記事

増える児童虐待。法改正してもなぜ2市だけ?進まない中核市の児童相談所開設

今年3月、東京・目黒区で5歳の女の子が虐待によって死亡するという痛ましい事件が起きました。現在、事件の真相究明が進められていますが、この事件でクローズアップされたのが子供たちを虐待から守る児童相談所(児相)の存在です。

 厚生労働省の統計では、児童虐待の相談対応件数は年々増加をつづけています。1999年には、年間の対応件数が1万件を突破。その後も対応件数は増加の一途をたどっており、2015年には年間10万件を上回っています。

 今回の事件を受け、児相の重要度はかつてないほど高まっています。それにもかかわらず、児相の数は少なく、人員も予算も限定的なためにきめ細やかな対応ができていないという現状があります。

 少子化が加速する中、子供たちを守ることは監護者(主に親)のみならず、周辺の大人、そして行政、学校など社会全体の責任でもあります。私たちの生活にもっとも身近な行政機関である市区町村、そして現場を担当する児相の間でも子供を守る最善策が議論されています。

2006年の法改正で中核市も児童相談所設置可能に

[画像をブログで見る]

 今年3月に東京・目黒で起きた児童虐待事件は、連日にわたってテレビや新聞で報道されています。この事件では、地方自治体における児童相談所の存在意義も議論されています。

 47都道府県および20の政令指定都市で、児相は必置とされています。つまり、必ず設置しなければならない行政機関として義務づけられています。しかし、私たちの暮らしにもっとも身近な自治体である市町村や東京23特別区には児童相談所を設置する義務がありません。

 都道府県は県庁所在地だけに児相を設置するのではなく、場合によって人口が多い主要都市にも児相の支所などを設置しています。複数の都市に児相を設置しても、増える児童虐待に対して、体制が追いついていません。きめ細やかな対応が困難なのです。

 そうした状況を改善するべく、政府は2006年に児童福祉法を改正。この改正で、「要件を満たせば中核市でも児相が開設できる」ことになりました。都道府県や政令指定都市のように必置義務ではありませんが、中核市に児相が開設できる道筋がつけられたのです。

 この改正を受け、2008年に神奈川県横須賀市と石川県金沢市の2市が児相を設置しました。しかし、それから10年以上が経過。2018年4月の時点で、全国には中核市が54市ありますが、横須賀市や金沢市につづく児相を設置する中核市は現れていません。

設置の大きな課題とは……

 「中核市は54市あり、すべてを同列に論じることはできませんが、児相の開設にあたって大きな課題になっているのが財政面と人材面です」と話すのは中核市市長会の担当者です。

 児相を設置するには事務所や保護施設といったハード面の整備もさることながら、職員や専門的な児童福祉司・児童心理司・保健師・弁護士といった人材を確保する必要があります。その人材確保が不十分な体制では、思わぬ事故が起きかねません。かえって事態を悪化させてしまう場合もあるのです。そうした人材不足もあって、権限が与えられても中核市は児相の設置に慎重な姿勢を崩しません。

 中核市のような人口の多い自治体には、都道府県の児相の支所を設置しているケースも多くあります。そのため、中核市は都道府県の児相と連携を密にしたり、相談窓口を充実させるなど、迅速に都道府県へとつなげる体制を強化して児童虐待を防ぐ手立てを講じています。

来春開設目指す兵庫県明石市

 多くの中核市が児相の設置に慎重になる中、2019年4月開設に向けて準備を進めているのが兵庫県明石市です。

 今年2018年4月に中核市に移行したばかりの明石市は、市長が“明石市の子供は明石市が守る”と宣言しており、中核市になる以前から着々と児童相談所の開設準備を進めてきた経緯があります。

 「もともと明石市では“こども”をキーワードに子育て政策の充実に力を入れてきました。そのため、子供をめぐる新しい政策にも市民の理解が得られやすいという環境があったと思います」と話すのは明石市福祉局児童相談所準備担当者です。

 明石市は、“中学生までの医療費無料”や“保育料の無償化”“一人親家庭の支援”といった施策に取り組んできました。児相の設置は、そうした明石市の子育て政策の集大成ともいえる事業なのです。

 ほかの中核市は児相を開設したくても専門職員が不足し、体制が整わないケースが目立ちます。どうして、明石市は専門職員を揃えることができたのでしょうか?

 「子育て政策に重点を置いてきた明石市は、以前より家庭児童相談室といった窓口に職員を厚く配置してきました。児相を設置するにあたって、職員を増員することや研修等で専門性を磨く必要はありますが、以前からの積み重ねもあって一定数の正規職員がすでに確保できていました。そうした積み重ねが、職員不足を起こさず、児相設置に漕ぎつけられた大きな要因だと思います」(同)

 いまだ、児相の設置は高いハードルです。それでも、明石市のように“子供たちを守る”という信念を貫き、児相設置を進める自治体は確実に増えつつあります。

 小川裕夫=フリーランスライター

あわせて読みたい

「児童虐待」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    加計理事長のドサクサ会見は卑劣

    宮崎タケシ

  2. 2

    香川が名乗り 仲間も予想外のPK

    文春オンライン

  3. 3

    ZOZO田端氏の残業代ゼロ論は呪い

    国家公務員一般労働組合

  4. 4

    朝日の信頼度が5大紙で最下位に

    島田範正

  5. 5

    米朝会談で断たれた北の逃げ道

    MAG2 NEWS

  6. 6

    新幹線を叩くマスコミに違和感

    MAG2 NEWS

  7. 7

    楽しい食事をダメにする残念な人

    内藤忍

  8. 8

    キンコン西野 大阪地震でSNS炎上

    女性自身

  9. 9

    DA PUMPのISSA 極秘結婚していた

    NEWSポストセブン

  10. 10

    飲酒で出社 フジテレビの思い出

    幻冬舎plus

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。