記事

アニメ化中止は「表現の自由」案件ではない

1/2

5月22日に今年10月からのテレビアニメ化が発表されていた「二度目の人生を異世界で」のアニメ化が突然の中止(*1)、既存の同タイトルの書籍版も、増刷を含む、今後の刊行が未定となった(*2)ことが話題になっている。

最初は原作者によるツイッター上での謝罪(*3)、次に主要声優の一斉降板という形で報じられるという流れ(*4)であったが、これは情報リリースの時間差の問題で、最初に原作者が謝罪のツイートをした時点で、すでにアニメ化自体の中止も決定していたと考えるべきだろう。

刊行の未定について出版社であるホビージャパンの別判断であろうが、いずれにしても一度公表されたアニメ化が突然の中止というのは、穏やかではない自体であることは間違いがない。

ネット上では「中国人が日本のアニメを潰した」という話として騒いでいる人が多いようだ。

それはこの作品の主人公が「15歳で中国に渡り、黒社会で活動。日本の「世界戦争」に従軍し、4年間で4,000人弱を殺害した94歳の老人が異世界に転生する」という設定であるからだという。

この設定に対して「中国の連中が「中国人を虐殺した日本人を主人公にしたアニメだ!」と騒いでいる」として、これにより「日本の作品の表現の自由が脅かされている」と理解し、反発している人が多い印象である。

さて、この件は本当に「日本の作品の表現の自由が、中国人によって脅かされている」という事例なのだろうか?

まず最初にこの話にとって最も重要な点を明示しておく。それは「この話は表現の自由とは一切関係がない」ということだ。

表現の自由とは「国家が国民に対して検閲を課したりすることからの自由」を指すのであり、「他人の意見や他人の助力関係なしに、文章でもアニメでもどんな作品でも作って批判を受けずにお金を稼げること」を指すのではない。

実際の事例で言えば、子供をレイプするエロ漫画を書いていた作者のもとに、埼玉県警がこんにちわとやってきた問題(*5)や、コロコロコミックスに掲載されたギャグ漫画に外務省経由でクレームが入るという問題(*6)があった。これらの問題は、いずれも行政が関与していることから、表現の自由を脅かしかねない問題である。

しかし、少なくとも今回の件で騒いでいたのは中国の一部のSNSであり、中国国家がこの作品に口を出したわけではない。ましてや日本国家がなにか言ってきたわけでもない。国や行政が関わっていないのだから、この件は表現の自由の話ではないのだ。

にもかかわらず「表現の自由が中国人によって脅かされた」と主張する人がいるのは、それが決して表現の自由のための問題認識ではなく、単なる表現の自由を餌にしたイデオロギー闘争というネタに過ぎないからだろう。

では、表現の自由の問題でないとすれば、何の問題か。

お金の問題である。

今回の件で、実際に何がどうしてアニメ化中止という判断になったのかという過程は明らかにされていないが、一方でアニメの「製作委員会」が中止を決めたということだけはハッキリとしている。今回の件は少なくとも、出演予定だった声優個人や制作側の個別の判断でないことは明白である。

アニメにおける「製作委員会方式」とは要は「アニメ制作のためにお金を出し、アニメの利益を得る権利者の集団」のことである。幹事会社が複数の会社に出資を募り、各社調整の中で利益が出れば分配を得る。またBlue-ray化やキャラクターグッズの製造、ネットでの配信、関連書籍の展開などの権利も得る。現在のアニメ制作で必要なお金を集めるために取られる一般的な方式である。

本来であれば、一度出資を決めてアニメ化が公表された以上は、作品が放送される形に持っていくのが当然だ。毎シーズン様々なアニメが放送されては消えていく現状で、思ったほど作品が話題にならず、売れなかったとしても、その程度のリスクは通常は織り込み済みである。

しかし、今回はすでに公表されているアニメ化が中止という事態になった。それは一度決めたことを取り下げるに値する「よほど」のことがあったと考えるべきである。

では、実際には何があったのだろうか?

それは、結局は公式の見解を信用することでしか、判断し得ないだろう。

ネットでは一部の声の大きい人達の影響や、また「大抵のことは中国が悪い」というネット上によくある素朴な認知から「中国人がSNSなどで出演声優などに殺害予告を繰り返した。日本の表現の自由が中国人に踏みにじられた」と主張する人が少なくない。

しかし、出演声優に対する殺害予告が引き金になったという説に関しては、ホビージャパンがハッキリと否定している。(*7)

ネットでは、中国語での主要声優への殺害予告があるとして、それを引き金であると主張しているが、誰かの殺害予告がどこかにあることは、決してその犯罪性を決定する証拠ではない。ましてやそれを「アニメ化が中止された根拠」とみなすなど、論理の飛躍が過ぎる。

いずれにせよ、ネットの情報は憶測を超えるものではなく、公式に関係各所が出しているリリースを元に判断するのが最も妥当であろう。

公式な説明によれば、今回のアニメ化中止の原因は作者の過去のヘイト発言にあるとされている。

確かに書籍が刊行される前の過去の発言ではあるが、今や日本のアニメは日本だけにとどまるものではない。日本のアニメが世界に進出と言えば格好はいいが、実態としてはもはや日本国内での売上げだけでは制作費をペイできないという話でもあるのだろう。当然、中国を含む東アジア圏も商圏として含まれることから、そこで嫌われた作品をアニメ化しても、リスクばかりが大きくビジネスとしての旨味は少ないと判断されたのだろう。

つまりビジネス上の判断として、アニメ化が中止となったと考えるのが一番正解にほど近い、妥当な解釈であると考えられる。 ただ、こうしたビジネス上の判断に反発する人も少なくないだろう。

今後、中国マネーが膨れる中で、日本のマンガやアニメは中国市場を向いて、要は中国の顔色を伺いながら生み出されれるしか無いのかと。

きれいな考え方でいえば「表現がお金で捻じ曲げられてしまう問題」。ネット的な汚い考え方で言えば「金を持った反日中国人が、日本人の愛国的表現を狩ってしまう問題」である。

そしてこれについては「現状はそうなるしかない」と答えるのがまっとうだろう。

あわせて読みたい

「人権」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    慰安婦の日が騒がれなかった理由

    WEDGE Infinity

  2. 2

    石破氏の安倍氏批判はまるで野党

    木走正水(きばしりまさみず)

  3. 3

    若者の性交離れ 女子に顕著傾向

    NEWSポストセブン

  4. 4

    生保世帯へ冷房補助 条件に疑問

    メディアゴン

  5. 5

    NHK委託業者の悲惨な労働実態

    しんぶん赤旗

  6. 6

    ポケモン声優死去 哀悼の声続々

    キャリコネニュース

  7. 7

    テスラCEO 資金枯渇で極限状態か

    広瀬隆雄

  8. 8

    朝日のギャンブル報道が支離滅裂

    木曽崇

  9. 9

    堀江氏 ユニクロとZOZOの間狙え

    MAG2 NEWS

  10. 10

    キャンベル氏 杉田氏批判の思い

    AbemaTIMES

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。