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福岡が"東京と張り合うこと"をやめた理由

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福岡市が「スタートアップ都市」を宣言し、全国的な注目を集めている。目指しているのはアマゾンやマイクロソフトを生み出した米シアトル。高島宗一郎市長は「人口増加率にしても開業率にしても、福岡は国内主要都市のなかではナンバーワン。でもここで満足するつもりはない」という。東京ではなく世界をみる、福岡の都市戦略とは――。(第3回)

※本稿は、牧野洋『福岡はすごい』(イースト新書)の第5章「都市戦略がすごい――『日本のシアトル』目指す」の一部を抜粋し、再編集したものです。


2018年4月11日、福岡市などが開発した防災アプリを説明する高島宗一郎市長(写真=時事通信フォト)

■「住みやすさ」をビジネスチャンスに

福岡市長に史上最年少の36歳で就任して1年足らずの2011年9月のことだ。高島宗一郎はアメリカ西海岸北部の都市シアトルを訪ねた。単に立ち寄っただけであったのに、大きな衝撃を受けた。

何しろ、シアトル訪問で福岡市長として打ち出す政策の方向性は決定的になり、翌年の「スタートアップ都市・福岡」宣言として結実したのである。彼自身はまったく予想していなかった展開だ。

マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、スターバックスコーヒー、コストコ――。そろってシアトル生まれで、今もなおシアトルを本拠地にしている世界的企業だ。2018年初頭時点でマイクロソフトとアマゾンは株式時価総額で世界トップ5社「IT(情報技術)ビッグ5」のうちの2社だ。

時価総額が巨大であれば大株主の創業者に巨富が転がり込む。だから世界第1位の金持ちと世界第2位の金持ちは共にシアトル在住だ。米「ブルームバーグ億万長者指数」によると、2018年初頭時点で前者はアマゾン創業者のジェフ・ベゾス、後者はマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ。それぞれ1000億ドル(11兆円)前後の資産を持つ。

地元コミュニティーにとってスーパーリッチの存在は大きな意味を持つ。寄付を通じて地元が潤うからである。ゲイツは世界最大の慈善団体である「ゲイツ財団」を通じて目がくらむほどの金額を地元シアトルに投じている。

■シアトルの人口は福岡市の半分にも満たない

シアトルは人口で福岡市の半分にも満たない。にもかかわらず、ここから独創的なスタートアップが相次ぎ誕生し、社会にイノベーションを引き起こす世界的企業に成長しているのだ。この点では福岡はまったくかなわない。

だが、高島はここにチャンスを見いだした。後で調べたところ、福岡とシアトルの両市に多くの共通項が浮かび上がったからだ。福岡には大きなポテンシャルがあるということであり、それをうまく引き出せば「日本のシアトル」を実現できる、とひらめいたのである。

どんな共通項があるのか。(1)リバブル(住みやすい)(2)コンパクトシティ(3)港湾都市(4)大学の研究シーズ――などだ。「福岡とシアトルが得意とする部分がまったく一緒」(高島)だ。

高島はシアトル訪問を振り返り、「それまでは福岡の強みであるリバブルがビジネスチャンスにつながるという発想を持っていなかった。別物と考えていた。シアトルを訪ねて『見つけた!』と思った。目からうろこです。リバブルがビジネスの強みになると分かったんです」と語る。

■史上最年少市長の「スタートアップ都市」宣言

シアトル訪問からちょうど1年後の2012年9月、高島は「スタートアップ都市・福岡」を宣言した。当時は「スタートアップ」という言葉は日本ではまだあまり浸透していなかった。それでもあえて「スタートアップ都市」をスローガンにしたのは、高島が新しい流れに敏感なアイデアマンだからだろう。

制度面では、第2次安倍政権が2013年に創設した国家戦略特区が渡りに船となった。地域限定で大胆な規制緩和や税制優遇を認めて経済活性化を狙う政策であり、2014年5月に全国6地域が特区指定を受けた。その中の一つに福岡市が選ばれ、「グローバル創業・雇用創出特区」と位置付けられた。福岡の場合は「スタートアップ特区」と呼んでもいい。

「スタートアップ特区」指定とタイミングを合わせる形で福岡市が打ち出した目玉政策が2014年10月にオープンした「スタートアップカフェ」だ。正確にはカフェというよりもカフェを核にした起業のエコシステムだ。


福岡・天神地区にあるスタートアップカフェの入り口(撮影=牧野洋)

高島は若い市長だから若者の感性を理解できるのかもしれない。あるいはテレビアナウンサー出身だから市民目線でいられるのかもしれない。「若い起業家は堅苦しい市役所の窓口に行って公務員に相談しようなんて思わない」という彼の一言をきっかけにスタートアップカフェが生まれたのである。

スタートアップカフェは大成功だった。オープンしてから1年以内でスタッフが1300件以上の相談を受け、数百件のイベントに8000人以上が参加した。相談件数は週末も含めて1日当たり3.5件。カフェを利用して実際に立ち上がったスタートアップは36社に上った。「堅苦しい市役所の窓口」のままだったらありえない展開だ。

これを受けて、スタートアップカフェは全国的に広がる兆しを見せている。2016年10月に関西大学の梅田キャンパス内に「スタートアップカフェ大阪」が誕生したのに続いて、2017年1月には東京・丸の内に「スタートアップハブ東京(TOKYO創業ステーション)」がオープン。いずれも福岡の本家スタートアップカフェのコンセプトをまねている。

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