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仮想通貨の「億り人」は社会のゴミなのか

■ビットコインの価格を予想することは不可能に近い

最近、マネー関連の雑誌で、個人投資家がビットコインで大金持ちになった記事を見かける。仮想通貨の取引で1億円以上の利益を得た人(通称=億り人)が増えたことも、関心の背景にある。


写真=iStock.com/KeremYucel

ビットコインに代表される仮想通貨は、価格の変動が激しいこともあり投機の対象となりやすい。価格の決まり方は単純で、欲しい(買いたい)と思う人が、手放したい(売りたい)と思う人よりも多ければ価格は上昇する。

問題は、いつ、どれだけの人がビットコインを手に入れたい、あるいは逆に売りたいと思うか予想が不可能に近いことだ。実際には、ビットコインの人気が高まると多くの人が欲しいと思うだろうし、逆に人気が低下すると多くの人が手放したいと思うはずだ。要するに、ビットコインの価格は、それこそ人気によって大きく変動するということになる。

そのビットコインを安値で買い、上手く高値で売り抜けることができれば、相応の利得(利益)を得られる。ただし、高値で買ってしまうと、想定外の損失を被る恐れもある。また、コインチェックからの顧客資産の不正流出のように、取引サービスを提供する企業(取引所)の情報セキュリティーも軽視できないリスクだ。

■投機的な価値だけであれば、飽きられるリスクがある

そうしたリスク要因を突き詰めて考えると、将来的、ビットコインなどのように価値が不安定な仮想通貨が人々の関心から消えてしまうことも考えられる。個人投資家が取引を検討する場合、そうしたリスクを冷静に考えた方がよい。

一方、仮想通貨を支える分散型のネットワーク・テクノロジーである“ブロックチェーン”の拡張性、それが企業のフィンテック事業に与えるマグニチュードを考える意義は大きい。重要なのは、ビットコインそのものよりもそれを支えるテクノロジーと理解した方がよさそうだ。

ビットコインの価格は需給次第だ。買いたい人が、売り手よりも多いと、価格は上昇する。ビットコインで利益を上げようとすれば、周囲に先んじて資金を投じておくことが重要になる。価格の上昇傾向が本格化すると、多くの投資家がビットコインを買う。それが続くと強気相場が出現する。利益を確保するには、遅れて参入した投資家にビットコインを売る。言い換えれば、買いたい人に高値で売りつける。

■基本的に仮想通貨取引投資は高リスクゲーム

なぜこうなるかといえば、ビットコインなどの仮想通貨には価値を安定させる仕組みがないからだ。そのため、投機の対象になりやすい。価値の尺度、支払いの手段にはなりうるが、価値の保存には適さないだろう。それが円などの法定通貨との決定的な違いだ。

ビットコインの価値の不安定さは、その歴史を振り返ればよくわかる。2009年頃から、ビットコインは送金や買い物(支払、価値の尺度)に利用され始めた。当時、価値は、ほぼゼロだった。その後、中国などの新興国では、ビットコインを使い海外に資産を持ち出す人が増えた。需要の高まりに伴い、価値が上昇した。

この結果、ビットコインを筆頭に仮想通貨の市場は、買うから上がる、上がるから買うという熱狂を呈した。2017年の年末には、1ビットコイン(BTC)が200万円程度まで急騰した。それは、“バブル”(理論で説明できないほど価格が上昇する現象)と呼ぶにふさわしい状況だった。

人気が価値を押し上げ、バブルが発生した例は多い。17世紀のオランダでは、チューリップの球根の価値が、住宅一戸程度にまで急騰した(チューリップ・バブル)。きれいな花が咲いても、生活が改善するわけではない。それでも、人気あるものを手に入れたいという欲求や衝動が投機熱を高め、説明できないほどに価値が急騰した。ビットコインもその一つだ。価格の不安定性がある以上、長期の資産形成には適さないだろう。

■ビットコインを支えるネットワーク・テクノロジー

一方、経済の専門家や企業経営者の間では、ビットコインの発行を支える分散型のネットワーク・テクノロジーである“ブロックチェーン”への関心が高まっている。分散型元帳ともいわれるこのテクノロジーは、管理者を必要としない。2009年1月の初めての発行以来、ブロックチェーンはプロトコル(作業の手順)に基づき、問題なくビットコインの取引を成立させている。

仕組みを簡単に紹介しよう。ビットコインを手に入れたいと思う人は、自分のパソコンにビットコイン用のブロックチェーンのアプリをインストールする。その上で、10分程度の時間をかけて数学のクイズを解く。一番先に正解した人に、報酬としてビットコインが付与される。これがビットコインの発行だ。

ブロックチェーンの特徴は、ビットコインの発行に関する一連の手続きをネットワークの参加者全員が監視し、その正しさを承認することだ。第1回目の発行以来、ブロックチェーンには、正規の手続きに基づく全発行データ(ブロック)の一つ一つが、鎖(チェーン)のように連なって保存されている。分散型と呼ばれるのは、ネットワーク参加者の端末上で、データの同期化と均質化が確立されていることによる。一カ所に大きなサーバーを設置し、中央集権的な発想でデータを管理する必要はない。

もし、誰かがビットコインの不正取得を試みれば、過去から脈々と連なる記録のチェーンが分岐する。分岐は、ハッキングなどのサインだ。2009年1月の初回発行から直近まで、ハッカーはすべての問題を解き直さなければならない。その間、プロトコルに従いビットコインが発行される。理論上、改ざんが正規の発行手続きを追い抜くことは困難だ。この仕組みが、管理者不在のシステム運営を支えている。

ビットコインの価値そのものは不安定だ。しかし、その発行を支えるテクノロジーの安定性・頑健性は高いのである。

■「銀行がなくなる日」が現実になる可能性がある

理論上、ブロックチェーンには、管理者が不要だ。その理論を応用することによって、企業の情報管理に関するコストの削減が期待される。端的に言えば、巨大サーバーを置くビル(不動産)の取得や、IT人材にかかるコストを減らすことができる。それが多くの企業が“フィンテック”(ITと金融ビジネスの融合)を目指す動機だ。

特に、民間企業の信用力に裏付けられた価値が一定の仮想通貨や各国の中央銀行が取り組む法定通貨のデジタル化(デジタル通貨)が実現すれば、これまでの金融ビジネスの常識が覆るだろう。

民間の大手企業などが価値の安定したデジタル通貨の普及に取り組めば、決済や預金引き出しなど金融サービスの利用コストの低下が期待できる。従来よりも便利な金融サービスを生み出すことができる企業は、利用者(需要)を獲得できるだろう。

もし、小売業やIT企業が、価値が一定のデジタル通貨を発行し金融サービスを提供し始めれば、その社会的なインパクトは大きいはずだ。それは、銀行が一手に握ってきた信用創造や資金仲介の機能が、非金融業界に染み出していくということだ。

突き詰めていえば、銀行がなくなる日が現実になる可能性がある。そのほかにも、法定通貨の利用頻度が低下し、金融政策の効果が低下するなど、さまざまな変化が考えられる。そうしたフィンテックビジネスの推進が、ブロックチェーンを活用して進められている。

金融以外の分野でもブロックチェーンは注目されている。エストニアでは、ブロックチェーンを用いてビザの発行や会社の登記などが効率化された。ブロックチェーンと人工知能を用いて組織の運営を行おうとする試みもある。

■金融機関には重大なマイナスだが、社会全体にはプラス

このように考えると、目先のビットコインの価格動向に一喜一憂するよりも、その発行を支えるブロックチェーンの拡張性を考える意義は大きい。加えて、新しいネットワーク・テクノロジーを創出しようとする企業のイノベーション力に注目することは、社会の変化を考えることにつながる。それは今後の変化を見極め、成長期待の高い企業への投資機会を発掘するなど、わたしたちの人生を豊かにすることにつながるだろう。

ブロックチェーンなどのテクノロジーを用いて振替決済機能が現在の金融機関以外にも可能になると、社会全体の効率性が上昇することが想定される。それは金融機関にとっては重大なマイナスになるものの、社会全体にとっては使いようによってプラスになる可能性が高い。

そして何よりも、ブロックチェーンというシステムの汎用性を考えると、今後、仮想通貨以外に運送の記録管理、宝石の鑑定書など多くの応用分野が考えられる。それは社会にとって間違いなく大きな福音になるはずだ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=iStock.com)

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