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経営難の私大に「名誉ある撤退」を促せ 「2018年問題」に決断を迫られる私大 - 田中敬文 (東京学芸大学教育学部准教授)

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 だが、欧米とは異なり社会人をターゲットとしない日本の大学にとって、減り続ける18歳人口のみが実質的な市場だ。大学を存続させたとしても、その前途が多難であることに変わりはない。また公立化による学費引き下げは、一見すると家計負担の軽減につながるようではある。しかし大学への公費投入は、やがては地域住民の負担増加という形でツケが回ってくる。加えて公費投入は周辺地域の私大の経営努力のモチベーションを失わせる諸刃(もろは)の剣でもある。

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 これらを許容し公立化をするに際しても、既存の地方国立大や公立大との住み分けが不可欠だ。16年度以降、86ある国立大は3種類に分別され、そのうち「地域貢献」に分類され地域に根ざすとされている国立大は55に上る。地方の新興私大が実績ある地元の国立大と伍(ご)するのは並大抵ではない。大学がその地域の産業に役立つ学びの場となるようにし、卒業生がその地域で就職できるようにグランドデザインを描いて大学を地域に組み込まなければ、公立化も一時的な延命措置で終わってしまう。

 また目下、政府により「一億総活躍社会」の実現に向けた「リカレント教育」や、「地域創生」のための「産官学の連携」の必要性、さらには「大学のグローバル化」のための「外国人留学生の受け入れ増」が叫ばれているが、これが本来の趣旨から逸脱し、経営難の私大の延命のために公費を投入する言い訳に利用されるようなことがあってはならない。

 大学は時代に応じて参入を認められてきたのならば、「構造不況」である今こそ、時代に応じてその数を減らしていくときである。経営に行き詰まった地方私大に残された道は「撤退」、「他大学との統合」、「学部の切り売り」となる。しかし、統合先にメリットがある有望な私大や価値のある個性的な学部を有している私大は、そもそも経営難に陥るのはもっと後になるはずだ。つまり、すでに経営難に陥っている大半の私大に残された道はもはや「撤退」しかない。

 私立学校法により国は私大に対し直接介入することはできない。そのため国は私大に対し、自分の意思で「名誉ある撤退」を行えるよう政策誘導する必要がある。文科省は1月、「定員割れ」「5年程度の連続赤字」「教育の質が低評価」といった条件に該当した場合に私学助成金を減額する方針を示した。こうした方策は撤退を促すには有効かもしれない。

 また文科省管轄の特殊法人である日本私立学校振興・共済事業団は私大に対し経営指導などを行っている。こうした専門機関が「撤退」に向けアドバイスしていくことも重要だ。

数年を要する大学の「撤退」
求められる経営の透明化

 というのも、私大の設立に時間と資金が必要であるのと同様、撤退にも手間を要するからだ。学生や教員の処遇だけではなく、特に地方は土地を無償提供されたりするなど自治体との結びつきが強い場合が多く、地元の経済界から援助を受けているケースもある。こうした関係者との調整には多大な時間を要するため、数年前から準備を始めなければならない。時間と準備が足りないと、突発的な破綻という、学生にとって最悪の事態さえ起こりうる。

 私大の突発的な閉鎖が危惧されるようになれば、学生・保護者が自己防衛できるように、国は経営情報の開示をより積極的に求めるべきだろう。20年前と比べると今日の大学の経営情報は開示されつつある。しかし問題は学校法人会計が独特の仕組みや表記のため、学生・保護者がすぐには理解できないことにある。企業会計の専門家でさえ、学校法人会計はわかりにくいという。

 また、定員割れによる収入減を人件費凍結などによりどうにかやりくりしている大学もあるから、経営状況は経常収支の継続的な赤字を一層厳しくチェックすべきである。一方で、大学の他に高校や幼稚園など複数の学校を経営する法人も珍しくなく、大学の赤字を他の黒字で賄うことも可能である点には留意が必要だ。

 いずれにせよ、学生保護の観点から、経営情報の分かりやすい開示を怠っている大学は学生に選ばれないような環境整備が必要である。志願者数や入学者数・在籍学生数の実員という「入口」情報や、学生が身につけた教育成果や地域への貢献といった「出口」情報の開示のない大学にも、撤退を促すことも考えるべきであろう。

 「2018年問題」は以前から予測できた問題でありながら、18年に突入した現在にあっても具体的な政策を施行できていない現状は遅すぎると言わざるを得ない。私大の突発的な破綻により路頭に迷う学生が出ないよう、私大の「名誉ある撤退」に向けた施策が急がれる。

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