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ついに"マイナス成長"に落ちた日本の景気

■上向き基調にあった景気の勢いが弱まっている

5月16日、内閣府が発表した1~3月期の実質GDP(国内総生産)成長率の1次速報値は、前期比年率換算ベースでマイナス0.6%だった。マイナス成長は9四半期ぶりだ。

GDP成長率は景気の動きを判断する基本的な尺度だ。GDP成長率がプラスの場合、一般的に景気は良いといえる。昨年末までの2年間、わが国の景気は良かった。世界経済の構図を考えると、米国と中国の経済が堅調に推移し、それがわが国をはじめ世界全体の景気回復を支えた。

ただ、ここへ来てGDP成長率がマイナスということは、景気の回復が一服しているということだ。現在、わが国では、上向き基調にあった景気の勢いが弱まり、足踏み状態にあるといってもよい。問題は、それが一時的か否かだ。

景気が永久に右肩上がりの展開を続けることはありえない。今すぐではないにせよ、いずれ米国や中国の景気はピークを迎えるだろう。米中の貿易戦争への懸念、円高などのリスク要因もある。それは、わが国経済の成長下振れ要因だ。中長期的な景気安定のためには、構造改革を進め、国内経済の実力(潜在成長率)を高めることが欠かせない。

■景気回復の一服は「一時的」なのか

1~3月期の成長率については、民間エコノミストは前期対比マイナス0.1%程度になると予想する見方が多かった。実際のGDP成長率は同マイナス0.2%と予想を下回った。GDPは、個人消費、設備などの投資、公的需要(政府の支出)と純輸出(輸出から輸入を控除した額)の金額を合計したものだ。個々の項目(需要項目)が増えたか、減少したかを見れば、GDP成長率に影響を与えた要因がわかる。1~3月期、公的需要と純輸出以外が前期から減少した。

今回のマイナスのGDP成長率について、経済専門家の間では景気回復の一服が、一時的か否か議論が分かれている。足元の経済状況を見ると、1-3月期のマイナスは一時的との見方が優勢と見られる。4~6月期以降、前期比年率換算ベースの実質GDP成長率が1.0%前後の水準に戻ると考える専門家は多い。

その背景には、冬場の気象・天候が経済にマイナスの影響を与えたとの見方がある。近年の世界経済を振り返ると、米国を中心に1~3月期の経済成長率は下振れ気味に出ることが多い。寒波や大雪が経済活動を制限するからだ。天気が良いと、行楽地を訪れたり、家族で外食に出かけたりすることが増える。しかし、大雪となればそうはいかない。家で過ごすことが増える。外出が減れば、個人の消費は減る。それが1~3月期の国内経済のマイナス成長の一因だ。

冬場の気候は農作物の育成にも影響した。その結果、野菜など生鮮食品の価格が高騰した。それが、消費の手控えにつながった。年明け以降、食品スーパーに行くと、「野菜が高すぎる」との声をよく耳にした。野菜の値段が高くなった分、外食などを減らし家計全体の支出が増えないようにする心理は強まりやすかった。

気候が温暖になるにつれ、冬場の天候不順による影響は薄らぐ。それに伴い、個人消費は従来の水準に回復する可能性がある。今のところ企業業績も好調だ。昨年までと状況が大きく変わったとは言いづらい。それが、景気の落ち込みが一時的であり、GDP成長率が従来の水準に戻るとの見方を支えている。

■懸念される設備投資=イノベーションの源泉の減少

マイナス成長のもう一つの要因は、企業部門の設備投資の減少だ。設備投資の動向を考えると、景気の落ち込みが一時的か、根本的な景気変調のサインか議論が分かれる。ポイントは、企業部門の新しいもの作りの動き=イノベーションの動向だ。

イノベーションは、従来にはない発想を実現し、新しいモノやサービス、生産プロセス、販路、組織を実現することだ。ヒット商品を生み出すこと、そのものがイノベーションなのである。それが企業の設備投資の増加、業績拡大につながる。潜在成長率=経済の実力が高まるためには、イノベーションが必要だ。

近年の世界経済を振り返ると、米国を中心とするIT先端企業のイノベーションが、人々が「欲しい」と思うモノやサービスを創造してきた。典型例は、米国のアップルだ。iPhoneは携帯電話の常識を覆し、スマートフォンという新しいプロダクトへの需要を創造した。アマゾン、ネットフリックス、グーグル、フェイスブックも、ネットワークテクノロジーを駆使して新しいサービスやモノを生み出し、成長を遂げている。

■日本経済の回復は米中経済の動きを取り込んだから

中国は公共投資で景気を支えつつ、ネットワークテクノロジーの普及を進めた。それが、アリババ、テンセント、バイドゥ(BAT)の成長を支えた。また、中国政府はIoT(モノのインターネット化)を重視し、省人化投資などが増加した。

こうした米中経済の動きが、半導体、その製造装置への需要を増加させた。それを取り込んで、わが国の設備投資が増加した。これは、わが国の景気回復が海外経済に依存していると言われる顕著な理由だ。

ただ、電子部品や産業用の製造機器の需要は伸び悩み始めている。2017年は世界のスマートフォン出荷台数が、前年の実績を初めて下回った。スマートフォンは世界に浸透し、需要が飽和しつつあるということだ。その分、設備投資の増加率は穏やかになる可能性がある。すでに、世界最大の半導体製造装置企業である米アプライドマテリアルズは、今後の売り上げ減少見通しを示した。スマートフォンの画像センサー需要を取り込んで経営を立て直したソニーの業績見通しも、市場予想を下回った。国内の設備投資が期待されたほど増えず、経済成長率も抑制される可能性がある。

■世界経済のリスク要因=米国の政治と円高

その他にも、国内経済の成長率を抑制するリスク要因がある。代表例が、米国の政治動向だ。11月の中間選挙に向けて、トランプ大統領は有権者の支持を増やしたい。そのための手段は、中国などとの通商問題を取り上げ、強硬姿勢をとることだ。

3月に知的財産権の侵害を理由に対中制裁措置を発動して以降、トランプ大統領の支持率は上昇している。中間選挙に向けて通商問題が取り上げられるのは米国政治の恒例行事だ。今後は、一段と強硬路線が強まりやすい。

そうなると、米中貿易戦争への懸念から、金融市場ではリスク回避が進むだろう。為替相場では足元のドル買いが巻き戻され、ドル売り・円買いが増えるだろう。それが円高リスクを高める。円高は国内経済にマイナスだ。また、米国がわが国に農業や自動車分野での市場開放を求めることも考えられる。米中貿易戦争への懸念が高まる中で、わが国は想定外の圧力を受ける可能性がある。このように考えると、1~3月期のマイナス成長が天候不順による一時的な景気の落ち込みであると結論付けるのは早計だ。

■発展性がある分野にヒト・モノ・カネを再配分せよ

そうしたリスクに対応するためには、国内の需要を高めるしかない。金融・財政政策が限界に直面する中、政府は構造改革を推進しなければならない。それは、社会の変化に応じて、規制の緩和や制度の改変などを行うことだ。

構造改革は、民間企業の“アニマルスピリッツ(成長、利益などを追求する血気)”を高め、新規事業への進出などを促進するために不可欠だ。具体的には、ロボットやネットワークテクノロジーなど発展性がある分野にヒト・モノ・カネを再配分し、新しいヒット商品などの創出を目指すことが求められる。

官民が連携して構造改革を進め、社会全体でイノベーションが進めば、景況感も随分と違ってくるだろう。足元、世界経済全体で緩やかな回復基調が維持されている。その環境を生かして、労働市場の改革などを進め、成長分野に資源がシフトしやすい社会基盤を整備する意義は大きい。口で言うほど容易な取り組みではないが、改革が進めば、回復の恩恵をより実感できる環境が実現するだろう。

(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=iStock.com)

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