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日大アメフト部の悪質タックルは、東芝の「チャレンジ」と同じ構造だ ~こうして日本型組織は「集団催眠」にかかってゆく~ - 大西 康之

 日本大学選手による悪質タックルで関西学院大学アメフト部の選手が負傷した問題で、関学は5月17日、日大から「『厳しさ』を求める指導と選手の受け取り方に乖離が起きていた」という旨の回答があったことを明らかにした。

 閉ざされた集団の中では、上からの指示に逆らえない空気が生まれる。7年以上にわたって大規模な粉飾決算を続けていた東芝でも同じことが起きていた。背景には「組織のためなら一線を超えても構わない」という集団催眠がある。

「反則」というより「犯罪」に近い

 テレビが繰り返し流す映像を見る限り、その行為は「反則」というより「犯罪」に近い。アメリカンフットボール、日本大学と関西学院大学の定期戦。試合開始直後、投げたパスが通らず空を仰ぐ青いユニフォームの関学クオーターバック(QB)に、赤いユニフォームの日大選手が背後から全力疾走で迫る。プレーが終わり、すっかり気を緩めている関学QBの背中に、日大選手は猛烈なタックルを見舞った。不意をつかれた関学QBは激しく仰け反り、頭は激しく地面に打ち付けられた。


「悪質タックル」を受ける青いユニフォームの関学QB(関西学院大学提供)

 アメフトでは、プレーが終わった後の無防備な選手へのタックルは禁止されている。また、アメフトに限らず、ラグビー、サッカーなど相手との激しい接触をともなうスポーツでは、相手の選手生命を奪いかねないタックルはご法度である。

仲間たちが「よくやった」とヘルメットを撫でる

 その後の報道によると、日大チームの他選手は「あのプレーは監督の指示だった」「(反則を犯した選手は監督に)試合に出たいなら(関学大の)QBを壊してこい、と言われていた」と証言している。日大の内田正人監督は、選手に猛練習を課す厳しい指導で知られる。悪質タックルのあった試合の直後も日刊スポーツの取材に対し、「うちは力がないから、厳しくプレッシャーをかけている。あれぐらいやっていかないと勝てない。やらせている私の責任」と悪質タックルを容認する発言をしている。

 悪質タックルがそれを命じたであろう監督と遂行した選手だけの問題ではないのは、当該選手がベンチに下がったシーンを見ればよく分かる。内田監督以外のコーチや仲間の選手たちが「よくやった」と言わんばかりに当該選手のヘルメットを撫でているのだ。相手選手を再起不能にしかねない悪質タックルがこのチーム内では「許容範囲のプレー」と認められているかのようだった。

 もしも相手チームの司令塔を壊した(怪我を負わせた)仲間を「よくやった」と褒めることが常識になっていたとすれば、日大アメフト部はまさに集団狂気に陥っていたと言わざるを得ない。

利益を水増しして「会社に貢献した」と達成感

 まったく同じシーンに出会ったことがある。東芝の粉飾決算を取材していた2015年、私は都内の某所で東芝の原子力事業部門で働く現役の部長に会っていた。彼は匿名を条件に自分たちの部署でも決算を改竄し、利益を水増しした手法を明かした後、驚くべき発言をした。

「上に言われて利益を水増しした書類を提出したのですが、その時は罪悪感を感じませんでした」

 ではどんな気持ちだったのか。

「むしろ、自分の部を守った、会社に貢献した、という達成感を感じていました」

 悪質タックルを見舞ってベンチに戻った選手がヘルメットを撫でられたのと同じように、粉飾決算に手を染めた東芝のエリートサラリーマンたちも「グッジョブ!」と褒められたのだろうか。だとしたら、すべてが狂っている。

言い訳の仕方も東芝に酷似している

 冒頭の回答の中で、負傷した選手に対する謝罪を求めた関学大に対して、日大側はこのように釈明していた。

「ルールに基づいた『厳しさ』を求めたが、指導者の指導と選手の受け取り方に乖離が起きていた」

「『あれぐらいやっていかないと勝てない。やらせている私の責任』(日刊スポーツ)という試合後の内田監督のコメントは、選手に『厳しさ』を求めて発したもの。反則行為を容認する発言と受け取られかねないものであり、本意ではないため撤回する」

 言い訳の仕方も「チャレンジ」と称して社員に粉飾をけしかけたとされる東芝の経営陣とよく似ている。東芝は粉飾決算(東芝は「不正会計」と表現している)で被った損害の賠償を求めて西田厚聰、佐々木則夫、田中久雄の歴代3社長(西田氏は死去)と2人の財務担当役員を訴えている。この裁判の中で佐々木氏はこう主張している。

「社長月例(社長と事業部責任者の会合)において『チャレンジ』と称される目標の伝達が行われる場合もあった。その意味合いはコーポレートからカンパニーに対する努力目標であり、その必達が要求されるものではなかった」

 田中氏も「チャレンジは『もっと頑張れ』という社長からの叱咤激励であり、経営者として当然の行為。それをしないのは経営者の怠慢」という旨の発言をしている。「『厳しくやれ』とは言ったが『相手に怪我をさせろ』とは言っていない」という日大の主張と酷似しているではないか。

残り3日で営業損益を「120億円改善せよ」

 東芝で実際に出されていた指示は「頑張れ」というような生易しいものではなかった。

 東芝の利益水増しについて調査した第三者委員会の報告書によると、2012年9月27日の社長月例で佐々木氏はパソコン事業の担当役員に対し、同年上期(2012年9月期)の同事業の営業損益を「120億円改善せよ」と命じている。期末まで残り3日の時点で営業利益を120億円も押し上げることなど、まともな手段ではできようはずもない。

 要は「粉飾せよ」と言っているのであり、実際、担当役員は翌日「営業利益を119億円にする」と報告している。

 これは佐々木氏と担当役員の間で交わされた謀議ではなく、白昼堂々、浜松町にある東芝本社ビルの会議室で、大勢の役員、社員が見守る中で行われた「業務」である。たった3日で119億円の金が降って湧くという摩訶不思議を何十人もの人々が目撃していたのに誰も「おかしい」と言わなかった東芝の役員・社員と、誰が見ても相手の選手生命を奪い兼ねない危険なプレーをしたのにその選手を誰も咎めなかった日大ベンチの人々は、同じことを考えていたはずだ。

「組織(チーム)のためにやったのだから、仕方ない」

日本人が集団催眠にかかる「呪文」

「One for All. All for One(1人はみんなのために。みんなは1人のために)」

 アメフトではなくラグビーでよく使われるフレーズだが、日本の組織ではこの理念が歪んで用いられることがある。

「全社一丸。滅私奉公」

 この呪文を唱えると、日本の会社員やスポーツ選手は集団催眠にかかり、組織のために超えてはならない一線をあっさり超えてしまうようである。

 アメフトやラグビーのような激しいスポーツでルールを破れば、競技はただの殴り合いになりかねない。市場を介して集めた巨額の資金を用いて事業を遂行する企業において粉飾決算がまかり通れば、市場は騙し合いの場になってしまう。コンプライアンスは、お行儀や世間体の問題ではなく、市場に参加する資格を得るための最低条件である。

 ルールを守れない者は市場からの退出を命じられる。問題発覚後、ほとんどの大学チームが日大アメフト部との試合をキャンセルした。グローバル・スタンダードで見れば東芝もまた、市場に参加する資格を持たない企業のはずだが、日本の市場を司る人々はなぜか名門企業の反則に寛容だ。 

(大西 康之)

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