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中国一「インスタ映え」する天津図書館の意外な真実 - 中島恵 (ジャーナリスト)

 久しぶりに中国各地を歩いてきた。スマホ決済、シェア自転車の普及も一段落。中国の驚異的な発展はやはり目を見張るものがある。だが、中国の変化は外見だけに留まらず、人々の内面の成熟化、文化の充実、本格的な生活の質の向上へと移行しつつあると感じた。都市部ではとくにその傾向が顕著だ。最新事情を数回に渡ってレポートする。


1回目は天津の「浜海新区図書館」を紹介する

中国で大人気、天津の「インスタ映え」する図書館

 「天津にすごくインスタ映えする図書館ができたでしょう? 知っている?」

 4月上旬、東京都内で中国人の女子留学生に会った際、雑談の席でこんなことを聞いてみた。北京への出発を前に下準備をしているとき、たまたまネットで見かけて興味をひかれたのだ。その女性は山東省出身。私は彼女と大連で知り合ったのだが、驚くことに、彼女の口から、こんな返事が返ってきた。

 「あのすばらしい図書館ですね。知っていますよ。昨日友人が、まさしくその図書館のことをウィーチャット(中国のSNS)に投稿していましたから。よかったら、ご紹介しますよ。友人が案内してくれると思います」

 まさかの展開とはこのことだ。天津の図書館を東京に住む山東省出身の友人が紹介してくれるとは。早速、天津の友人とウィーチャットで繋がり、あっという間に天津のスケジュールが決まった。

 天津といえば、中国の直轄市のひとつ。最近では政府が発表した河北省雄安新区(首都のサブセンター機能)に近いことや、15年の天津倉庫爆発事故などで注目されたが、日本人にとってはあまり身近な存在とはいえないだろう。

 目指すのは天津市に新しく開発された浜海新区に位置する浜海文化中心の中にある「浜海新区図書館」。

ここに行くには、北京南駅から高速鉄道に乗り、天津駅を通り過ぎ、于家堡(ユージアビウ)という、まだ完成して3年ほどの新しい駅で下車する。北京からの乗車時間は約1時間。距離は約160キロ。広大な中国では、北京から近い距離といえるが、観光地のない于家堡まで足を延ばす日本人は少ないだろう。于家堡駅で待っていてくれた友人とともに、タクシーで約15分の図書館に向かった。


一体どんな図書館なのだろうか

スマホで写真を撮りまくる人々

 浜海文化中心は約12万平方キロメートルという広大な面積を誇る複合文化施設で、同じ建物の中には、浜海新区図書館のほか、芸術ホールや美術館、探索館(博物館)、市民文化センター、ショッピングセンター、飲食店街などがある。


浜海新区文化センターの外観

 浜海新区図書館は17年10月にオープンした。6階建てで、展覧区(閲覧エリア)、学習区(ラーニングエリア)、社会科学図書、文献閲覧区などがある。図書館の延床面積は約3万3700平方メートル。設計は世界的に有名なオランダの建築家集団、MVRDVと天津市政府が共同で手掛けた。同事務所は03年に新潟県十日町の「まつだい雪国農耕文化センター」を設計したことで日本でも知られている。

 図書館への入り口には手荷物検査とボディチェック機があり、ペットボトルやカメラは持ち込みは禁止(これは中国の他の図書館と同様。階段が多いからか、ハイヒールやサンダルでは入場禁止になることもあるらしい。

カメラなどは隣接するコインロッカーに預けるようになっていた)。ちなみに、外国人はパスポートの提示が必要かと思ったが、そうしたチェックは一切なかった。日本人の姿は見かけなかったが、西洋人や中国人の観光客の姿は多く見かけた。

 中に入ってみると、大勢の人々がスマホで写真を撮りまくっていた。カメラ持ち込みは禁止なのに、スマホでの撮影はOKで、階段に腰掛けながら、あるいは、本棚をバックにして、ほとんどの人がポーズをとって写真を撮っている姿が目に飛び込んできた。本を読んでいる人よりも圧倒的に多い。

 以前ネットで見たのとまったく同じ光景が広がっていた。まるで棚田のように、波打つようなデザインの本棚がいちばん下から天井にまで連綿と連なっていて、なんだか万華鏡のようでもある。下のほうは階段になっており、階段と階段の間の奥にも本が詰まっている。棚田のようになっている本棚の間にも本がぎっしり並べられている。真ん中にはドーム状の物体があり、それを取り囲むようにして四方に階段があるという構造だ。


中央の大きなドームも印象的

 「なるほど、これがあの写真で見たインスタ映えする図書館なんだ!すごい」

 私が斬新なデザインに感心していると、天津在住の友人は、にんまりしながら「ここを見て」と指さした。

その方向を見ると、なんと、本棚に収められていると思っていたのは本ではなく、本の絵だったのだ。「え~! これ、絵だったの?」。ネットで見たときには気がつかなかったが、本棚に収まっているかに見えた本は“絵”だったのだ。まさに、「え~~!」という感じである。

 しかし、失望というよりも、私は逆に感心した。考えてみれば、当たり前かもしれない。下のほうはともかく、上のほうは、どう考えても手が届かないのだから。

はしごを掛けても届かない距離に本がびっしり収められているので、「あそこにある本を取るのは大変だろうなぁ」などと呑気に思っていたのだが、まさか本の絵が貼ってあるだけとは、想像できなかった(私の想像力が欠落していただけなのかもしれないが)。だが、すべてが絵かというと、そうではない。一部はきちんと本が収納されている。絵が精巧にできているため、境目がわかりにくいだけだ。

 同図書館によると、現在閲覧できる本は約17万冊。最大で135万冊まで収蔵できるという。学生が勉強したり、本を読んだりしている学習区や、貸出エリアなども含め、すべてのフロアを見学してみたが、まだ本棚にはかなりの余裕があり、これから本を収める準備中といった雰囲気だった。

友人によると、中国の身分証があれば、天津市民でなくても本を借りることができるという。試しに図書館専用の貸し出し画面を使って利用してもらったが、係員が不在でも、一人で操作できるシステムになっていて、貸出し操作は1分ほどで簡単に終わった。中国では無人でもスマホ決済できるところが増えているが、図書の貸し出しもスタッフ不要でできるようになってきている。

「文化の発信地」として

 おもしろかったのは図書館のデータがスクリーンに映し出され、一目でわかるようになっていたこと。見てみると、その日の利用者数(私が訪れたのは日曜日の14時頃だったが、すでに3673人が利用しており、しかも利用の時間帯まで表示されていた)、閲覧図書のランキング、図書館のSNSのファン数などが表示されていた。

ちょうど4月に「全国国民閲読調査」(読書量調査)が発表されたばかりだったが、それによると、17年の成人(18歳以上)一人あたりの読書量(紙の本)は4.66冊で前年とほぼ横バイであることがわかった。スマホ依存症といわれる中国人だが、まだ紙の本も手にしているのだ。


図書貸し出し数や人気ランキングなどが表示されている


習近平国家主席の本

 そんな一角に、とくに目を引くエリアがあった。習近平国家主席に関連する本がずらっと並べられていたのだ。

「十九大専題図書推荐」(中国共産党第19回全国代表大会をテーマにした推薦図書)として『習近平 談治国理政』、『十九大精神十三講』、『平易近人 習近平的語言力量』などの本が並べられていた。同じ本が大量に並べられていることに少し違和感を覚えたが、友人も同感だったようだ。ここで本を立ち読みしている人は見かけなかった。

全体的に、地元の若者や観光客が多く、図書館で勉強したり、本を探している人が半分、物見遊山の人が半分、といった感じだった。日曜日なので、通常よりも観光客が多かったのかもしれない。

 この図書館を訪れた後、中国の友人たちに聞いてみると、天津だけでなく、広州などにも巨大でインスタ映えする図書館が次々と出現しているという。

広州図書館の延床面積は天津の約3倍の約10万平方メートル。収蔵冊数も約400万冊といわれ、1日1万人以上が利用している。設計は日本の日建設計。こちらも見物がてら、訪れる人が増えているようだ。もはや中国の巨大で奇抜な建造物には驚かなくなったという日本人は多いと思うが、スケールや奇抜さを“売り”にして一時的に注目を集めるだけでなく、設計やデザインに凝り、文化の発信地になろうとしている図書館が増えてきているのは、中国のひとつの変化だといえる。

 最初はインスタ映え目当てであっても、文化的なスポットに人々が関心を寄せ、そこに集まってくることは悪いことではない。次に天津を訪れるときには、はりぼての絵も、本物の本に変わっているのかもしれない。それくらい、中国の変化は速いのだ。

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