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熱狂、北海道!「地域ポイントカード」EZOCAの奇跡

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藤吉 雅春 , Forbes JAPAN 編集部


3月10日に行われた札幌ドームでの開幕戦前の贈呈式

世の中にポイントカードは多数あれど、人々に「愛着」をもたれる仕掛けをつくったカードは他にないだろう。

目先のポイント以上に、北海道を楽しくさせる「EZOCA経済圏」の知られざるインサイドストーリーを紹介しよう。

上の写真が何の催しかわかる人がいたら、かなりの北海道ツウだろう。これは3月10日、札幌ドームでのJリーグの試合である。左のスーツの人物が、北海道コンサドーレ札幌の野々村芳和社長。Jリーガーとして活躍後、経営者に転じて債務超過に陥っていたクラブを黒字化させた人物だ。

隣は、北海道で「サツドラ(旧称サッポロドラッグストアー)」を196店舗、道外の東京、沖縄、台湾にも店舗を展開する「サツドラホールディングス」の富山浩樹社長である。日本の小売流通業として初めて、中国の決済サービスWeChat Payと提携した経営者でもある。

そして右端のボード。「¥1,874,362」の下に「EZOCA」とある。2014年に北海道で始まった共通ポイントプログラムで、現在、北海道の2世帯に1世帯の割合で所有されている。ボードは、EZOCAプログラムのひとつからコンサドーレに寄付された額だ。写真は、その贈呈式である。

なんだ、ポイントカードの話か、しかも187万円って渋くないか? そう思う人がいたとしたら、世にあふれるポイントカードの概念に、考え方が染まりすぎている。

EZOCAは富山が発案した。彼は「EZO CLUB」というコミュニティの概念をつくり、カードはそこで使われる。意外かもしれないが、ゴールドマン・サックスやツタヤのCCCなど大手企業にいた人々が、「面白い」と言って富山のもとに転職をしてきている。一体何が起きているのか、「EZOCA物語」を紹介しよう。

「社内で孤立しましたね。社長の息子が入社してきて、わけのわからないことを言い出したって」。

富山は日用品を卸す中間流通業の社員として福島や東京で働いていたが、07年、31歳のときに父親が経営するサッポロドラッグストアーに入る。しかし、そこで危機感を抱くようになったと言う。

「当時、全国規模のドラッグチェーンが成長していて、うちのような地方のチェーンはいずれ統合されて、なくなると思いました。アメリカのドラッグストアはほぼ3社に絞られていて、同質化したフォーマットが寡占化するのは必然だと思ったんです」

入社2年後、「のめり込んだ」というのが、チェーンストア理論で知られる渥美俊一の勉強会だ。1962年に設立された渥美の経営研究会「ペガサスクラブ」の会員には、ダイエー、イトーヨーカドー、西友、ジャスコ(イオン)など、日本の流通業を築き上げた人々の名前が連なる。しかし─。

「社長の息子がチェーンストア理論に毒されている」と、富山は社内で言われたのだ。戦後、日本人の生活向上を目指して、統一された多店舗展開による流通の近代化は、「もう古い」とされていたからだ。

「でも、逆に僕はチェーンストア理論をやらないと潰れますと言うようになりました」と、富山は言う。「アメリカの歴史を見れば、チェーンストアは地域から生まれ、地域を変えてきました。小売業は労働集約型産業だし、社会を変えていくインフラの役割を果たしていると気づいたのです」。

では、全国チェーンとは違う強みは何か? そう自問したとき、CCCの社長、増田宗昭から、CCCのTポイントカード傘下にサッポロドラッグストアーの会員カードを入れたらどうかと誘われた。

富山はTポイントカードと提携しようと、契約書に印鑑を押しかけたとき、「ちょっと待てよ」と思った。

北海道内ではTポイントカードやPontaカードよりも自社のカード会員の方が多い。それなのに、手数料まで払って、自社の顧客を全国チェーンに渡すって、絶対にやっちゃいけないことじゃないか。全国チェーンと同質化したら意味がない。自社の価値とは地元に密着していて、来店頻度が高い女性客を多く抱えていることだ。

富山は思った。まったく新しいブランドのカードをつくろう。地元・北海道が好きな人なら誰でも会員になれる、「ナショナルでもなく、ローカルでもなく、もっと広いリージョナル(地域)のカード」だ。

自社以外の加盟店も増やして、「楽しくつながる」をコンセプトにした「EZO CLUB」構想である。これは富山が予想しなかった現象を起こしていく。

企業を応援するお母さんたち

13年、共通ポイントカードEZOCAを運営する会社「リージョナルマーケティング」が設立され、翌年、17万5000人の会員からスタートした。「一気に飛躍するきっかけがありました」と、同社の取締役、渡部真也は言う。EZO CLUBは、「カード、メディア、コミュニティ」の3つを軸にしている。メディアとはフリーマガジンで、コミュニティとは子育てや手芸など地域のサークルである。渡部が話す。

「ある食育サークルに話を聞いたら、活動の場所と告知方法で困っていると言われました。皆さん、フェイスブックで告知をされていて、なかなか広がらない。だったら、サツドラ店舗に置いているフリーペーパー『EZOママ イベントかわら版』やフリーマガジンに掲載できます。これが口コミで予想以上に広がりました。活動場所も、メーカーさんなど企業が『協賛しましょう』と声をあげたのです」。

活動場所は店の会議室や保育士養成学校など、女性たちとの接点を求める会社が提供した。特に大受けだったのが、住宅メーカーのショールームだ。料理サークルが最新のキッチン設備を体験し、「テンションが上がりましたよ」と喜ぶ。提供する企業側も、消費者との接点が息の長い関係に変わる。

ものづくり系のコミュニティが主催するイベントは1000人単位の集客があり、企業は協賛しながら歯磨き粉など試供品を配布する。すると、女性たちが「何か、私たちが企業さんにお返しできることはありますか? 宣伝くらいしかできませんけど」と言い出したのだ。イベントで企業のPOPをつくる女性も現れた。もちろん、「私たちは企業側に利用されていませんか」と疑問を抱く女性もいる。渡部が言う。

「企業や我々がここで稼ごうとすると、誤解や問題を起こします。あくまでもママさんたちを応援すること。企業と生活者が向かい合った結果、同じ方向を向いてサポートする関係が生まれました」。

売り手と買い手に線引きされた関係から、お互いが協調する関係性へ。「経済合理性でいうと、私たちがやっていることは非効率です」と渡部は言う。しかし、「ポイントが5倍になる」といった経済性だけでカードを運営していけば、企業は消耗していくし、会員とは数字のみの関係だ。

それよりも、収益源は企業からのカード手数料とWeChat Payの代理業や、フリーマガジンの広告にする。そしてコミュニティ支援で仲間を増やして、お互いの距離を縮める。協賛企業にとっては潜在需要になる。この近しい「距離感」こそが、全国チェーンにはできない差別化となったのだ。

EZOCAの会員数は3年で160万人を突破した。昨年11月には、札幌ドームで2日間、「サツドラFES」が開催された。ドラッグストアーのフェスティバル自体が前代未聞だが、約100社がブースを出し、会場には親子連れを中心に2万9221人もの人が集まった。ドームはEZO CLUB経済圏を象徴する賑わいとなったのである。

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