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茶縁がつなぐ支援の輪 港町の精神科医が中国茶カフェを始めたワケ

中国茶の世界には「茶縁」という言葉がある。文字通り、お茶が取り持つ人々の縁のことだ。

そんな茶縁に導かれるように、精神障害者の就労支援をおこなう中国茶カフェ「無天茶坊(むてんちゃぼう)」が今年1月、岡山県玉野市にオープンした。なぜ岡山市から離れた港町で中国茶カフェを・・・?

理由を聞くため、同店を運営するNPO法人ここ・からワークスおかやま代表の青井一展さんをたずねた。

元銀行を利用した、こだわりの中国茶カフェ

青井さんは、無天茶坊を始めた経緯についてこう語る。

「元々中国の国家資格でもある中級茶藝師(編集部注:中国国内でお茶に関する業務をするために必要な資格)の免許を取るほど中国茶は好きでした。精神障害者の就労支援は以前からやっていたんですが、より付加価値の高い仕事を作りたいと思って、このお店を作ることにしました」

「無天茶坊」をオープンしたここ・からワークスおかやま代表理事の青井一展さん

無天茶坊の建物はもともと銀行で、店舗移転のため市に寄贈されたもの。その後、市の文化会館として使われていたが、管理上の問題で閉館予定になっていた。青井さんは建物の歴史的価値を知り、リノベーションを計画。

老朽化が激しい場所の補修も含めてカフェの内装を設計したため費用は膨らんだが、日本財団の「はたらくNIPPON!計画」の助成もあり、実現にこぎ着けた。

店内ではシックなカウンターで中国茶を楽しむことができる

アドバイザーとして高級茶藝師も参加

中国茶を扱うカフェを始めると決めたのち、青井さんはアドバイザーとして高級茶藝師の袁振麗(エン・シンレイ)さんを頼った。袁さんは笑いながら当時のことを振り返る。

高級茶藝師の袁振麗さん。お茶について丁寧に教えてくれた

「突然来て、手伝ってくださいと言われたんですが、最初はなんのことだか全然分からなくて(笑)。『中国茶の生徒はいまいっぱいだからもう入れません』と言ったんです。よくよく聞いてみると、カフェをやるから手伝って欲しいということだった」

カフェで出すお茶は袁さんのネットワークを活用することで、高品質なものを提供している。東京で買うより、値段もぐっと抑えることが出来た。

「梨山高山茶」烏龍茶とは思えないほど淡い色合いをしている

実際に淹れてもらったお茶「梨山高山茶」は華やかな香りとすっきりとした味で、日本茶とは違う味わいだった。これが本物の烏龍茶か、と思いながらグビグビ飲んでいると「あんまり飲むとお茶酔いするんですよ」と青井さんが一言。こちらのお茶は一回分の茶葉で7〜8杯も淹れられるそうなので、飲み過ぎには注意が必要だ。

月1万円に満たない工賃では障害者が自立できない

実は、青井さんには地元で働く現役の精神科医というもう一つの顔がある。そこで経験したことも、現在の活動のきっかけになった。

店内では中国茶の茶葉を購入することもできる

「以前、うつ病の治療を続けながら会社に復帰を試みた患者さんがいらっしゃいましたが、会社になじめず自ら命を絶たれてしまった。2名の患者さんを立て続けに失いました…。やはり医療の範囲だけではない支援が必要だと感じたんです。一度そういった病を患ってしまうと、社会に跳ね返されてしまうことが多いので、そこをなんとかしたかった」

こうした想いから、青井さんは精神障害を持つ人々を支援するNPOを運営してきた。ところがある出会いによって、「現状維持だけではいけない」と思うようになった。

「障害者の工賃って、月1万円に満たないのです。就労支援のNPOは人から引き継いだこともあって、最初は僕も問題意識を持てなかったのですが、学会で出会った日本財団の竹村利道さんに『それでいいんですか?』と言われてハッとしたんです。だって月1万円じゃ暮らせないですから。それでは自立のきっかけはつかめない。」

元銀行だけあって、店内の天井は高く開放的だ

無天茶坊は精神障害者たちが本当の意味で自立するために、他と差別化を図れる「中国茶カフェ」という業態を選んだ。当面は成長できる事業でしっかりと儲けを出し、障害者に支払う給与を上げていくのが目標だ。今後はイベントなどを行うことで、地域の外からも人を集めるお店にしていきたいという。

仕事をすることが治療になる

ちまきを巻く様子。手際の良さにびっくり。

青井さんは最後に、台湾には「工作即治療、感恩是妙薬」なる言葉があると教えてくれた。仕事(工作)をすることが治療になり、恩を感じることがよい薬になるという意味だそうだ。

取材に入ったこの日はスタッフ総出でちまき作り。慣れた手つきで次々にちまきを巻いていく。袁さんの指導のもと調理実習を1年以上も続けたという。

青井さんは笑顔で「結構難しいんですよ、これ」といいながらスタッフがちまきを巻く様子を見守っている。袁さんもスタッフについて「みんな仕事を覚えるのが早い」と感心しきりだった。

お茶を通じて集まった人々が、お茶を通じて社会との新たな関係を構築していく。茶縁がつなぐ支援の輪がどこまでも拡がっていくことを期待したい。

【アクセス】
店名:無天茶坊
住所:岡山県玉野市築港1丁目10 玉野市築港1丁目10 -10 ウノハウス1階
電話番号:0863-33-1155
公式サイト:https://muten.cccworks.net/

日本財団 はたらくNIPPON!計画

はたらくNIPPON!計画は、日本財団が2015年4月にスタートした新しい就労支援の取り組みです。
地域に根ざした新事業を全国につくりだす「モデル構築プロジェクト」と障害者就労について全国のみなさんと議論する「就労支援フォーラムNIPPON」この2つを大きな柱として、障害者の「はたらく」を全力で応援します。

[ PR企画 / 日本財団 ]

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