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「秩序なき世界制覇を謀る中国」 ―今こそ聖徳太子、福沢諭吉の中国観を再考すべし― - 屋山太郎

 習近平国家主席の中国は、強い軍隊を築いて世界にのし出す構えを示している。ごく最近まで、日本や米欧の中国観は、自由主義経済の中に加えて訓練すれば、いずれ中国も民主主義社会に仲間入りするというものだった。

 中国に対するこの甘い考え方は、完全なる幻想だ。きっぱりと断ち切って変えなければならない。戦後、日本政界の対中国政策は日本が我慢して付き合っているうちに、人脈ができて国同士の話し合いができるようになるというものだった。中曽根康弘首相は胡耀邦主席と家族ぐるみの付き合いを重ねた。後藤田正晴氏(当時の官房長官)などは遺言で通夜を日中商工会で行ったほど日中関係を大事にしていた。

 現在の中国は、中曽根、後藤田両氏が夢に描いていた中国とは全く異なる。現在の中国は西暦607年聖徳太子が隋に当てて、小野妹子に「親書」を託した時代と似てきた。当時の隋は日本に冊封国家になれと朝貢を促していた。煩わしくなった聖徳太子が「互いに対等だよ」と諫めたのである。明治時代には欧米のシナ大陸植民に対して黄色人種が団結して立ち上がろうという、孫文などの「大アジア主義」が興った。しかし福沢諭吉の「脱亜入欧」が国家の建設方針となった。

 ヘンリー・キッシンジャー氏(元米国務長官)は1971年、極秘に訪中して翌年の周恩来・ニクソン会談の道筋をつけた。この米中接近は当時の世界史をひっくり返すほどの大事件だったが、中国の軍国主義化の道に繋がったわけではない。いまキッシンジャー氏は93歳だが、米中和解のために「訪中してもよい」と言っているそうだが、同氏が想定している中国と現実の中国とは全く異質のものだろう。

 最近、中国は憲法改正を行った。第1条に習思想とも言える「特色ある社会主義思想」、「社会主義現代強国の建設」、「中華民族の偉大な復興」の3点を掲げている。中華民族が軍事的に世界を支配するという脅しと受け取れる。南シナ海の岩礁を埋め立て、あからさまに軍事基地を建設している。国際仲裁裁判所の「中国に権利はない」との判決に対して「判決は紙屑」だと一顧だにしない。

 ここを中国が内海化すると次はフィリピンの外側まで進出し、「ハワイを境に太平洋を半分ずつにしよう」ということになるのだろう。これは07年、中国軍幹部がキーティング米太平洋軍司令官に持ち掛けた実話だ。

 この世界制覇の手段として、中国は周辺国に「一帯一路」を強要している。マレーシアでは前親中派政権がクアラルンプールからシンガポールまでの350キロの高速鉄道を計画していた。5月に交代したマハティール新政権は計画を瞬時に白紙撤回した。「中国が便利になるだけの鉄道だ」との理由だ。

 日米両国は南シナ海の自由航行のために「開かれたインド太平洋戦略」を展開することで一致し、これにインド、豪州も加わった。

(平成30年6月6日付静岡新聞『論壇』より転載)

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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生れ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、ローマ特派員、官邸クラブキャップ、ジュネーブ特派員、解説委員兼編集委員を歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。「教科書改善の会」(改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会)代表世話人。 著書に『安倍外交で日本は強くなる』『安倍晋三興国論』(海竜社)、『私の喧嘩作法』(新潮社)、『官僚亡国論』(新潮社)、『なぜ中韓になめられるのか』(扶桑社)、『立ち直れるか日本の政治』(海竜社)、『JAL再生の嘘』・『日本人としてこれだけは学んでおきたい政治の授業』(PHP研究所)など多数。

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