イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき、クレイトン・クリステンセン (著)、玉田俊平太 (監修)、伊豆原弓 (翻訳)
(
The Innovator's Dilemma, Clayton M. Christensen)
19日、130年の歴史を持つフィルム・カメラの代名詞ともなっていた、名門の米コダック社が破産申請をした(
ロイター)。言うまでもく、
デジタル・カメラの普及によって、主力事業のフィルムの収益が大幅に悪化し続けたからだ。そしてこれも有名な話だが、デジタル・カメラを最初に開発したのは他でもないコダックだったのだ。コダックは現在でもデジタル・カメラに関連した多くの特許を保有している。
カメラ事業は大変儲かるビジネスだった。カメラを買った後にも、人々はフィルムを買い続けなければいけない。フィルムでも儲かり、そして写真を現像するときにも儲かる。しかし、デジタル・カメラではフィルムでも現像でも儲からない。デジタル化は、コダックのような大企業にとっては魅力のないものに写ったし、何より、自社の強みを打ち消すような技術である。それゆえにコダックはデジタル・カメラの参入に遅れてしまい、CanonやNikonなどの日本勢に負けてしまう。また、同じようなフィルムメーカーであった富士フィルムは、フィルム製造に関連した多数の技術を、化粧品などの基礎素材に応用し、上手くフィルム事業の衰退を新しい分野に置き換えっていった。
このように最優秀な人材を集めるエクセレント・カンパニーが、新しい安価な技術にあっさりと駆逐されてしまうことは珍しいことではない。あの有名な「
イノベーションのジレンマ」である。
1997年にはじめて出版された本であるが、世界的なベストセラーとなり、経営学の古典として必ず読んでおかなければいけない一冊となった。ひとつの技術の発明により、それまで多くの賞賛を集めていた大企業のビジネス・モデルが瞬く間に破壊されていくことがあるのだ。そこではかつての成功体験がマイナスの価値になってしまう。
経営学に関する書籍は少し時間が経つと読むに耐えないものが多い。というのも、現在の大企業の寿命は驚くほど短く、数年前に絶賛されていた企業が、今では失敗の象徴のようになってしまうことがよくあるからだ。経営学の本だから実際の企業を扱うわけだが、5年も経つと、その本の中で取り上げられている企業とその分析はお笑いのタネぐらいにしかならない。少し前に日本の企業でいえば任天堂などがやはりエクセレント・カンパニーとして絶賛されていたが、今ではiPhoneなどで提供される安価なゲームとの競争で先が見えなくなっている。破綻したリーマン・ブラザーズなどは、金融イノベーションの旗手だった。ソニーやIBMなど、このような例は枚挙に暇がない。
しかし、この本は出版から10年以上経っても、まだ価値が衰えないどころか、ますます重要になっているようだ。
それはインターネットを利用する数々のサービスがこの数年の間に爆発的に進化したために、大企業をひっくり返すような破壊的なイノベーションが次々と起こっているからだろう。
個人的には新しい技術によって、古い大企業が破滅に追い込まれるのは大変素晴らしいことだと思う。それこそ資本主義社会が進化していくための成長痛に他ならないからだ。会社というのは法的な無機質の器に過ぎず、大切なのは常に個人なのだから。
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