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医療がテクノロジーで変わるかは「健康な人」にかかっている?

豊田 剛一郎 , OFFICIAL COLUMNIST


everything possible / Shutterstock.com

医療×ITのサービスを提供するベンチャーの代表をしていると「テクノロジーの進化で、医師は不要になるのではないか」と聞かれることが、よくあります。

患者さんの問診や検査結果、レントゲンの画像などのデータをもとにAIが診断し、ロボットが手術を行う──こういう世界になったら、医師は不要になるのではないかと。

しかし医療においては、こうした進化を悲観的に捉える必要はないと私は思います(そもそも、AIが完全に診断や手術を代替するには、かなり時間がかかるとも思いますが)。むしろ、診療フローが効率化して医師の業務が減ることで、患者さんの不安を取り除いたり、納得できる治療法を選ぶためにコミュニケーションをとったりということに時間を割けるようになるからです。

役割は多少変わるかもしれませんが、患者と医療の間には、きっとこれからも医師は存在します。その中で医師は、患者さんとのコミュニケーションのためのスキルを磨くなど、変化に対応していく必要が出てくると思います。

テクノロジーの進化に対応しなければならないのは、医師側だけではありません。患者さん側も変化する必要が出てくるでしょう。この進化に乗れるかどうかで、医療の受け手である患者さんの間に「医療格差」が広がる可能性もあります。

サービスの多様化・高度化で、受け手の選別眼が重要に

例えばフィンテックについて考えてみましょう。インターネットで保険の加入ができるようになり、資産管理が簡単になり、様々な投資支援アプリが生まれ、ビットコインなどの仮想通貨が登場するようになりました。テクノロジーの進化が具体化したサービスという形でユーザーに届くことで、一昔前まではごく一部の個人しか手を出さなかった資産運用を、普通のサラリーマンが当たり前のように始める時代になりました。

しかし一方で、しっかりした基礎知識がない人が手を出してしまうと、どの情報が信頼できるのか、どのサービスが自分にあっているのかがわからず、振り回されてしまうでしょう。知識がある人ほど、どんどんサービスを使いこなしてメリットを得ていく。両者にはどんどん差が広がっていきます。

これと同様の動きが、医療で起きる可能性もあります。

医療では、金融ほどの変化はまだまだ起きておらず、30年前の医療の「仕組み」と今を比べても、ほとんど変化がない状況です(もちろん、治療法や技術などは飛躍的に進歩しています)。国民の命に関わる医療の仕組みを変えるには慎重に慎重を重ねる必要があるから、ある意味仕方のないことでしょう。

とはいえ、変わりつつあることも確かです。スマートフォンやPCでのビデオ通話で医師の診療を受けられる「オンライン診療」などは、まさにその一歩とも言えるでしょう。医療市場においては、ウェアラブルやアプリなど様々なサービスの開発も進みつつあります。こうした変化のメリットを多くの人が得られるよう、医療における一人ひとりの「選別眼」を鍛えていく必要があるでしょう。

実際にアメリカでは、様々な医療サービスが生まれ始めています。その背景には、アメリカでは日本のような公的な保険に加入できる人は限られており、各自が民間保険に選ぶ(入らない人もいます)という仕組みがあります。医療が民間に委ねられる部分が日本より大きいため、多様なサービスが産まれ、CMなどでどんどん情報も発信されます。

先ほどお話したような「情報格差」が産まれやすい素地はありますが、医療費負担が自分に返ってくる環境だからこそ、自ら正しく必要なものを選ばないといけないという意識を持って、適切な知識をつけようとしている人が多いと感じます。

もちろん医療は専門性が強く、精度の高い選別眼を持つことは難しい分野です。ただ、医療における選択は、自分や大切な人の一生を大きく左右しうる非常に重要なもの。医師をはじめ医療従事者と治療の方針を話し合い、納得できる選択をするには、一人ひとりがある程度の基礎知識と関心を持つことが必要なのではないでしょうか。私はこの基礎知識と関心とを併せて「医療リテラシー」と呼んでいます。

しかし、日本人が医療リテラシーを持つには、1つの壁があります。日本の現状では、積極的に医療の知識を学んだり触れたりする機会がほとんどないということです。

私がアメリカの小児病院に留学して驚いたのは、日本と比べて、医薬品や病院を含めて医療関係の電車広告やテレビCMを見る機会がすごく多いということでした。これは、日米の医療の仕組みの違いが関係しています。

日本は、どの医療機関でも高い水準の医療が安く受けられる「国民皆保険制度」が充実していますが、その代わりに「医療=公的なもの」として、広告を含め、医療が様々なルールで行政にコントロールされています。反対にアメリカは、公的な医療保険の対象が高齢者などに限られているため、民間保険への加入も含め、全てが個人の責任に委ねられています。保険に未加入で病院にいけば、数百万円の高額な請求が来ることもあります。

しかし、だからこそアメリカでは、積極的に情報を取りに行き、サービスを使いこなさなければという意識が働きやすくなります。CMなどで医療情報が身近にあることで、治療や薬のおおよその金額感など、最低限の医療リテラシーが身につきやすい環境でもあります。

どんな医療を受けたいか、10代から考えられる世界に

日本の環境はアメリカとは大きく違います。医療が電気や水道と同じように「当たり前」のものとして存在するのは素晴らしいことですが、逆を返せば、強く意識しないと、自分や周囲の人が病気にかかるまで、医療を自分ごととして考えづらい環境でもあるということです。

もちろん、日本の医療システムは、誰もが高い品質の医療の恩恵を受けられる素晴らしい仕組みです。しかし少子高齢化が進む中で、今後も同じ仕組みを継続することは難しいとみられています。医療費の増大を防ぐために、診療プロセスの最適化、不要な治療や検査の削減などは必須になるでしょう。こうした動きにはテクノロジーが欠かせません。

例えば、「50代男性の生活習慣病の患者の50%がきちんと治療をしていない」というレポートがありますが、ここでオンライン診療を活用すれば、通院が途切れがちな患者の治療継続を支援でき、重症化を防ぐことができるかもしれません。もしそれができれば、長期的には医療費が確実に削減できますよね。

しかし、こうしたテクノロジーの変化を世の中が受け入れ、多くの人が正しく使いこなすためには、まず医療リテラシーの底上げが必要だというのは先にお伝えした通りです。個人的には、例えば小中学校の授業のなかで、救急病院を見学しながら自分や家族の受ける医療について考えたり、教育の中に医療を取り入れていくのも一つの施策ではないかと考えています。

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