記事

米国は「戦争」「核ICBM」回避したけど……北の脅威が消えない日本

1/2


[写真]非核化の具体的措置が「先送り」された米朝首脳会談だが、両国ともに勝ち取った利益もある(ロイター/アフロ)

 アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が初めて顔合わせした「米朝首脳会談」をめぐっては、「CVIDへの具体的言及がない」「政治ショーだ」など否定的な見方もあれば、「非核化へのスタートになる」など肯定的な見方もあり、意見が分かれています。アメリカ、韓国、日本それぞれの国にとって安全保障の観点から見ると、今回の会談はどのような評価になるのでしょうか。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏に寄稿してもらいました。

【写真】完全な非核化へ具体策なし「世紀の会談」は失敗だったのか?

交渉長引けば北が水面下で核技術開発も

 6月12日の米朝首脳会談で両国が署名した共同声明をみると、大雑把な「朝鮮半島の非核化」と「米国による北朝鮮の体制の安全の保証」が謳われたものの、具体的な措置は盛り込まれませんでした。要するに「先送り」です。

 ただし、両国が勝ち取った利益もあります。米朝戦争のとりあえずの回避です。今後も対話・交渉を続けていくことになりましたが、それが進んでいる間は、戦争にはなりません。何より安堵したのは、戦力に劣る北朝鮮ですが、戦争になれば多大なコストとリスクを引き受けることになる米国にとっても、それで国益が棄損されないなら、戦争回避は大きな利益です。


[写真]米朝戦争の回避と核ICBM凍結の方向性というメリットを得た米国にもマイナス要素はある(ロイター/アフロ)

 また、今回の首脳会談では、米国側が求めるCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)が合意されず、北朝鮮がまだまだ核の放棄を受け入れてはいないことが浮き彫りになりましたが、核放棄を含めた「軍縮」はまだ先の話としても、少なくとも北朝鮮側が現状より積極的に核戦力増強に向かう動きは抑制される流れになったといえます

 これにより、米国がもっとも警戒していた「核ICBM(大陸間弾道ミサイル)」の完成と実戦配備が凍結されることになりそうです。

 北朝鮮は昨年、グアムを射程に収める中距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験を繰り返して戦力化を宣言していますが、アラスカ、ハワイ、さらに米本土の一部まで射程に収める「火星14」、さらには米本土全域を射程に収める「火星15」の発射実験も成功させました。とくに火星15は射程1万3000キロを達成しており、完全にICBM級といえます。北朝鮮はこれをもって「米国をいつでも攻撃できる核戦力が完成した」と公式に宣言しています。

 しかし、それが実際に戦力化されるまでは、おそらくまだステップが残っています。一つは、昨年の発射実験では軽い通信・観測機器を搭載した弾頭を飛ばしたと推測されますが、実戦仕様の重い核弾頭を飛ばした場合の射程が不明なことです。当然、昨年の実験時よりは射程が落ちますが、核弾頭でも同様の射程を実現するために、北朝鮮はできればミサイルの推力をさらに上げるか、核弾頭をより小型化したいはずです。

 また、ICBM級の速度での大気圏再突入時に発生する、高温の空力加熱に耐える断熱技術も、まだ検証されていません。それが完成し、さらに言えば、ミサイルを運搬する自走発射機をある程度多数製造できて、初めて実戦的な配備が可能になります。

 こうしたさらに必要な技術開発のうち、少なくとも北朝鮮はさらなる核とミサイルの実験は凍結するとしています。技術開発自体は水面下で続けるかもしれませんが、この対話が続いている間は、実証のための新規の試験は行われません。

 米国側はもちろん、それに留まらず北朝鮮の完全な核放棄を要求していますが、それが具体化しないとしても、対話している間は、米本土を脅威に晒す核ICBMの実戦配備は抑制されます。これは米国独自の安全保障としては、大きな利益になります。

 もちろん米国にとってのマイナス面もあります。このまま非核化の具体的措置が遅々として進まなければ、「中距離核」が温存されることになります。将来的に戦争になったり、あるいは北朝鮮内部が内乱などで無秩序状態に陥ったりした時、韓国、日本、グアムあたりは核の脅威に晒されることになります。韓国にも日本にも米軍や民間企業など、米国人は多数いますから、米国にとって他人事ではありません。

 また、延々と交渉が続けば、その間に北朝鮮は新規の技術開発を密かに進め、核戦力を強化していく可能性もあります。これも将来的に北朝鮮の脅威を高めることになります。実際、金正日時代の北朝鮮が行ってきたのは、この手法です。

 米政府が北朝鮮と非核化交渉をどう進めるかは、他にも東アジア全体の安全保障、イラン核問題への影響、大量破壊兵器拡散問題、さらには米国内政局など、多くの案件を考慮した上で政策が選択されることになりますが、直接の対北朝鮮に限った安全保障で考えても、米国にはこうした利益・不利益があります。

 その中で、今回の首脳会談では、米国は「戦争回避」と「核ICBM凍結」を得たということになります。

あわせて読みたい

「米朝首脳会談」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    加計理事長のドサクサ会見は卑劣

    宮崎タケシ

  2. 2

    香川が名乗り 仲間も予想外のPK

    文春オンライン

  3. 3

    ZOZO田端氏の残業代ゼロ論は呪い

    国家公務員一般労働組合

  4. 4

    朝日の信頼度が5大紙で最下位に

    島田範正

  5. 5

    米朝会談で断たれた北の逃げ道

    MAG2 NEWS

  6. 6

    新幹線を叩くマスコミに違和感

    MAG2 NEWS

  7. 7

    楽しい食事をダメにする残念な人

    内藤忍

  8. 8

    キンコン西野 大阪地震でSNS炎上

    女性自身

  9. 9

    DA PUMPのISSA 極秘結婚していた

    NEWSポストセブン

  10. 10

    飲酒で出社 フジテレビの思い出

    幻冬舎plus

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。