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コロッケが本名で映画初主演 お手本がない役作りへの苦悩


【本名で映画初出演】


【「気を抜くとコロッケになってしまう」】

 カメラマンがレンズを向けると、「こんな顔も撮っておきましょうか」と眼鏡をずらして変顔をする。この人は根っからのお笑い芸人なのだろう。ものまねタレントの代表格といえる存在であり、そのレパートリーは300を超えるといわれるコロッケ。そんな彼がお笑いを封印し、映画『ゆずりは』(6月16日公開)で本名である「滝川広志」としてシリアスな役に臨む。初の主演映画でもある。

「役柄がコロッケと真逆。本当によく指名いただいたなぁという感じです。僕のものまねは動きが激しいものが多く、返事ひとつとっても大袈裟にする。余計な動きに命を懸けるんです。それが身に沁みついてしまっているんですよ。だから監督にも最初は“動き過ぎ”と言われていました。余計な動きをしない、これが撮影中の僕の中での大きなテーマになっていました」

 滝川が演じるのは葬儀社のベテラン営業部長。彼が勤める会社に面接にやってきた、茶髪にピアスの若者とともに、亡き人々や遺族との交流を通じて「生きる意味」を描いていくヒューマンドラマだ。誰もが避けて通ることができない「死」と向き合う現場が、この作品の舞台となっている。

「ものまねは存在する誰かの真似をする。お手本があって、それを崩して特徴を強調するのがコロッケです。ところが役者・滝川広志は存在しない人間を演じなければいけない。今回はお手本がないので崩しようがなく、強調する特徴がない。どえらいことでした。撮影が始まるとなんで引き受けちゃったんだと落ち込むこともありましたね」

 区役所と病院以外で呼ばれたことがないという「滝川広志」として役作りを始めた。38年の芸歴で初めての経験だ。役に入り込むために、最初にやったのは、舞台となった千葉県八千代市のビジネスホテルに泊まり込み、実際に住人たちが行くスーパーや居酒屋に通うことだった。

「主人公の水島は妻の自殺という“心の闇”から笑いを失ったという設定。感情の起伏を失った男なので、感情を表に出さない役どころです。しかし、僕の私生活はコロッケそのもの。ステージでも、飲みに行っても、いつも弾けていました。だからコロッケとしてのショーが終わって、そのまま簡単になりきれる役ではない。その町に存在する水島になりきるところから始めないとダメだなと思ったんです。こんな生活を送り、こんな人たちと関わっていたんだろうと、水島のいる環境を想像しながら街を歩きました」

 八千代市で2週間行なわれた撮影中、お笑いは一切封印。オフの時間も水島になり切った。

「マネージャーも役に入っている時は声が掛けられなかったと言っていました。怒っているみたいだったそうです。僕はストレスが溜まるのが怖いので、たまにメイク室でふざけていました(笑い)。ただ、メイク室から監督のところに歩いていく間に水島にならないといけない。スッと役に入れなくてトイレに駆け込んだりもしましたね」

 タイトルの『ゆずりは』は、1年を通じて緑の葉を絶やさない常緑樹。若葉が育つのを見届けて古い葉が落ちる様から、親から子、子から孫へと受け継がれていく命のバトンにも見立てられる。死と向き合う現場で、『ゆずりは』の如く三世代にわたる“見送るものたち”の誇りと絆が描かれている。

「若い世代を受け入れる間口を持っているかどうか。この映画のテーマのひとつだと思います。年齢を重ねると頑固になって、新しいものを受け入れなくなり、受け入れないことが美学だと思っている人も少なくない。そうではなく、若い人をみて自分が若い頃にできたかなと思うようにしてみる。そういう間口を持っていないと高齢化社会で孤立していく……。そんなメッセージを受け取っていただければ嬉しいですね。これまでどう生きてきたか、そしてこの先どう生きていくか。葬儀社の営業部長という役を通じて、僕もそういうことを再認識させられました」

 この作品で滝川広志という新しい部分を見つけてもらったというコロッケ。最後は、十八番である岩崎宏美の顔真似で見送ってくれた。

●ころっけ/1960年、熊本県出身。本名・滝川広志。1980年8月、『お笑いスター誕生!!』(日本テレビ系)でデビュー。その後、TVのものまね番組などで活躍。ものまねレパートリーは300種類以上となり、ロボットバージョンやヒップホップダンスとの融合、落語にものまねを取り入れるなど、数々の芸で人気となる。永年にわたりものまねタレントとして芸術文化の振興に貢献したとして、2014年に文化庁長官表彰、2016年に日本芸能大賞を受賞。

*コロッケが本名・滝川広志として初主演をつとめた『ゆずりは』は6月16日(土)より新宿K’s cinema、イオンシネマ板橋ほか全国順次ロードショー 配給:エレファントハウス/アジアピクチャーズエンタテインメント。

■撮影/三浦雄司、取材・文/鵜飼克郎

※週刊ポスト2018年6月22日号

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