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「身体拘束」が増えていく社会は健全か? - 長谷川利夫 / 精神障害作業療法学

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身体拘束とは何か?

皆さんは、病院や施設などで、ベッドに身体を縛り付ける「身体拘束」をご存じだろうか?

こちらの写真は、私が病院で使われているベッドに「身体拘束」されている写真だ。仰向けになった私の両手首、両手足には「拘束帯」と呼ばれる器具が装着されている。手足は固定され、仮に頭がかゆくてもかくこともできない。トイレに行きたくなっても、トイレにいくこともできない。

通常は身体拘束をされると、オムツをさせられ排尿はそこでさせられることになる。カテーテルと言って尿道に管を通されることもまれではない。社会の中で「身体拘束」される人は、病院、高齢者の施設、さまざまな障害者が入所する施設などがあるが、全容は明らかになっていない。「身体拘束」はある種のタブーとなっていて、病院施設関係者も、される本人、家族も、なかなか忌憚なく話し合うということにはなっていないようである。家族も「病院や施設にお預けしている」という意識が働くことも多い。

私は、「精神科医療」における身体拘束について研究や活動を行っている。まずは「精神医療」に領域を絞って対象に迫っていき、最終的には、社会の至るところで行われている身体拘束によって引き起こされている問題を解決していければと考えている。

そこでまず、簡単に我が国に精神医療の現状を概観しておこう。

我が国では、医療法第7条で「病院の病床のうち、精神疾患を有する者を入院させるもの」を「精神病床」と言っている。(精神病床には、いわゆる一般病院の中にある精神病床と精神科病院の中の精神病床があるが、我が国は圧倒的に精神科病院における精神病床が多いので、ここではとくに区別せずに述べることにする。)つまり、我が国では、精神疾患で病院に入院する場合は、「一般病床」ではなく、「精神病床」に入院しなければならない。この多くは精神科病院にある。

日本には約33万の精神病床があり、ここに約29万人が入院している。じつはこの内、約19万人が1年以上ときわめて長期に入院している人たちだ。そして同じ数の人たちが、一日中病棟に鍵がかかってそこから出ることのできない「閉鎖病棟」に入院している。

さらに日本の精神科病院の平均の在院日数は280日。諸外国が1カ月以内であるのに比べて長期入院が際立っている。日本の精神医療が「隔離・収容」主義と言われる所以である。また、精神科病院への入院は、自分の意思で入院する「任意入院」、自分の意思にかかわらず強制的に入院させられる「医療保護入院」、「措置入院」などのタイプに分けられるが、46%の人たちが医療保護入院、措置入院など、自分の意思によらず強制的に入院させられた人たちだ。このように我が国の精神医療は、長期入院、閉鎖性という特徴をもっている。

このような中で「身体拘束」が行われる。

厚生労働省は、毎年6月30日に、全国の精神病床をもつ病院に調査を行っている。

これを取りまとめたものが“精神保健福祉資料”である。これによると、近年、身体拘束を受ける人が急増しているのがわかる。

図表を見て欲しい。

赤い線が身体拘束をされている人の数、青い線が隔離をされている人の数である。

ここでいう「隔離」とは、自ら出ることのできない鍵のかかった部屋に本人を閉じ込めることである。精神科病院の場合だと、「隔離室」と呼ばれる隔離をするための特別の個室があり、そこに患者を閉じ込めるのが一般的である。「隔離室」は病院にもよるが、どんなに叩いてもびくともしない厚い鉄の扉にのぞき窓、狭い部屋の中に丸見えのトイレ、などという構造の所も少なくない。

図で示したようにこの「隔離」をされる患者も増加している。しかし、身体拘束をされる人の方が急増していて、隔離をされる人の数を近年追い抜いているのがわかるだろう。

これは何を意味するのだろうか?

ニュージーランド国籍ケリー・サベジさんの死

具体的な例で考えてみよう。

1人のニュージ-ランド国籍の青年が、昨年5月、神奈川県内の精神科病院で身体拘束中に心肺停止となり、その後搬送先の病院で亡くなった。その名は、ケリー・サベジさん、享年28歳。私はケリーさんが亡くなった後、ご遺族からこのお話を直接うかがい、その死の約2か月後の7月19日に、“精神科医療の身体拘束を考える会”を立ち上げ、同日、厚生労働省と外国特派員協会でご遺族と一緒に記者会見を行った。

亡くなったケリーさんは、大の日本好きで、母国ニュージーランドで日本語を学ぶ青年だった。2015年に夢が叶い来日、鹿児島県志布志市の英語指導助手(ALT)として県内の小学校で仕事をしていた。ところが昨年(2017年)3月に精神的に不安定になり、休養のため神奈川県内にある兄の家に滞在中の4月29日にそう状態になり、大声で叫んだり外に飛び出す行動が見られた。兄は救急車を呼んだが、精神疾患には対応できないので警察を呼ぶように言われた。翌4月30日の朝に、状態が悪化し、兄は110番に電話をし、警察官とともに警察署へ向かい、同日、神奈川県内にある精神科病院である大和病院に措置入院という強制入院になった。

同行したお兄さんの話によると、精神科病院に到着し診察中のケリーさんは落ち着いて静かだったとのことである。しかし、ケリーさんは医師からベッドに横になるよう指示をされ、それに従って横になり、すぐに両手、両足、胴をベッドに縛る身体拘束をされたのである。ケリーさんはニュージーランドにいた5年前、うつ病で1ヶ月余り入院したことがあったが、身体拘束をされたことはなかった。落ち着いているにもかかわらず、入院するなりいきなり身体拘束をすることにお兄さんは大変驚いたそうである。

その後の様子をカルテなどの記録から追ってみる前に、精神科医療における身体拘束は、法律などでどのように定められているかを見てみよう。

精神科病院のことなど、広く精神医療のことについて規定しているのが、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下、精神保健福祉法)である。

この法律の37条に基づいて定められているのが「精神保健福祉法第 37 条第1項の規定に基づく厚生大臣が定める処遇の基準」(厚生労働省告示)でありここで身体拘束のことが述べられている。

この基準の中の「基本的な考え方」には次のように書かれている。

「身体的拘束は、制限の程度が強く、また、二次的な身体的障害を生ぜしめる可能性もあるため、代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない処置として行われる行動の制限であり、できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならないものとする。」

ここにあるように、身体拘束は本当にやむを得ない時にだけ、しかも代替手段が見出されるまでの間にされることがかろうじて許されるものであり、早期に他の方法に切り替えることが求められている。

続いてどのような人が身体拘束の対象となり得るかを見てみよう。

対象となる患者に関する事項

身体的拘束の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、身体的拘束以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。

ここでも、やはり「代替方方がない場合に行われる」と規定されている。

さて、次にどのような患者さんにすることが許されるかの3要件が示される。

身体拘束の「対象となる患者」
ア.自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合
イ.多動又は不穏が顕著である場合
ウ. ア又はイのほか精神障害のために、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合

さて、それでは、ケリーさん対してなされた身体拘束がどのようなものだったのか、身体拘束をされ、それを外すことを懇願しても外されることなく、心肺停止に至ったかを実際のカルテ、記録から見てみよう。

5月1日(診療録)カルテ
「左手の拘束を外して欲しい。」
(点滴抜かないようにしばらく続けること説明)
水分の要求にて水をコップ数杯飲水する。
こちらからの問いかけに的確な返答あり。
食事中逸脱行為ないが、拘束を外して欲しいと何度か要求があり主治医へ伝えると説明する。
拘束の訴えについては了解が悪い。

5月4日【看護記録】
「昼薬時、覚醒あり『おはようございます』と返答される。対応は穏やか」
昼薬をすすめると「いらないです。大丈夫です」と頑なに拒否あり飲めず。

5月6日【看護記録】
疎通良好
声かけに「おはようございます」と返答あり、食事に関して「お腹空きました。ご飯食べたいです」と発語あり。
水分も吸い飲みにて100ml程度飲める。その後も「もう少し水ください」と、追加で200mlほど飲まれる。むせ込みなし。
雑談もでき、「日本語は完璧じゃないですけど、なんとか話せます」
「兄が横浜に住んでて」などと会話できる。

5月7日【看護記録】
声かけに容易に覚醒する。
「これ(拘束)から抜けたいから・・お兄さんと、先生と・・打合せして欲しい。」
帰宅希望も聞かれる。
主治医も家族との面談を予定していることを伝える。
「そうですか・・・わかりました。」

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