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無理をさせた者が評価される「月曜朝イチで」という不条理 会社員たちの“日大アメフト問題” - urbansea

「組織に忠実なものは、いつかは組織に裏切られると。忠実であればあるほど裏切られると」。映画「仁義なき戦い」などで知られる脚本家の笠原和夫は、自分に影響を及ぼした文学作品をこう語るのだが(注1)、日大アメフト部騒動を目の当たりにしたとき、そこに「組織に忠実なものが組織に裏切られる」構造をみる。


日大アメフト部・内田正人前監督(中央) ©吉田暁史/文藝春秋

東芝社員が「虎の威」を借りたとき

 反則タックルをおかした選手への追い込み方はこうだ。問題の端緒となる関西学院大学との定期戦の前日、井上コーチは「お前をどうしたら試合に出せるか監督に聞いてやったよ。“相手のQBを1プレー目で潰せば出してやる”ってさ。その通りの言葉をまずは監督に言いに行け!」(注2)というのであった。 

 山口組の顧問弁護士だった山之内幸夫は、ヒットマンとは「温もりの代償に人生を差し出」す者のことだと言い表した(注3)。行き場のない者に居場所を与えるなどしたのだから、殺ってこいというわけだ。くだんの選手も出場機会を得る見返りに、相手チームの選手にケガを負わせることを強いられる。

 会社を例にすれば、東芝社員・OBからの800通におよぶ内部告発をもとに書かれた小笠原啓『東芝 粉飾の原点』にこんなくだりがある。《グレーな会計処理を命じるときには、親会社のトップの名前を使うのが通例だった。「(自分が)佐々木さんにどんなに酷いこと言われたのか分かっているのか」「既に田中さんに報告されている数字だ」など虎の威を借ることで、その指示は絶対だと部下に思い込ませるのが狙いだろう。》 

他人の人生を軽く扱う者が生き残る

 こうして無理な数字にコミットさせる。日大の事例も、絶対者である監督に仮託するコーチが選手に約束を迫る。また、「やる / やらない」や期限を相手に言わせるのは強要やパワハラの常套手段である。あとで「やるって言ったよな」などと追い込むためだ。

 こうした非情を直接、強いた井上コーチは、5月23日の内田監督との会見でも「自分が追い込んだ」と述べている。その成果が、加害選手が記者会見で「あの時、違反行為をしないという選択肢はあったか」との質問に対しての「ない」との答えであった。マネジメントと人を追い込むテクニックとは紙一重にある。

「土日に働け」とは明言しないが、そうすることが暗黙の了解

“広告業界あるある”に、金曜日の夕方になっての、「月曜朝イチで」との要望がある。「土日に働け」とは明言しないが、そうすることが暗黙の了解にある。こうした「無理」を下の者や下請けに強いるのをためらうと、上から「下(や下請け)に甘い」と言われてしまう。上下関係ならぬ上中下関係が組織にはあって、中間管理職など「中」の人間は、そう思われないために、無理を強いることになる。

 哀しいのは、長時間労働であれなんであれ、「無理」は無理をした者ではなく、無理をさせた者のほうが評価されることだ。「組織が生きるためには、はぐれ者の人生は軽く扱われなければならない」とは山之内幸夫の小説『悲しきヒットマン』の一文であるが、他人の人生を軽く扱う者が生き残る、それが会社を含め「組織」というものか。

「これくらいやらないと勝てない」の論理

 日大の監督・コーチ会見ではこう発言する場面もあった。「まさか、ああいうことになるとは」。本当のところは「まさか『こんな騒ぎ』になるとは」ではなかったか。内輪の論理では「これくらいやらないと勝てない」だったり「どこもやっている」だったりするのだろう。実際、内田監督は、関学戦直後に「何年か前の関学が一番汚いでしょ」「ウチはエリート揃ってないから必死なんですよ、何をやるにも」と記者相手に喋っている(注4)。

 過労死を引き起こした電通とて、「広告の世界では、深夜まで働くのが当たり前」であったろう。それが事件化して、違法性を問われると戸惑ってしまう。このように組織では、内部の雰囲気が優先され、その雰囲気が、ときに不正義を生む。それがひとたび社会問題になったり、警察沙汰となってはじめて法・契約に向き合うことになる。『雇用は契約 雰囲気に負けない働き方』という書籍(玄田有史著・筑摩書房刊)があるが、言い得て妙のタイトルである。

「仁義なき戦い」美能幸三の言葉

 話を日大アメフト部に戻せば、週刊文春がすっぱ抜いた試合直後のオフレコ取材の中で、内田監督は加害選手について、故意の反則行為をしたことで調子が「そろそろ良くなるんじゃないですかね」と言い、「法律的には良くないかもしれないけど、そうでしょ」と続けている(注4)。まるで法や社会規範のラチ外にいるかのようだ。

 こうした者が上にたつ組織はいかなるものか。試合後、加害選手は涙を流し、まわりは彼に「悪くない」と声をかけたという。それが物語るものを、「仁義なき戦い」のモデル・美能幸三はこう言い表している。「つまらん連中が上に立ったから、下の者が苦労し、流血を重ねたのである」。

(注1)笠原和夫・荒井晴彦・絓秀実『昭和の劇―映画脚本家・笠原和夫』太田出版
(注2)週刊新潮 2018年5月31日号
(注3)週刊アサヒ芸能・特別編集『山口組 百年の血風録』徳間書店
(注4)週刊文春 2018年5月31日号

(urbansea)

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