足から』
 <長村先生講演レジュメ/PDF:1.78MB

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