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馬主の自殺、バブルの残滓 今振り返る、平成ダービー「裏面史」 平成最後のダービー、30年の悲喜こもごも - urbansea

「経営者は馬とフェラーリは買うな」とは、若き日のサイバーエージェント・藤田晋が、先輩経営者のUSEN・宇野康秀から受けた忠告である(注1)。これが広く知られるようになるのはライブドア事件のときで、堀江貴文が馬もフェラーリも買っていたからだ。あるいはフサイチコンコルドでダービーを制した馬主・関口房朗は、その勢いで経営する会社で競走馬事業を始めようとして、社長を解任されている。

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2017年、日本ダービー ©杉山拓也/文藝春秋

馬主・田中角栄もダービーオーナーになれなかった

 かように競走馬を持つことは、ひとを狂わせるほどのロマンであり、ダービーはその頂点の時であるらしい。

 その価値を語るのによく引き合いに出されるのが、チャーチルの言葉「ダービー馬のオーナーになることは一国の宰相になるより難しい」である。日本では「ダービーはカネでは買えない」とも言われ、さしもの田中角栄も、首相にまで登りつめ、妻名義の馬でオークスを勝ちはしたが、ダービーには縁がなかった。それほどのことを県議会議員にしてなしたのが、サニーブライアンの馬主・宮崎守保(当時埼玉県議)であったりもする。

バブルの時代、熱狂の東京競馬場を逃げ切った馬

 平成が終わりを迎えようとする今、そのはじめをふり返れば、ウィナーズサークルがダービー馬となる平成元年の暮れに、日経平均株価は3万8957円の史上最高値をつける。そうした日本経済が最高潮のときにデビューした馬がつどう90年の日本ダービーは、伝説のダービーとなる。19万6517人が東京競馬場に集まったのだ。これは日本記録であり、世界記録でもある。その熱狂のなかをアイネスフウジンはレースレコードで逃げ切る。

 土地や株でカネを掴んだバブル紳士が競馬場に集まる時代、その絶頂時にダービーを制した馬主の名は小林正明、自動車用品を扱う会社の経営者であった。馬主になって3年で、「こんなに早くダービーを勝つという幸運があっていいのか、怖さを感じています。事業をやってきて怖いと感じたことはなかった。この幸運を大事にしたい」(注2)と語っている。 

社長3人がラブホテルで自殺する事件

 そんな小林が再び世間の注目をあつめるのは8年後のこと。98年2月、経営に行き詰まった社長3人がラブホテルで自殺する事件がおきる。その自殺者のひとりが小林であった。

 事件直後の週刊新潮の記事「最後の晩餐は牛丼で 『社長三人』首吊り心中のなぜ」には、現場近くの牛丼屋にきちっとした身なりの客が現れ「その場違いなお客さんが、深刻そうな雰囲気を漂わせて、牛丼の“並”の札を持ってカウンターにみえたんですよ。私は、“こんな重役のような方が、並を召し上るんだ”と不思議におもったものです」との証言が載る。そうして三人で牛丼の食べたのち、ホテルで缶ビールを飲み、最期をむかえる。

 かくして強運のダービーオーナーは死す。それでもアイネスフウジンのレコードタイムは、小林の死後もしばらく残り、ダービーが近づくたびに顧みられるのだった。

瞬く間に3度ダービーを制したオーナー

 そのレコードを大幅に更新するキングカメハメハをはじめ、ディープインパクト、マカヒキと瞬く間に3度ダービーを制したのが金子真人だ。金子が社員5人ではじめた会社は、バブル崩壊の影響を乗り越え、94年になって東証一部に上場するあたり、堅実さがうかがえる。週刊文春06年1月5-12日号によると、そんな金子が競馬に手を出すのは、知り合いの社長に持ち馬を買ってほしいと頼まれたことによる。しかし、競馬のけの字も知らない金子は、競馬に通じた知人にこう相談するのであった。

「お金の遣い方教えてくんない?」。カネ持ちにしか言えない言葉である。

 それに対して知人は、くだんの社長に持ちかけられた話は勧めずに、かの吉田勝己と引き合わせる。「事業に成功し、財をなした人が馬に手を出す例は少なくない。だが、たいてい失敗する。さんざん散財して、たどり着くのが社台、ノーザンファーム」との知見からだ。かくして金子は、いきなり知り合った吉田が代表を務めるノーザンファームの生産馬で大舞台を3度、勝つ。

 現れては消えていく馬主の世界にあって、うまいカネの遣い方を教えられたようだ。

昭和最後のツービート、平成最後のキタノコマンドール

 ダービーを勝たずとも、競走馬を持つこと自体が社会的なステイタスである。高額で買った馬の名付け親を譲ったり、馬名にひとの名前を入れたりするのは、そんな身分でこそのお大尽だろう。前者は最近ではこじはると白石麻衣を名付け親にした例が有名か。後者は、公営だがアケミボタンにアケミダリア、アケミタンポポと外務省職員が公金を横領したカネで馬を買い、愛人の名前をつけたのが思い起こされる。スナックを持たせるよりもゴージャス感のあるプレゼントだ。実のところは横領したカネなので、みみっちい話だが。

 さて今回の日本ダービーには、今をときめく亀山敬司率いるDMMの馬が出走する。ビートたけしが名付け親のキタノコマンドールだ。昭和最後のダービーにガクエンツービートなる馬が出走し、9着となったが、平成最後のダービーでキタノコマンドールはいかに?

(注1) 藤田晋「馬とフェラーリ」2004年10月26日「渋谷ではたらく社長のアメブロ」
(注2) 『週刊100名馬vol.7 アイネスフウジン』小野塚燿「涙の向こうに見えたもの」

(urbansea)

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