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ASEANだけで南シナ海問題に対処するのは困難 - 岡崎研究所

4月に行われたASEANサミットの議長声明では、昨年11月の議長声明から落とされた南シナ海問題についての「懸念」の文言が復活し、注目された。以下、同議長声明の南シナ海に関する部分の概要を紹介する。

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我々は、南シナ海の平和、安定、安全、航行・飛行の自由を維持し促進することの重要性を再確認した。我々は、2002年の「南シナ海に関する行動宣言(DOC)」の完全で効果的な実施の重要性を強調する。我々は、ASEANと中国との間の協力の進展を歓迎するとともに、効果的な行動規範(COC)の早期合意にむけた中身のある議論の公式の開始に勇気づけられた。我々は、緊張、偶発事故のリスク、誤解、誤算を減らし得る、ASEAN加盟国と中国との海軍間ホットラインや「南シナ海における海上衝突回避規範(CUES)」のような、実際的な手段を歓迎する。

我々は、南シナ海に関する問題について議論し、埋め立て、その他の地域の信頼を損ね、緊張を高め、平和、安全、安定を損ね得る活動に対する、何か国かの指導者から表明された懸念に留意する。我々は、相互の信頼を高め、自制し、事態をさらに複雑化させるような行動を避け、国連海洋法条約を含む国際法に沿った形で紛争を平和的に解決する必要性を再認識した。我々は、主権を主張する国々、その他のすべての国による、あらゆる活動について、非軍事化と自制の重要性を強調する。

出典:‘CHAIRMAN’S STATEMENT OF THE 32ND ASEAN SUMMIT’    , April 28, 2018
http://asean.org/storage/2018/04/Chairmans-Statement-of-the-32nd-ASEAN-Summit.pdf

昨年11月の議長声明では、議長国フィリピンの強い対中配慮もあり、2014年以来盛り込まれてきた、南シナ海問題についての「懸念」の文言が削除された。今回の議長声明でそれが復活したのは良いことである。しかし、ASEANの枠組みだけで南シナ海問題に対処するのは困難であると思われる。

「南シナ海に関する行動宣言(DOC)」は、2002年にASEANと中国との間で合意されたもので、国際法の原則に従い、領有権などの係争を平和的手段で解決すること、その達成に向けて作業を行うことなどを謳っているが、法的拘束力はない。そこで、法的拘束力のある「行動規範(COC)」にすることが求められてきた。

上記声明で、COCの早期開始に向けた議論の開始云々とあるのは、昨年8月に中国とASEANの外相会議でCOCの枠組みが承認されたことを指すが、同案には法的拘束力がないとされる。COCと呼ぶに値するかどうか疑問の余地がある。2014年に合意されたCUESも無意味とは言えないが、あくまでも、海軍同士に関するものであり、中国が多用する、海警や武装漁船には適用されない。

中国は、COCの枠組みへの合意の後も、南シナ海の軍事化を全く緩めていない。5月2日に米CNBCテレビは、中国がスプラトリー諸島のファイアリー・クロス、スビ、ミスチーフの各礁に対艦巡航ミサイルと地対空ミサイルを配備した、と報じている。中国外交部の華春瑩報道官は、スプラトリー諸島の軍事拠点化について、主権国家として当然の権利である、と述べている。米国は、ホワイトハウスや国防総省の報道官が対抗措置をとるとしている。航行の自由作戦の継続、強化ということであろう。

南シナ海問題は、国際仲裁裁判所が中国の「九段線」の主張を却下する判決を下したことや、中国が航行の自由を深刻に脅かしていることを考えれば、ASEANの枠組みにとどまるものではなく、国際社会として対応すべき問題である。西側の主要各国が航行の自由の維持に強い関心を持つことが望まれる。

この点、米国による南シナ海における航行の自由作戦だけでなく、英国が東シナ海において日本の海自と共同演習をしたり、詳細は未公開ながら南シナ海に艦船を送り込んだりしているほか、フランスもマクロン大統領が5月初めの豪州訪問において、インド太平洋地域のルールに基づく発展への支持と覇権への反対を表明するなどしている。もちろん、これだけでは全く不十分ではあるが、歓迎すべき動きであると言えよう。

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