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「(身体に)悪いのは分かっている、でもやめられない」という普遍的な問題 ~ 『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』を読んで - 山本 一郎

 酒を飲むと脳が萎縮し、昔は一理あるとされていた酒の効用も現在では完全に否定されている、という話を酔っ払った医師と宴会で語り合っているわけです。

 私も持病がありますので、一時期は毎日浴びるように飲んでいたビールや、出張のとき朝からあおっていたウオッカもほとんど飲まなくなりました。外で飲むのは月2回ぐらいでしょうか。ドクターストップというわけではありません。ただまあ、いまさら酒をやめても遅いのかもしれないけど、不慮かつ無駄に死にたくありませんからね。


©iStock.com

「なんで飲んでいたんだっけ?」

 しかしながら、飲み親しんだ酒を控える、ほとんどやめてしまうというのは辛く苦しいわけであります。まあ、先週ゼロだったから今週はいいだろうという風に、欲望が私の理性を試してくるわけなんですよ。あるいは、酔い加減を楽しめない人生なんて味気ない。さらには、ご一緒する方が気持ちよく飲んでいる前で私はなぜお茶を飲んでいるのか。しまいには、気のおけない友人と割り勘で飯屋に入って損ではないのか。

 振り返ると、酒を飲んでいたのは何故だったのでしょう。コマーシャルで憧れる人が出演してかっこよく酒を飲んでいたから? 辛い現実を少しでも忘れたいから? 惰性? まあさまざまあるんでしょうけれども、酒を控えるのは意外に苦しい反面、飲まないでいると「なんで飲んでいたんだっけ?」と思い返すわけです。そして、その理由が分からない。

 久しぶりに飲むビールは苦い。あれっ、これ、私ってば美味しいと思って飲んでなかったっけ。まあ、飲み直していくと「あ、やっぱりビール美味しいでござる」となるわけですが、ウオッカはまったく美味しくない。なんで一晩一本とか空けてたの。

 このように「我慢する楽しさ」は別にマゾいからやっとるわけではなく、「あ、欲に流されてこのまま毎日飲んでたら死ぬな」って思うからであります。

うっすらと「きっとそうだろうな」と思っていた推測が突きつけられた本

 思い返せば、タバコもパッとやめました。人様に言えない年齢から吸い続けてきたはずのタバコも、もうやめて12年ですか。いまではタバコを吸っている席に同席するどころか、同じ店でタバコを吸っている人がいるだけで嫌悪感を覚えるようになりました。昔は、駅のホームで乗り換えるごとに車両移動し、覚えているホーム上の喫煙用灰皿の場所をきっちり記憶してニコチン補給するのが意識高い喫煙者だと思っていました。いま思うと、どれだけ迷惑をかけて生きてきたことでしょう。

 1年前に懺悔の記事を書いておるわけですが、このやっちまった感というのはいつまでも心の中に黒歴史として残るのだろうと思うのです。

http://bunshun.jp/articles/-/1554

 先日、Twitter界隈で著名な津川友介さんという医師の方が書かれた『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』 という本を買ってきて、目が点になるわけです。

「白飯は身体に悪い」とか「牛肉や豚肉など赤い色の肉は良くない」ですと… うう… 何となく、うっすらと「きっとそうだろうな」と思っていた推測がはっきりと現実のものに。一日朝昼晩茶碗一杯は飯を喰って暮らせと教えられて育ってきた私の目の前に「お前の喰ってきたその白飯は砂糖と同じぐらい身体に悪いものだったのだ」と証拠として突き付けられる瞬間であります。

タレをいっぱいつけた焼肉ご飯が、エビデンスに粉砕される

 あるいは、家族と毎週行くことを楽しみにしている焼肉。ちゃんと焼いた肉にタレいっぱいつけてアツアツのご飯とともに口の中へかき込む文化が、エビデンス至上主義という実に正しい事柄に正面から粉砕され、灰燼に帰してしまうのでありましょうか。巻末に参照論文が並んでいたので興味のあるものを拾い読みして、津川さんの言うことの正しさを指さし確認するにつけ、誰とも食べない昼飯はラーメンや牛丼などB級グルメを楽しむ私のささやかな喜びが音を立てて崩壊していくのを感じます。

 酒を控え、タバコをやめ、しかしなお、科学は私に新たな節制を求めるのでありましょうか。「運動すれば救われる」と書かれておりますが、持病のある私は運動ができません。ただただ食べるものでコントロールするしかない。代謝の衰えとともに太りゆく自分。結婚前は177cm51kgだった痩身ボディが家内の飯の旨さゆえにMAX81kgまで6割増量となった予期せぬ事態に震撼するわけです。

なぜ私たちは、分かっていながら健康を害するのか

 しかも、津川さんの本は論文含め圧倒的に正しい。私の言っていることは、単なる「劣った文化論」であり「節制のできない現代人のみじめな言い訳」であり長生きしたければ大人しく野菜と魚とナッツで作った薄味の料理を考えて喰えという話であります。そこには「これぐらいならいいだろう」とか「○○グラム以下ならリスクを下げられる」といった救いはどの論文にもない。食べれば食べた量だけ上がるリスク。問答無用の圧倒的根拠。いや、その通りです。科学的に全く正しい。反論の余地がない。申し訳ございませんでした。

 もうここから先の人生、まずは自分の人生においてきちんと神から与えられた蝋燭の一滴までしっかりと燃やし、この世を照らす一助となるべく頑張ってまいりたいと思います。

 で、ここまでエビデンスがしっかり出ている状況で、酒タバコなど嗜好品は当然身体に悪いとして、社会に定着しているさまざまな食品類で身体に悪いと確実なエビデンスが出てしまっている物はどうすれば良いのでしょう。毎日白飯ではなく玄米など精製されていない炭水化物を摂ろうという運動を始めればよいのでしょうか。

 なぜ私たちは「これは身体に良くない」と分かっていながら、酒やタバコや有害な食事に高いカネを払い、健康を害しながら生きていくのでしょう。科学的に間違っていることをするのが背徳的と感じられる時代になっていくほうが、私は望ましいと思います。健康のためなら死んでもいいってほどではないけど毎日健康に気を使っておきながら、過ちと分かってもラーメンを喰ってしまう己の弱さに愕然とするのです。そして、過ちを犯すたびに本書に贖罪するほかありません。明日は今日より正しい道を歩むことを誓います、と。もうラーメンの汁は残します。

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